ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第21話 代償と新たな首輪 (The Price and the New Leash)

ハンス・シュタイナーの部隊が東の吹雪に消えてから、約1時間。

 

旧地熱発電所の広場には、エネルギーが完全に尽き

 

沈黙した二機の陸戦型ジムだけが取り残されていた。

 

【連邦側(ホッジポッジ隊)】

 

「……コーチ。マジで……帰れんのか、俺たち」

 

アキラ伍長の声は、コックピットの寒さで震えていた。

 

ヒーターが切れ、機体は急速に冷え切っていく。

 

「あのジジイどもは逃げ切ったかもしれねえが、俺たちはここで『遭難』完了だ。

……腹減った……」

 

カツオ・イトウ少尉も、疲労困憊の体で操縦桿を握りしめていた。

 

(……ハンスは逃した。だが、アキラは生きている。俺の『賭け』は……)

 

カツオの思考は、満足感と、迫りくる死の寒さで朦朧としていた。

 

「……アキラ。外部スピーカーを起動しろ。最後のエネルギーだ」

 

「は? 何すんだよ」

 

「『SOS』だ。……俺たちの『遭難』は、もう芝居じゃない。現実だ」

 

二機のジムが、か細い救難信号を発信し始めた。

 

E-2エリアのバリス大尉の管轄(エリア)から、遥か東。

 

東部方面軍の管轄(エリア)のど真ん中で。

 

その6時間後。

 

カツオは、強烈なサーチライトの光で目を覚ました。

 

陸戦型ジムのハッチが強制的に開けられ

 

見知らぬヘルメットの兵士が、銃口を向けながら叫んでいた。

 

「――所属不明機! パイロットは手を上げてゆっくりと降りろ! 抵抗すれば撃墜する!」

 

それは、E-2の仲間ではなかった。

 

カツオの「SOS」は

 

ハンスを追うはずだった「東部方面軍」の正規の掃討部隊に受信されたのだ。

 

 

さらに12時間後。

 

カツオとアキラは、輸送機でE-2エリアに「送還」されていた。

 

疲労と軽い凍傷でよろめきながら

 

二人はバリス大尉の前に立たされていた。

 

バリスは、彼らにコーヒーを差し出すでもなく

 

ただ冷たい目で二人を見据えていた。

 

「……東部方面軍の連中は、カンカンだったぞ」

 

バリスが、静かに切り出した。

 

「『敵地のど真ん中で、所属不明の陸戦型ジムが二機、呑気に遭難していた』と。

『E-2の部隊は、何を遊んでいるのか』……とな」

 

「……面目次第もありません」

 

カツオが答える。

 

「面目だけの問題ではない、イトウ少尉」

 

バリスは、一本の通信文書をデスクに放り投げた。

 

「ドクトル・オーウェンと、貴様の部下のタカシとリツコは、命令通り帰投した。

彼らの報告によれば、『目標(ハンス)は山脈の東側に逃亡』したと。

……そして貴様らは、追撃中に『通信途絶、消息不明』となった」

 

バリスは、カツオの目を真っ直ぐに射抜いた。

 

「……そして、貴様ら二機が『発見』されたのは

その山脈から、さらに東へ50キロも離れた地熱発電所だ。

……貴様ら、あの『穴熊(ハンス)』と、接触したな」

 

アキラが、ビクリと体を震わせた。

 

カツオは、動揺を隠し、静かに答えた。

 

「……はい。接触しました」

 

「なぜ報告しなかった」

 

「……交戦しました。弾薬もエネルギーも尽き、追撃不能と判断。

帰投中に、猛吹雪により遭難しました」

 

カツオは、ハンスを「見逃した」という、決定的な事実だけを伏せた。

 

「嘘をつけ」

 

バリスは、即座に見抜いた。

 

「貴様のその目は、E-2で狂った少年兵を撃った時の目じゃない。

第7基地で、あのワセン大尉を出し抜いた時の目でもない。

……あの醸造所で、無血投降させた時と同じ、『何かを成し遂げた』目だ」

 

バリスは立ち上がり、カツオの胸倉を掴まんばかりの勢いで詰め寄った。

 

「貴様は、奴に『仁義』でも売ったのか?

あの『プロ』の工兵に、何か『心理学』の講義でもしてきたのか!?」

 

「……」

 

「答えろ、イトウ少尉!」

 

「……私は」

 

カツオは、バリスの目を真っ直ぐに見返した。

 

「私は、ハンス・シュタイナーが

E-2の狂気の中で無駄死にすることを、『良し』としなかっただけです。

……彼を生かすことが、この戦争の『最良の判断』だと信じました」

 

「……貴様……!」

 

バリスが、カツオを殴ろうと拳を振り上げた、その瞬間。

 

『大尉! 東部方面軍司令部より、緊急入電!』

 

オペレーターの声が、テントに響き渡った。

 

 

バリスは、忌々しげに拳を下ろし、通信端末を掴んだ。

 

東部方面軍からの通信内容は、簡潔だった。

 

『――貴官の部下(ホッジポッジ隊)が提出した

鉱山鉄道の地下ルート及び、ハンス・シュタイナーの行動予測データは、極めて正確であった。

……だが、目標は、その予測ルートから逸脱した』

 

バリスの顔色が変わった。

 

『奴らは、観測所を放棄した後、東へは向かわず、南下を開始した模様。目的不明。

……E-2は、直ちに、南下するハンス部隊の追跡任務に復帰せよ』

 

バリスは、受話器を叩きつけるように置いた。 彼は、カツオを睨みつけた。

 

「……イトウ少尉。貴様が『見逃した』あの数時間で

奴は、俺たちの予測の、さらに裏をかいた」

 

ハンスは、カツオの「仁義」を受け入れたフリをしていたのだ。

 

東へ向かうと見せかけ、カツオたちが去った直後に、南へと進路を変えていたのだ。

 

「……」

 

カツオは、言葉を失った。

 

(ハンス中尉……。あんたは、俺の『情け』すらも、利用したのか……!)

 

「どうやら、貴様の『心理学』の授業は、あの穴熊(ハンス)には、まだ早すぎたようだな」

 

バリスは、カツオに新しい命令書を突きつけた。

 

「イトウ少尉。貴様らホッジポッジ隊は、全機、修理と補給を最優先で受ける。

……そして、24時間後、南下したハンス・シュタイナー部隊を、全力で追撃・殲滅せよ」

 

それは、カツオにとって、最大の「懲罰」だった。

 

一度は救おうとした「プロ」を、今度は、この手で「狩り尽くす」任務。

 

カツオとハンスの、本当の「最下層」での戦いが、再び始まろうとしていた。

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