ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
E-2エリアのドックは、久しく聞くことのない高出力の整備音に満ちていた。
カツオとアキラの陸戦型ジムは、凍傷を負った獣が治療を受けるように
徹底的なオーバーホールを受けていた。
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
「……信じられません、少尉!」
管制トレーラーで再会した“メガネ”タカシ軍曹は、安堵よりも非難の色を濃くしてカツオに詰め寄った。
「ドクトル・オーウェンと帰投した後、AIで少尉たちの生存確率をシミュレートしました。
結果は、8.7%。……無謀すぎます! 合理的な判断ではありません!」
「生きててよかった、なんて言えないわよ!」
“紅一点”リツコ伍長も、目の下に隈を作りながら叫んだ。
「こっちがどれだけ心配したと……!」
「……すまない」
カツオ・イトウ少尉は、それしか言えなかった。
「コーチがムチャすっから、俺まで面倒に巻き込まれたんだぜ!」
アキラ伍長が、配給されたばかりのレーションをかき込みながら、悪態をつく。
「だが……」
アキラは、新品同様に関節部が調整され
弾薬を満載された自分の陸戦型ジムを見上げた。
「……弾も燃料も気にせず撃てるってのは、いい気分だ。
今度こそ、あの『顔に傷のある野郎』に借りを返せるぜ」
カツオは、彼らから少し離れた場所で
バリス大尉から渡された新たな「殲滅」命令書を握りしめていた。
(ハンス・シュタイナー中尉……。あんたは、俺の『情け』すらも、利用したのか)
雪原での対話、プロへの敬意、そして「無駄死にさせたくない」という自分の判断。
それら全てが、ハンス・シュタイナーという男の手のひらで踊らされていたかのような
屈辱感が込み上げていた。
(俺は、彼を……プロを、E-2の消耗品と同じ末路に導くのか……?)
【ジオン側(穴熊部隊)】
その頃、空白地帯を「南下」する四機のジオンMS。
吹雪の雪山は、すでに彼らの背後、遥か北にあった。
目の前に広がるのは、赤茶けた大地と
不気味なほど静かな、旧時代の軍事演習場跡地だった。
「……中尉、なぜ南へ?」
“教授”ビタム曹長が、旧ザクのコックピットから問いかける。
「あの観測所で東部方面軍の通信を傍受した限り
東へ向かえば、補給を受けられる可能性があったはずです」
「東は罠だ」
ハンス・シュタイナー中尉は、ザクタンクのキャタピラで乾いた大地を踏みしめながら、即答した。
「あの『コーチ』が、俺たちの情報を東部方面軍に渡したに決まっている。
東へ行けば、奴らの予測通りの『掃討作戦』に巻き込まれるだけだ。
……あのガキは、俺に『仁義』を切ったつもりだろうが
同時に連邦軍の『猟犬』でもあることを忘れてはならん」
「だがよ、中尉!」
“ビッグX”准尉のJ型が、苛立たしげに割り込む。
「南に何があるってんだ! 見渡す限り、クソみてえな荒野じゃねえか!」
「ああ。地上にはな……」
ハンスは、古い地質図をコックピットのモニターに映し出した。
「だが、地下にはある。
……南は、連邦軍が『資源価値なし』として放棄した、旧時代の核実験場跡地だ。
ハンスは、地図上の一点を指さした。
「……我々が使うべき『道』が残っている。旧体制時代の、大陸間弾道ミサイル(ICBM)用の
巨大な地下トンネル網だ」
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
E-2エリア、作戦室。
カツオは、タカシのAIと共に、ハンスの進路を再分析していた。
「なぜ南だ? 南には何もない。ただの荒野だ。……いや、違う」
カツオの目が、ハンスとの心理戦を再開していた。
「何もないからこそ、南なんだ。
タカシ、そのエリアの古い地質図、地下構造図をAIでスキャンしろ!
旧体制時代の軍事施設、特に『地下』のものだ!」
「……検索中。……出ました! 少尉、これは……!」
タカシが、驚愕の声を上げた。
「旧時代の……地下弾道ミサイル用の、巨大な地下トンネル網です。
ハンスは、また地下に潜るつもりです!」
カツオは、モニターに映し出された複雑な地下迷路を見つめた。
(やはり、あの人は『穴熊』だ……。戦闘ではなく、工兵として生き延びようとしている。
俺の裏をかいたのも、俺を殺すためじゃない。生きるためだ!)
カツオの目に、迷いを振り切ったような光が宿った。
彼は、バリス大尉の執務室に向かって走り出した。
「バリス大尉!」
カツオは、作戦室に飛び込み、叫んだ。
「ハンスの目的地が判明しました! 追撃ルートは、地上ではありません。
我々も、地下から追います!」
バリスは、コーヒーを飲んでいた手を止め、カツオの顔を見た。
(……やっと『
バリスは、ニヤリと笑った。
「許可する。今度こそ、『穴』の出口を塞いでこい。……いや、穴の中で、狩り尽くしてこい」