ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
『
バリス大尉の命令は、ICBMサイロの寒々とした風よりも冷たく
カツオ・イトウ少尉の精神を凍てつかせた。
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
「大尉! お待ちください!」
カツオは、まだアキラが埋もれているはずの
黒煙が燻る地下トンネルを振り返り、叫んだ。
「アキラ伍長は、まだ生存している可能性があります! 救出が最優先です!」
『貴様の任務は「救出」ではない。「殲滅」だ』
バリスの返答は、一切の情を含んでいなかった。
『だが、よく考えろ、イトウ少尉。
貴様が「救いたい」部下と、貴様が「狩るべき」敵は、同じ『穴』の中にいる。
……救いたければ、まず敵を叩け。これは、貴様があの雪山で招いた事態の『清算』だ』
通信が切れた。
カツオは、唇を噛みしめた。
バリスの言う通りだった。
アキラを救うためには、いずれにせよ、この危険な地下迷宮に再び入るしかない。
だが、その隣に、この宿敵を乗せて……。
「……少尉……」
管制トレーラーから駆け寄ってきたリツコ伍長が、青ざめた顔でカツオを見上げた。
「……大尉の命令、本当に……」
「……ああ。聞こえた通りだ」
カツオは、拘束したハンス・シュタイナーを、陸戦型ジムのコックピットへと引きずっていった。
(ここが……俺の『
ジムのコックピットは、本来一人用だ。
補助席などない。
カツオは、ハンスをパイロットシートの後ろの狭い空間(整備用スペース)に強引に押し込めた。
ハッチが閉まり、コックピットが密室となる。
「……コーチ殿」
暗闇の中、ハンスが低い声で呟いた。
その声は、焦げ臭い作業服の匂いと共に、カツオの背中を刺した。
「あんたの『心理学』の教科書には、この状況は載っていたか?」
「……黙れ」
カツオは、メインモニターに映る、塞がったトンネルの入り口を睨みつけた。
「あんたが、あの時ビッグXを止めなかったせいだ。アキラは……!」
「違うな」
ハンスは、背後で静かに息を吐いた。
「あんたが、部下の『怒り』をコントロールできなかったからだ。
……そして今、あんたは『上司』の『怒り』にコントロールされている」
「黙れと言った!」
カツオは、ビーム・サーベルを起動させた。
陸戦型ジムの右手が、高熱の光刃を発生させ、黒煙が燻る瓦礫の山に突き刺さる。
ジュオォォォ……!
「タカシ軍曹!」
カツオは、管制トレーラーに通信を入れた。
「アキラが埋まったおおよその座標をAIで算出! 逐次、俺のモニターに送れ!」
「リツコ伍長! 俺とハンスのこのコックピット内の会話……
そしてバリス大尉との通信、全て録音しろ!
これは、俺たちが『命令』で動いていることの『証拠』だ!」
『……了解! 録音、開始します!』
カツオは、陸戦型ジムの出力を上げた。
「ハンス・シュタイナー。あんたには、拒否権はない。
これから、俺の『目』と『耳』になってもらう。
あんたの部下たちがどこへ逃げたか、『穴熊』のカンで教えろ」
「……フン。教えたら、あんたは仲間を救い、俺の仲間を殺すのか」
「そうだ」
「……いいだろう。この狭い棺桶の中で、どのみち俺にできることはない」
ハンスは、カツオの背中に向かって、静かに言った。
「だが、一つだけ忠告しておく、コーチ殿。
……この『ICBMトンネル』は、あんたが知っている鉱山鉄道とは違う。
ここは、旧時代の『亡霊』が眠る場所だ。
……ビッグXの狂気より、あんたの上司の非情さより、もっと恐ろしいものがな」
カツオは、ハンスの不気味な警告を無視し、ビーム・サーベルで瓦礫をこじ開けた。
再び、漆黒の闇が、陸戦型ジムの前に口を開ける。
宿敵をコックピットに乗せたまま
カツオは、アキラの救出と、ハンスの仲間たちの殲滅という、二つの任務を遂行するため
暗黒の地下迷宮へと、再び侵入していった。