ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

27 / 92
第26話 猟犬の代償、狩人の選択 (The Hound's Price and the Hunter's Choice)

ドゴォォォン!!

 

ICBMサイロの地下搬入口から

 

二度目の爆発音と共に、黒煙と土砂が逆流してきた。

 

アキラ伍長からの通信は

 

断末魔のようなノイズを最後に、完全に沈黙した。

 

 

【地下(アキラ)】

 

時は爆発の瞬間まで遡る―――

 

 

「死ねよ、デブがァ!」

 

“ビッグX”准尉のザクII J型が、天井から振り下ろしたヒート・ホーク。

 

それは、アキラの陸戦型ジムの左肩を捉え

 

装甲をバターのように切り裂き、シールドごと腕部を切断した。

 

「う、うわああああああ!」

 

衝撃と火花が、アキラのコックピットを襲う。

 

だが、死の恐怖に直面したアキラは

 

もはやE-2エリアの狂気の少年兵と何ら変わりなかった。

 

(死ぬか! クソが! コーチ! 母ちゃん!)

 

アキラは、恐怖に任せて

 

まだ生きている右腕の100mmマシンガンのトリガーを、引き続けた。

 

 

ダダダダダダダダッ!!

 

 

至近距離。

 

天井に張り付いたままのビッグXに向かって、ゼロ距離で弾丸が叩き込まれる。

 

「なっ!? この土壇場で!」

 

ビッグXは、ヒート・ホークを振り抜いた体勢で、回避が遅れた。

 

数発の弾丸がJ型の脚部関節とスラスターを抉る。

 

さらに、アキラの乱射した弾丸が

 

旧時代のトンネルの天井を支えていた鉄骨に命中。

 

キィィィン!

 

致命的な金属音と共に、十字路の天井が崩落を開始した。

 

「チッ! 自爆しやがったか!」

 

ビッグXは、アキラ機にとどめを刺すのを諦め、損傷した脚部を引きずりながら

 

崩落から逃れるようにルーキーたちが逃げた先、トンネルの奥へと急いだ。

 

数秒後。

 

アキラの陸戦型ジムは

 

切断された左腕と、大量の瓦礫に埋もれ、完全に動けなくなっていた。

 

コックピットは無事だったが

 

無線は死に、メインモニターは「ERROR」の文字を点滅させている。

 

残されたのは、暗闇と、自分の荒い呼吸音、そして滴る水の音だけだった。

 

「……ハァ……ハァ……。クソ……。あの野郎……逃げやがった……」

 

アキラは、震える手でレーションの袋を探した。

 

「……コーチ……。腹……減った……」

 

 

【地上(カツオ)】

 

カツオ・イトウ少尉は、地下から噴き出す黒煙の前で

 

膝から崩れ落ちそうになるのを必死でこらえていた。

 

ハンス・シュタイナーは、その様子を、拘束された腕のまま静かに見つめていた。

 

「……これが『戦争』だ、コーチ殿」

 

ハンスの声は、淡々としていた。

 

「あんたは『合理的』に俺を捕らえた。

 だが、戦争は、あんたの部下のように『非合理』な感情で動いている。

 ……あんたは、その代償を払った。それだけだ」

 

「……黙れ!」

 

カツオは、ハンスを管制トレーラーへと乱暴に突き飛ばした。

 

「タカシ軍曹、リツコ伍長! 捕虜を厳重に監視しろ! 抵抗すれば、撃ってもいい!」

 

「しょ、少尉! アキラ伍長は……!?」

 

リツコが悲鳴を上げる。

 

「まだだ!」

 

カツオは、自分の陸戦型ジムに駆け寄った。

 

「タカシ! 救難装備と予備バッテリーを! アキラを救出する!」

 

カツオが、瓦礫で塞がりかけた地下トンネルへ、再び陸戦型ジムで入ろうとした、その瞬間。

 

管制トレーラーから、タカシの必死の呼びかけが響いた。

 

『少尉! ダメです! E-2司令部、バリス大尉から緊急通信! 回線、繋ぎます!』

 

 

『――イトウ少尉! 聞こえるか!』

 

バリスの、いつもの疲弊した声とは違う、鋼のような声が響いた。

 

「大尉! アキラ伍長が地下で……!」

 

『黙って聞け!』

 

バリスは、カツオの言葉を遮った。

 

『貴様の任務は、ハンス・シュタイナーの捕縛。並びに、穴熊部隊の殲滅だ。

 ……ハンスは捕らえた。だが、残党三機は、地下トンネル網に逃走した。そうだな?』

 

「はっ……! ですが、アキラ伍長が!」

 

『イトウ少尉。貴様の部下は、『任務中』に『戦死』もしくは『MIA』した可能性が高い。

 それ以上でも、それ以下でもない』

 

バリスの言葉は、非情だった。

 

『貴様に新たな任務を告げる。

 ……捕虜ハンス・シュタイナーを伴い、直ちに地下トンネル網へ侵入せよ』

 

「……は?」

 

カツオは、言葉の意味が理解できなかった。

 

『ハンスは【穴熊】だ。奴以上に、あの地下迷宮を知る者はいない』

 

バリスは、冷酷に続けた。

 

(ハンス)をコックピットに乗せろ。そして、仲間たちが逃げた場所へ『道案内』をさせろ』

 

「大尉! それは! 捕虜の虐待であり、ジュネーブ条約に……!」

 

『ここはオデッサの最下層(アンダードッグ)だ、コーチ!』

 

バリスの怒号が響いた。

 

『甘ったれた心理学(ルール)は、ジャブローに置いてこい!

 (ハンス)の仲間を狩り尽くすまで、貴様の任務は終わらん!

 ……アキラ伍長の『』を討ちたくないのか?』

 

カツオは、戦慄した。

 

これは、命令であり、同時に「悪魔の囁き」だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。