ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第29話 闇の亡霊 (Ghosts in the Dark)

「……クソ……。コーチ……。腹……減った……」

 

瓦礫に埋まった陸戦型ジムのコックピット。

 

アキラ伍長は、途絶えた通信機に向かって、虚ろに悪態をついていた。

 

その時。

 

ピピッ。

 

瓦礫の隙間から、無機質な赤い「照準レーザー」が、何条も差し込んだ。

 

 

【地下(アキラ)】

 

「……は?」

 

アキラの酔いがかった意識が、一瞬で覚醒する。

 

(ビッグXか!? 戻ってきたのか!?)

 

ガリガリガリッ!

 

瓦礫の向こう側から、金属を削る音が響く。

 

MSのヒート・ホークではない。

 

もっと甲高く、不快な……まるで巨大な虫が巣を掘るような音。

 

「な、なんだよ! 出てこい、コノヤロウ!」

 

アキラは、傾いたシートの上で必死に操縦桿を握る。

 

だが、右腕は瓦礫に圧迫され、マシンガンのトリガーは動かない。

 

左腕は、ない。

 

ガシャッ、ガシャン!

 

瓦礫の隙間から、ついにその【亡霊】が姿を現した。

 

それは、MSではなかった。

 

旧時代に設計された、蜘蛛(くも)のような多脚型自動防衛ロボット。

 

人間の管理を離れ

 

数十年もの間、侵入者を待ち続けていた、旧時代の「番犬」たちだった。

 

「……ヒッ……!」

 

アキラは、E-2エリアのザクより、ハンスのザクタンクより

 

目の前の「機械」に、純粋な恐怖を感じた。

 

数体の「番犬」が、アキラのジムの装甲に張り付き

 

高周波ブレードやカッターで、コックピット・ハッチの隙間をこじ開けようと作業を開始した。

 

 

キィィィィィィィン!!

 

 

耳障りな金属音が、コックピット内に響き渡る。

 

「や、やめろ! やめろォォォ!!」

 

アキラは、拳銃を取り出し、「番犬」に向かって、無意味に発砲した。

 

 

【地下(カツオとハンス)】

 

「……コーチ殿。聞こえるか」

 

カツオ・イトウ少尉の背後から、ハンス・シュタイナー中尉の静かな声が響く。

 

「ハンス、黙れ。レベル2の入り口だ。……タカシ、アキラの生命反応は!」

 

『微弱ながら、確認! 座標、この先500メートル!』

 

「アキラ!」

 

カツオは、ジムの出力を上げ、整備通路を突き進もうとした。

 

「待て、落ち着け」

 

ハンスの声が、カツオの昂ぶりを抑えた。

 

「コーチ殿、聞け。……空気が、振動している。……何か、動いている。……それも、複数だ」

 

「何?」

 

「俺が言った【亡霊】だ。旧時代の自動防衛システム。

 ……おそらく、ビッグXとの戦闘の爆発音で、スリープから復帰した」

 

ハンスの警告と同時に、陸戦型ジムのセンサーが、前方の暗闇に無数の熱源を映し出した。

 

ピ、ピ、ピ、ピ、ピ……!

 

無数の赤いレーザーが、カツオの陸戦型ジムを照射する。

 

「……これが!」

 

ヘッドライトが照らし出したのは

 

通路の壁や天井を埋め尽くす、数十体の「番犬」の群れだった。

 

そして、その群れの中心――

 

通路の奥で瓦礫に埋もれたアキラの陸戦型ジムが、火花を散らしているのが見えた。

 

「アキラ!」

 

カツオは、ビーム・ライフルを乱射した。

 

閃光が「番犬」たちを焼き払うが、奴らは怯まない。

 

群れの一部が、即座にカツオの陸戦型ジムへと襲いかかってきた。

 

(速い!)

 

陸戦型ジムの装甲に張り付かれ、関節部に高周波ブレードを突き立てられる。

 

「くそっ! どけ!」

 

カツオはビーム・サーベルで自機に張り付いた「番犬」を薙ぎ払うが、アキラにたどり着けない。

 

 

「メインカメラに張り付かれた! 見えない!」

 

カツオがパニックに陥った、その時。

 

「MSの左腕で拭え! 早くしろ!」

 

背後のハンスが怒鳴った。

 

カツオは、反射的に陸戦型ジムの左腕でカメラを拭う。

 

視界が戻る。

 

「コーチ殿! 奴らはただの機械だ! 攻撃パターンを読め!

 奴らは、MSの動力源の熱に集まってきている!」

 

ハンスは、狭いコックピットの中で、カツオのモニターを必死に覗き込んでいた。

 

「あんたのMSが、一番『美味そうなエサ』なんだよ!」

 

「どうしろと!?こいつらを殲滅するまで、アキラが持たない!」

 

「殲滅じゃない!『停止』させろ!」

 

ハンスは、拘束された手で、モニターの端に映る、通路の天井を指さした。

 

「……あの、赤いケーブル・ダクト!

 あれが、このセクター全体の、旧時代の動力ラインだ! あれを破壊しろ!」

 

「破壊!? そしたら、照明も、何もかも……!」

 

「ああ! だが、奴ら『番犬』も、親電源を失って止まる!」

 

ハンスは、工兵の目で断言した。

 

「やるなら今だ!奴らが、予備電源に切り替える前に!」

 

カツオは、一瞬ためらった。

 

アキラを救うため、この暗黒の迷宮で、自ら光を捨てる。

 

それは、目の前の『捕虜』を、完全に信用する行為だった。

 

「……信じるぞ、ハンス!」

 

カツオは、ビーム・ライフルを、ハンスが指し示した天井のケーブル・ダクトに向けた。

 

 

ドォォン!!

 

 

閃光が走り、ケーブル・ダクトが爆散する。

 

その直後。

 

通路の非常灯、アキラの陸戦型ジムを切り刻んでいた「番犬」たちの火花が……

 

プツリと消えた。

 

陸戦型ジムのヘッドライトも衝撃で壊れている。

 

完全な「闇」と「沈黙」に包まれた。

 

 

 

『……コーチ……?』

 

アキラのかすれた声が、奇跡的に繋がった近距離無線で、カツオのコックピットに響いた。

 

「アキラ! 無事か!」

 

『……ああ。なんか、虫みてえな奴らが、急に止まった……。

 暗くて、何も見えねえ……。コーチ、どこだ……?』

 

「すぐそこだ。動くなよ」

 

カツオは、安堵の息を吐いた。

 

「……フン」

 

カツオの背後で、ハンスが息を吐く音がした。

 

「……さて、コーチ殿。これで、あんたも俺も、『盲目』だ。

 ……そして、この暗闇の中には、まだ予備電源で動く『亡霊』が、残っているかもしれんぞ?」

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