ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第28話 迷宮の亡霊 (Ghost of the Labyrinth)

陸戦型ジムのコックピットは、二人分の熱気と、男たちの息遣い

 

そしてハンスの作業服の焦げ臭い匂いで満たされていた。

 

カツオ・イトウ少尉は

 

パイロットシートの後ろに「獲物」であり「道案内」でもある宿敵の気配を感じながら

 

ビーム・サーベルでこじ開けた瓦礫の奥、ICBMトンネルの暗黒へと機体を進めた。

 

 

【地下(カツオとハンス)】

 

ゴゴゴゴ……

 

陸戦型ジムの駆動音が、広大な地下トンネルに反響する。

 

ヘッドライトが照らすのは

 

MSが三機は並んで歩けそうな、旧時代の巨大なコンクリートの道だった。

 

『少尉! AIの分析によれば、このメインルートは南東へ50キロ続いています!』

 

地上に残った管制トレーラーから、タカシ軍曹の懸命なサポート通信が入る。

 

『アキラ伍長の爆発地点は、このルートから分岐したレベル2(第二階層)の整備通路と予測されます!』

 

「……ハンス中尉」

 

カツオは、背後の闇に声をかけた。

 

「あんたの仲間は、どこへ逃げた」

 

「……」

 

ハンス・シュタイナーは、狭い整備スペースで体を丸めながら

 

カツオの操縦席にあるモニターを眺めていた。

 

「……このメインルートは『罠』だ」

 

「何?」

 

「旧時代のトンネルだ。換気システムは、とうの昔に死んでいる。

 重いガス、いわゆる毒ガスが溜まっているはずだ。ビッグXは、そんな場所で長居はせん」

 

ハンスは、モニターに映る分岐路の一点を、拘束された手の指先で指し示すような仕草をした。

 

「奴なら、レベル3(第三階層)の『管理用ダクト』を使う。空気の流れがある、獣道だ」

 

カツオは、一瞬ためらった。

 

アキラは、レベル2。

 

ハンスの仲間は、レベル3。

 

バリス大尉の「殲滅」命令と、アキラの「救出」という私情。

 

カツオの心が、二つに引き裂かれる。

 

「……まず、レベル2へ向かう」

 

カツオは、アキラの救出を優先した。

 

「タカシ、レベル2への最短ルートを!」

 

『……了解! 次の分岐を右です!』

 

陸戦型ジムが、メインルートを外れ、レベル2の瓦礫だらけの狭い整備通路へと入っていく。

 

それを見ながら、ハンスは、カツオの背中に向かって、冷たく呟いた。

 

「……コーチ殿。あんたは、また判断を間違えるかもしれんな」

 

「なんだと?」

 

「あんたの部下(アキラ)は、俺の部下(ビッグX)の『獲物』として、あの十字路に落ちた。

 だが、俺の部下(ビッグX)は、そこから『自分たちの逃げ道(レベル3)』へ向かったはずだ。

 ……あんたは今、誰もいない穴に向かっているかもしれんぞ?」

 

 

【地下(アキラ)】

 

ピ……ピ……ピ……

 

アラート音で、アキラ伍長は意識を取り戻した。

 

「……う……」

 

コックピットは、激しい衝撃で右側に傾き、メインモニターは砂嵐のまま。

 

左腕を失ったジムは、完全に沈黙し、瓦礫に半ば埋まっていた。

 

残っているのは、非常用の生命維持装置だけだった。

 

「……クソ……。生きて……るのか、俺」

 

アキラは、シートベルトを外し、コックピットの床に転がり落ちた。

 

「……あの、顔に傷のある野郎……!殺してやる……!」

 

怒りで体を奮い立たせたが、すぐに現実に戻される。

 

通信機は、死んでいる。

 

ハッチを開けようにも、機体は瓦礫に埋まり、開かない。

 

「……コーチ……。タカシ……リツコ……」

 

初めて、孤独な死の恐怖が、アキラを襲った。

 

「……腹、減った……」

 

アキラは、恐怖をかき消すように

 

シートの下に隠していた最後の非常食(レーション)を取り出し、震える手で封を切った。

 

暗闇の中、レーションをかじる音だけが響く。

 

その時。

 

カサ……カサカサ……

 

アキラは、レーションをかじる手を止めた。

 

「……ネズミか……?」

 

ガリッ、ガリッ……。

 

ネズミではない。

 

もっと重く、機械的な音。

 

それは、アキラが埋まっている瓦礫の向こう側から聞こえていた。

 

(ビッグXか!? 戻ってきたのか!?)

 

アキラは、息を殺した。

 

ガリッ……キィィ……。

 

違う。MSの音ではない。

 

もっと小さく、複数で、這いずるような……。

 

アキラは、ハンスがカツオに警告した『亡霊』のことを思い出した。

 

それは、ジオン残党でも、連邦軍でもなかった。

 

このICBMサイロが、旧時代に「生きて」いた頃の

 

自動防衛システム(Automated Defense System)だったのだ。

 

人間の管理を離れ

 

数十年もの間、侵入者を待ち続けていた、旧時代の「機械の番犬」たちだった。

 

ピピッ。

 

瓦礫の隙間から、アキラの陸戦型ジムを捉える

 

無機質な赤い「照準レーザー」が、何条も差し込んだ。

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