ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
観測所の攻防は、まさに『プロ』同士の心理戦の最終局面だった。
カツオは、ハンスの『工兵としての合理性』を読み
ハンスは、カツオの『学者としての非情さ』を読んでいた。
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
「観測所、発見! ハンスのザクタンクは屋根の上だ!」
“大食い”アキラ伍長は
突進するザクタンクのキャタピラが雪を巻き上げる音を、通信で報告した。
ハンスのザクタンクが、屋根の上からアキラ機に向かって、その巨体を傾けた。
(
アキラは驚愕した。
「舐めんな、ジジイ!」
アキラは、僅かに残っていたハンドグレネードを一発取り出し、屋根に向かって投擲。
ドォン!
爆発はザクタンクの装甲には通じないが
その爆風で屋根のアンテナが大きく揺れた。
『ぎゃああ!』
アンテナの影から、慌てて飛び降りてくる“ルーキー”クェン兵長の旧ザク。
「通信機だ! 奴らの目的は通信機!」
アキラは、屋根への攻撃を続行した。
しかし、ハンスのザクタンクが通常マニピュレーターで
そのアンテナをまるで我が子を守るように抱きしめた。
『馬鹿な真似はやめろ、コーチ殿! アンタの目的はなんだ!』
ハンスの声が、荒々しく、しかし明確に響き渡った。
「目的は、あんたを逃がさないことだ、ハンス・シュタイナー!」
アキラのジムは、観測所の壁面で急停止し、マシンガンを構えた。
弾薬の残量は、ドラム缶の底を掻くほどしかない。
雪の稜線。
“ビッグX”准尉のザクII J型は
正面を抜かれた屈辱に、怒りを露わにしていた。
『クソッ!あのガキ、俺を侮辱したな!』
ビッグXは、谷筋に転がっていたヒート・ホークを回収し、観測所へ急いだ。
その谷筋。 カツオ・イトウ少尉は
再び陸戦型ジムのエンジンを停止させ、静かに息を潜めていた。
(ビッグXは、アキラを追って観測所へ向かった。これで、観測所は完全に孤立した……)
カツオは、ザクタンクの通信を思い出した。
(『アンタの目的はなんだ!』……ハンスは、俺に『戦闘』ではなく『対話』を求めている)
カツオは、全エネルギーの1%を使い
陸戦型ジムの脚部に微弱なスラスター噴射を命じた。
雪に埋もれた陸戦型ジムは、ほとんど音を立てずに
観測所の地下駐車場入口へと向かった。
観測所内部。
ハンスのザクタンクは
アキラの陸戦型ジムと対峙したまま、動けずにいた。
通信機を守るため、屋根から離れられない。
ドゴォォォォン!
突然、観測所の地下から、鈍い爆音が響き渡った。
それは、対MS用の榴弾ではなく、岩盤を揺るがすほどの、精密な起爆だった。
『な、なんだ!? 地震か!?』
ルーキーの旧ザクが、怯えて叫ぶ。
『中尉! 地下駐車場が……!』
ビッグXが、屋根に上がる途中で地下の異変に気づき、叫んだ。
カツオの陸戦型ジムが
地下駐車場の崩れた入口から、煙を上げながら這い出てきた。
カツオは、陸戦型ジムのハンドグレネードを
地下へのトンネルの入口を崩すために使ったのだ。
カツオは、外部スピーカーで、ハンスに向かって叫んだ。
『ハンス中尉! あんたたちの『逃げ道』は、塞いだぞ!』
カツオの陸戦型ジムと、ハンスのザクタンク。
そして、アキラ、ルーキー、ビッグXの三機が
観測所の広場で、五角形を形成した。
ハンスは、観測所の屋根から
ザクタンクのマニピュレーターを掲げた。
『……見事だ、コーチ殿。そこまでやるか。
……通信機を守りながら、地下の逃走ルートを崩す。
……これが、あんたの『仁義』か』
カツオは、陸戦型ジムのマシンガンを構えたまま、答えた。
『これは「仁義」じゃない。……これは、あんたへの「確認」だ、ハンス中尉』
「……確認だと?」
ハンスが、カツオの言葉の意図を測りかねた。
「そうだ!」
カツオは叫んだ。
「俺は、あんたが、E-2エリアで死んだあの少年兵たちと、同じ末路を辿るのが許せなかった!」
「あんたは『プロ』だ! あんたの『工兵の才能』は
あんな狂気の中で無駄に消費されるべきじゃない! あんたの戦場は、ここじゃない!」
カツオは、最後の賭けに出た。
「ハンスの部下ども! 武器を捨てろ! 俺たちに弾はない!
あんたたちも、戦闘するだけのエネルギーは残っていないはずだ!
今すぐ、この観測所を放棄しろ!」
五機のMSが、互いの残存エネルギーの限界を理解し
凍てついた雪原で、最後の賭けに出た。