ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
暗闇と静寂が支配するICBMサイロの地下通路。
カツオ・イトウ少尉の陸戦型ジムは
瓦礫から引きずり出したアキラ伍長のジムと、ケーブルで繋がっていた。
【地下(カツオ、ハンス、アキラ)】
「……本気か、ハンス中尉」
カツオの声には、疑念と焦りが滲んでいた。
「アキラの機体の予備回路をバイパスして、俺の機体にエネルギーを回すだと?」
「そうだ」
カツオの背後にいるハンス・シュタイナー中尉が、冷徹に答えた。
「あんたのMSは、ビーム・サーベルの使いすぎで
対して、部下(アキラ)の機体は、片腕を失い、システムが死んでいるが
ハンスは、拘束された手で、カツオの肩越しにコンソールを指差した。
「共倒れしたくなければ、生きている方を生かせ。……『トリアージ』だ、コーチ殿」
『……俺のジムは、ただの電池かよ……』
近距離無線から、アキラの力ない声が聞こえる。
『……へっ。まあいいぜ。動けねえデブより、動けるコーチの方がマシだ。……吸い取ってくれ』
「……すまん、アキラ」
カツオは、ハンスの指示に従い、機体間の緊急接続ケーブルを通電させた。
ブウン……
微かな振動と共に、アキラのジムの残存エネルギーが、カツオの機体へと流れ込んでいく。
モニターの数値が、10%からゆっくりと上昇を始めた。
15%……18%……22%。
「……これで、最低限の戦闘機動なら数分は保つ」
ハンスが呟く。
「だが、その部下の機体は、もうただの鉄クズだ。ここに捨てていけ」
「嫌だね」
アキラの声が響いた。
『俺のジムは、まだ足が動く。……エネルギーが空っ欠でも、ついていくぜ。
武器が撃てなくても、壁くらいにはなる』
「馬鹿が。足手まといだ」
ハンスが吐き捨てる。
「連れて行く」
カツオが決断した。
「アキラを置いてはいかない。……それに、ハンス中尉。
あんたの仲間がいる『レベル3』へ行くには、囮が必要になるかもしれない」
「……フン。非合理な」
【地下(レベル3への道)】
エネルギー分配を終えた二機の陸戦型ジム(カツオ機25%、アキラ機5%)は
再び暗闇の迷宮を進み始めた。
頼りは、カツオの機体の赤外線センサーと、ハンスの「記憶」と「勘」だけだ。
「……次の分岐を左だ。そこからダクトへ入る」
ハンスの指示は的確だった。
彼が『工兵』として培った空間認識能力は
地図のない暗闇でさえも正確なルートを導き出していた。
「……なあ、中尉」
カツオは、操縦しながら、背後の宿敵に問いかけた。
「なぜ協力する? あんたは、俺たちを罠にハメて殺すこともできたはずだ」
「勘違いするな」
ハンスは、闇の中で目を光らせた。
「俺は、部下たちのところへ戻りたいだけだ。
……この暗闇で、武器を持たない俺一人では、あの『機械の番犬』に食い殺される。
あんたのMSは、俺にとっての『タクシー』だ」
「……俺たちがレベル3に着いたら、あんたの部下を『殲滅』するとしてもか?」
「やってみろ」
ハンスの声に、不敵な響きが混じった。
「俺の部下たちは、そう簡単に狩られるタマじゃない。
……それに、レベル3には、あんたが想像もしない『遺産』が眠っている」
「遺産……?」
その時。
カツオのセンサーが、前方の空間に微かな「空気の流れ」と「熱源」を捉えた。
「……風だ」
カツオが呟く。
「ああ。レベル3の空調管理エリアだ」
ハンスが頷く。
通路の突き当たり。
巨大なファンの隙間から、薄ぼんやりとした光が漏れていた。
そして、その光の中に、見慣れたシルエットが浮かび上がっていた。
「……いたぞ、コーチ」
アキラが、息を殺して通信を入れる。
『……ザクだ。……三機とも、揃ってやがる』
レベル3の広大な空間。
そこには、逃走したはずのザクII J型(ビッグX機)と、二機の旧ザク(教授、ルーキー機)が
何かを守るように円陣を組んで待ち構えていた。
だが、カツオが驚愕したのは、彼らが守っている『それ』だった。
それは、ただの地下施設ではない。
巨大な、あまりにも巨大な……。
「……大陸間弾道ミサイル(ICBM)……!?」
廃棄されたはずのサイロの底に
古びた、しかし威圧的な巨塔が、亡霊のように鎮座していた。
「ようこそ、最下層へ」
ハンスが、カツオの耳元で囁いた。
「これが、俺たちが目指した『穴』の正体だ」