ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

33 / 92
第32話 サイロの鍵 (The Key to the Silo)

レベル3の広大な地下空間。

 

その中央に鎮座する、旧世紀の遺物――大陸間弾道ミサイル(ICBM)。

 

その巨塔を背に、ザクII J型(ビッグX機)と二機の旧ザクが

 

侵入者である二機のボロボロの陸戦型ジムに銃口を向けていた。

 

 

【地下サイロ(対峙)】

 

「……しつこい野郎どもだ」

 

“ビッグX”准尉のザクII J型が、ヒート・ホークを構え直す。

 

「ここまで追ってきて、まだ死に足りねえか。……ん?」

 

ビッグXは、先頭に立つカツオの陸戦型ジムが、一切の攻撃動作を見せず

 

武装解除した状態で立っていることに気づいた。

 

さらに、その後ろには、片腕を失い

 

今にも崩れ落ちそうなアキラの陸戦型ジムが隠れている。

 

「……どういうつもりだ? 命乞いか?」

 

ビッグXが問う。

 

その時、カツオのジムの外部スピーカーから、聞き慣れた声が響き渡った。

 

『……銃を下ろせ、ビッグX』

 

「なっ……!?」

 

ビッグXが、そして後ろに控える“教授”と“ルーキー”が、息を呑む。

 

「中尉!? その声、連邦のジムから……まさか、捕まったんですか!?」

 

『ああ。だが、五体満足だ』

 

ハンス・シュタイナー中尉の声は、捕虜のそれとは思えないほど落ち着いていた。

 

『状況を説明する。俺はコーチ殿に捕縛され、ここまで『案内』させた。

 ……そして、このコーチ殿は、後ろの部下(アキラ)を助けるためにエネルギーを使い果たし

 今や戦闘能力は皆無だ』

 

「……ハッ! つまり、カモがネギ背負って、中尉まで送り届けてくれたってわけか!」

 

ビッグXの機体から、殺気が溢れ出す。

 

「なら話は早え! そのジムごとコーチをミンチにして、中尉を奪還する!」

 

「待て!」

 

カツオが叫んだ。

 

「撃てば、このICBMに当たるぞ! ここで核爆発を起こす気か!」

 

カツオの恫喝に、ビッグXの手が止まる。

 

しかし、すぐにせせら笑うような声が返ってきた。

 

「……ビビってんのか、コーチ。このICBMの弾頭(ウォーヘッド)なんて、とうの昔に抜かれて空っぽだよ」

 

「な……!」

 

カツオが絶句する。

 

「俺たちが欲しいのは、弾頭じゃない」

 

教授の旧ザクが、ICBMの基部にある燃料パイプを指し示した。

 

「このミサイルに残された、高純度の『液体推進剤(プロペラント)』だ。

 ……これをMSに注入すれば、我々はここから、連邦の包囲網を飛び越えて脱出できる」

 

核の脅威はハッタリだった。

 

彼らの目的はあくまで『逃走』だったのだ。

 

だが、カツオの背後で、ハンスが低く笑った。

 

「……半分正解で、半分間違いだ」

 

ハンスが、カツオだけに聞こえる声で囁く。

 

「……コーチ殿。俺があんたをここまで連れてきた『本当の理由』を教えてやろう」

 

 

【ハンスの真意】

 

ハンスは、カツオのコックピットの通信機を操作し、その声を施設全体に響かせた。

 

『……ビッグX、教授。天井を見ろ』

 

全員の視線が、遥か頭上、サイロの天井に向けられる。

 

そこには、分厚い装甲板で閉ざされた、巨大な「発射扉(サイロハッチ)」があった。

 

『燃料を補給しても、あの扉が開かなければ、我々はここから出られない』

 

ハンスは続けた。

 

『教授、制御盤はどうだ』

 

『……ダメです、中尉。やはり、物理ロックがかかっています。

 この施設のメインシステムが生きていればハッキングも可能でしたが

 さっきの電源破壊で、システムはダウンしました』

 

教授が首を振る。

 

『外部からの『正規コード』による認証解除しか、開ける方法はありません』

 

「……そうだ」

 

ハンスの声が、カツオの耳元で氷のように冷たく響く。

 

「……コーチ殿。あんたのMSは、たしか陸戦型ジムだったな。

 こいつは『最新の連邦軍コード』を持っているな?」

 

カツオは、戦慄した。

 

(こいつ……! 最初から、これを狙って……!)

 

ハンスは、カツオを「タクシー」として使っただけではない。

 

この絶対的な密室――

 

サイロの扉を開けるための『鍵』として、カツオを生かして連れてきたのだ。

 

『ビッグX!』

 

ハンスが命じる。

 

『後ろの、死にかけのジム(アキラ機)に照準を合わせろ』

 

「了解」

 

ビッグXのザクII J型が、マシンガンをアキラの機体に突きつける。

 

アキラの機体は、エネルギー残量5%。

 

シールドもない。

 

一発でハチの巣だ。

 

「……やめろ!」

 

カツオが叫ぶ。

 

「取引だ、コーチ殿」

 

ハンスは、拘束されたまま、カツオの背中で言った。

 

「あんたのジムの通信回線を、サイロの制御盤に直結しろ。

 そして、連邦軍の正規コードで、あの天井の扉を開けろ」

 

「……断る! あんたたちを逃がす手伝いはしない!」

 

カツオは拒絶した。バリス大尉の『殲滅』命令が頭をよぎる。

 

「そうか」

 

ハンスは、ためらいなく言った。

 

「ビッグX。……やれ」

 

ガキン!

 

ビッグXが、アキラのジムの足元に威嚇射撃をした。

 

次はコックピットだ。

 

『うわっ! コーチ!』

 

アキラの悲鳴。

 

「……くっ……!」

 

カツオは、操縦桿を握りしめ、震えた。

 

アキラを救うためにここまで来た。

 

そのアキラが、今また人質に取られている。

 

そして、ハンスは本気だ。

 

必要な犠牲なら、躊躇なく払う男だ。

 

「……分かった」

 

カツオは、敗北を認めるように、うなだれた。

 

「……扉を、開ける」

 

 

カツオは、陸戦型ジムから有線ケーブルを伸ばし

 

サイロの壁面にある古い接続ポートに差し込んだ。

 

"教授"が手持ちの機器を使い、セキュリティを解除する。

 

 

ウゥゥゥゥン……

 

 

重低音が響き、天井の巨大なハッチが

 

数十年ぶりに軋みを上げて開き始めた。

 

バッ!

 

開いた隙間から、強烈な『光』が差し込んだ。

 

それは、オデッサの太陽ではなく、満点の星空だった。

 

今は、夜なのだ。

 

「……開いた!」

 

ルーキーが歓声を上げる。

 

「よし、総員、燃料補給急げ!」

 

ビッグXが指揮を執る。

 

カツオは、その作業を見つめながら、背後のハンスに問うた。

 

「……これで満足か、中尉。あんたは俺を利用し、部下を救い、逃走経路を開いた。

 ……俺の完敗だ」

 

「……いや」

 

ハンスは、開かれた星空を見上げていた。

 

「まだだ。……コーチ殿。あんたには、もう一つ、やってもらうことがある」

 

「まだあるのか!?」

 

「ああ。……あんたのそのジム。まだ20%のエネルギーがあるな」

 

ハンスは、残酷な事実を告げた。

 

「俺たちは燃料を補給するが、ザクタンクは、被弾して動けん。

 ……俺を、ここまで連れてきた責任を取ってもらおう」

 

ハンスは、カツオの耳元で囁いた。

 

「……俺を乗せたまま、一緒に飛んでもらうぞ、コーチ」

 

カツオの陸戦型ジムを、脱出のための【道連れ】にする。

 

それが、ハンスの描いた、究極の『逃走劇』のフィナーレだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。