ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
気象観測所。
ハンス・シュタイナー中尉は、アンテナの氷を叩き落とす作業の手を止め
南西の吹雪の方向を睨みつけていた。
【ジオン側(穴熊部隊)】
「中尉、どうしました? 氷が厚すぎますか?」
屋根の上で凍える“ルーキー”クェン兵長が尋ねる。
「……いや。気のせいかもしれんが、連邦の索敵電波を感じた」
ハンスは、ゴーグルを外し、雪で赤く腫れた目で吹雪を見つめた。
「あの『コーチ』が、この猛吹雪の中、我々を追ってこられるはずがない。
……だが、奴ならやるかもしれん」
ハンスは、ザクタンクの通信で
観測所内で待機する“ビッグX”准尉に命じた。
『ビッグX。観測所の周囲に仕掛けた
『へっ。懲罰任務の末に凍え死ぬのが関の山だろうに。……了解だ、中尉』
ビッグXは、観測所の影からザクII J型を静かに動かし、南西の
ハンスは、屋根の上から、雪に覆われた荒野をじっと見下ろした。
(コーチ殿。もし、あんたがここに来れば、我々の『逃走』は失敗に終わる。
だが、あんたの『生還』も危うい。……これは、あんたが自ら選んだ『罰』だぞ)
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
「3キロ……! 確実に、奴らだ!」
カツオ・イトウ少尉は、再びエンジンを始動させ、ジムを立ち上がらせた。
凍結した関節が軋むが、目標を捉えたことで、彼の全身に新たな活力が戻ってきた。
「アキラ! 奴らは屋根の上で何かを整備している! 恐らく、長距離通信機だ!」
「通信機だと!? そんなもん使わせるか!」
アキラ伍長もまた、カツオの言葉に奮い立ち、機体を起動させた。
カツオは、アキラに冷静に指示を出す。
「いいか、アキラ。弾薬は極限まで温存だ。俺たちの目的は、奴らを『撃破』することじゃない。奴らの『通信』を阻止し、奴らをこの観測所に釘付けにすることだ!」
「釘付け? なんでだよ、コーチ! 撃っちまえば終わりじゃねえか!」
「違う。この吹雪の中、俺たちが本格的な戦闘を始めれば、すぐにエネルギーが尽きる。
それこそが、奴らが望む『泥沼』だ」
カツオは、心理学者の目で、ハンスの戦術を読んでいた。
「奴らは、通信機の修復が終われば、この観測所を捨てて逃げる。俺たちは、その通信機を狙い 奴らに『撤退を躊躇させる』ための、
カツオは、陸戦型ジムの武装で
唯一残っている数発のハンドグレネードを握りしめた。
「接近しろ、アキラ! ステルス移動だ! 奴らは俺たちが来ることを予期している!」
二機の陸戦型ジムは、吹雪と雪の凹凸を完璧に利用し、音を殺して観測所に接近した。
アキラの操縦技術とカツオの地形利用の知識が、絶妙に融合していた。
距離1キロ。
アキラが、わずかな熱源を探知した。
「……コーチ! 前方、稜線の上だ! 熱源反応! ザクII J型!」
カツオの予想通り、ハンスは迎撃部隊を配置していた。
「ビッグXか……! 待っていたな!」
カツオは、すぐに戦闘態勢には入らなかった。
「アキラ。お前はそのまま前進。俺は右の谷筋に回り込む」
「はあ!?俺一人で行かせんのかよ!?」
「違う。奴の『予測』の裏をかく。
ビッグXは、俺たち二機が正面から突っ込んでくることを予測し
有利な高台で待ち構えているはずだ」
カツオは、陸戦型ジムのヘッドライトを消した。
「俺は、ビッグXに『警戒』させるための囮だ。
お前はそのまま、あの観測所へのルートを確保しろ!
そいつを使うのは、俺が囮になって、奴が動いた後だ!」
稜線で待ち構える、ザクII J型のコックピット。
“ビッグX”准尉は、雪と闇の中で、連邦MSの接近を待っていた。
「……ハッ! 待ちきれずに来たか、コーチ・イトウ!」
ビッグXは、双眼センサーで、雪の中に動く
カツオの陸戦型ジムの微かな影を捉えた。
その影は、正面から高台に駆け上がってくるのではなく
谷筋の最も視界の悪い場所を、慎重に回り込もうとしていた。
「チッ。やはり、頭を使う真似をしやがる!」
ビッグXは、カツオの行動を『迎撃の裏をかこうとしている』と判断した。
「正面から来るならまだしも、回り込まれたら厄介だ!
……中尉の命令通り、『挨拶』してやる!」
ビッグXは、カツオ機が回り込む谷筋に、ヒート・ホークを投擲した。
ズバァァン!
雪を巻き上げ、熱い斧が雪原に突き刺さる。
「……チッ!避けられたか!」
ビッグXが舌打ちした、その瞬間。
正面から、アキラの陸戦型ジムが、全速力で突っ込んできた。
「舐めんなよ、顔に傷のある野郎!」
ビッグXは、正面の攻撃を完全に警戒から外していた。
「……バカな!正面……だと!?」
アキラの陸戦型ジムは、ハンドグレネードを一発投擲し、ビッグXの足元で爆発させた。
ドォン!
爆風で機体が傾いた一瞬、アキラはビッグXの横をすり抜け、観測所へと突進していった。
カツオは、谷筋に投げられたヒート・ホークの熱が冷めない雪の中で、安堵の息を吐いた。
(……よし。ビッグXは動いた。あとはアキラ、頼むぞ!)
観測所の屋根。
ハンス・シュタイナーは、正面の攻防を見て、事態を把握した。
「……ビッグXは、囮に気を取られたか!
やはり、コーチ殿は来た!ルーキー!整備を中止!迎撃体制!」
ハンスは、ザクタンクの砲塔を、観測所に突っ込んでくるアキラの陸戦型ジムに向けた。
しかし、その砲口は、沈黙したままだった。
ハンスの唯一の武器は、MSの『