ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第30話 暗闇の共生 (Symbiosis in the Dark)

「……コーチ……? どこだ……? 暗くて、何も見えねえ……」

 

アキラ伍長のかすれた声が、近距離無線でカツオのコックピットに響く。

 

完全な闇。

 

親電源を破壊した代償として、カツオの陸戦型ジムもまた

 

メインヘッドライトとセンサーの大部分を失い

 

非常用の微弱な赤色灯だけがコックピットを照らしていた。

 

 

【地下(カツオとハンス)】

 

「アキラ! しゃべるな! 呼吸を確保しろ!」

 

カツオ・イトウ少尉は、アキラの生存を確認した安堵と

 

自ら招いたこの暗闇への焦燥で、思考が分裂しそうだった。

 

『少尉! タカシです! 地上のトレーラーからですが、電源破壊の余波で、こちらからの誘導が……!』

 

タカシ軍曹からの通信が、ノイズの奔流となって途絶えた。

 

地上の支援も、失われた。

 

「……コーチ殿」

 

カツオの背後、闇に同化したハンス・シュタイナー中尉が、静かに息を吐いた。

 

「あんた、どうするつもりだ。そのガラクタMSの予備電源(バッテリー)だけで、あの瓦礫をどかし

 仲間を引っ張り出し、この迷宮から生きて帰れるとでも?」

 

「黙れ! あんたの仲間(ビッグX)が、アキラを……!」

 

「合理的になれ、コーチ」

 

ハンスは、カツオの感情的な昂ぶりを、冷たい言葉で断ち切った。

 

「あの瓦礫をどかすのは、今のあんたの操縦じゃ無理だ。

 ビーム・サーベルを使えば、エネルギーを一瞬で食い尽くす。

 ……この俺の『目』と『手』を使え」

 

「……何だと?」

 

「俺は工兵だ。あの瓦礫がどう積まれているか、どう力を加えれば最小限の力で崩せるか……

 この暗闇でも分かる。……拘束を解け。俺があんたの『目』になってやる」

 

カツオは、戦慄した。

 

この密室で、宿敵の拘束を解く。

 

それは、自らの喉元にナイフを差し出すことに等しい。

 

「……断る」

 

カツオは、陸戦型ジムの出力をギリギリまで上げ

 

かろうじて生きている赤外線センサーを頼りに、瓦礫の山へと機体を進めた。

 

「アキラは、俺が助ける」

 

 

【地下(アキラと亡霊)】

 

瓦礫の中。

 

アキラは、止まった「番犬」の残骸に囲まれながら

 

カツオの陸戦型ジムが発する微弱な駆動音に、全神経を集中させていた。

 

「……コーチ……早くしろ……」

 

恐怖と寒さで、アキラの意識が朦朧とし始めた、その時。

 

カシャリ。

 

アキラの耳が、すぐそばで、小さな金属音を捉えた。

 

(……コーチか?)

 

ピ、ピッ。

 

アキラの目の前で、停止していたはずの「番犬」の一体が

 

内蔵の予備電源(バッテリー)で再起動した。

 

その赤いモノアイが、至近距離でアキラのコックピットを捉える。

 

「……ヒッ……!」

 

 

キィィィィィィィン!!

 

 

高周波ブレードが、再びアキラのハッチを切り裂き始めた。

 

『うわああああああ! コーチ! こいつら、まだ生きてるぞ! 助けてくれ!』

 

 

アキラの絶叫が、近距離無線でカツオのコックピットに叩きつけられた。

 

「アキラ!」

 

カツオは、目の前の瓦礫を、陸戦型ジムの通常マニピュレーターで強引に掻き分けようとした。

 

だが、瓦礫は複雑に組み合っており、びくともしない。

 

ガキン!

 

その時、カツオの陸戦型ジムの背後――ハンスが座っている整備スペース側の装甲――を

 

別の【番犬】が突き破ろうとする音が響いた。

 

(後ろか!)

 

カツオが振り返ろうとした瞬間、背後のハンスが叫んだ。

 

「動くな、コーチ! 右だ! 右腕の影!」

 

カツオは、反射的にビーム・サーベルを起動し

 

ハンスが叫んだ「右腕の影」を薙ぎ払った。

 

手応えがあった。

 

再起動した「番犬」が、火花を散らして沈黙する。

 

「……あんた……」

 

カツオは、ハンスが自分の『死角』を補ったことに気づいた。

 

「早くしろ!」

 

ハンスが怒鳴る。

 

「アキラと言ったか!奴が食われるぞ!あの瓦礫、左上の鉄骨だ!

 そこが『要石(キーストーン)』だ! そこをサーベルで切れ!」

 

カツオは、もはやハンスの言葉を疑わなかった。

 

指示通り、瓦礫の左上、かろうじて見える鉄骨の端をビーム・サーベルで焼き切る。

 

ガラガラガラ……!!

 

まるで知恵の輪が解けるように、瓦礫が崩れ

 

アキラの陸戦型ジムの姿が、赤色灯の闇の中に現れた。

 

左腕を失い、ハッチを切り刻まれている。

 

「アキラ!」

 

カツオは、陸戦型ジムの左手で

 

アキラ機のハッチに群がる最後の【番犬】を掴み、握り潰した。

 

『……ハァ……ハァ……。コーチ……。死ぬかと、思った……』

 

アキラは、泣き笑いのような声を上げていた。

 

カツオは、アキラ機を瓦礫から引きずり出した。

 

だが、安堵したのも束の間だった。

 

「……さて、コーチ殿」

 

ハンスが、カツオの背後で冷ややかに言った。

 

「仲間は助かった。……だが、見てみろ。あんたの機体のエネルギー残量を」

 

カツオのモニターには、ビーム・サーベルを酷使した結果

 

残り『10%』を示す絶望的な数字が点滅していた。

 

「この暗闇の迷宮で、動けない仲間を抱え、エネルギーは10%。……どうするコーチ殿?」

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