ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
第34話 不時着と境界線 (Crash Landing and the Borderline)
ICBMの高純度燃料による強引な跳躍から数十分。
カツオとハンスを乗せた陸戦型ジムは
成層圏に近い高度から、重力に引かれてゆっくりと堕ちていた。
眼下には、オデッサの平原ではなく、雪を頂いた険しい山脈
――中央アジアの山岳地帯が広がっていた。
【コックピット内(墜落中)】
ピーーッ! ピーーッ!
コックピット内には、推進剤切れと
エンジンのオーバーヒートを告げるアラートが鳴り響いていた。
「……おい、コーチ殿。機首を上げすぎだ」
背後の整備スペースから、ハンス・シュタイナー中尉の冷静な声が飛ぶ。
「その角度じゃ
「無茶を言うな! 陸戦型ジムは飛行機じゃない!」
カツオ・イトウ少尉は、振動する操縦桿を必死に抑え込んでいた。
「スラスターは全滅だ! このままじゃ岩肌に激突する!」
「……右だ。あの
ハンスが、拘束されたままモニターの一点を顎でしゃくった。
「あそこなら雪がクッションになる。……脚部は捨てるつもりで、ケツから滑り込め」
「……くそっ!」
カツオは、敵である男の指示に従わざるを得なかった。
陸戦型ジムの姿勢を強引に制御し、迫りくる白い斜面に向かって機体を滑らせる。
ズザァァァァァーーッ!!
凄まじい衝撃。
陸戦型ジムの足裏が雪面を削り
膝のサスペンションが悲鳴を上げ、火花と雪煙が舞い上がる。
機体はバランスを失い、横転しながら雪崩のように斜面を転がり落ちた。
ガガンッ!!
強烈なGと共に、陸戦型ジムは雪に埋もれて停止した。
コックピット内の照明が完全に落ち、静寂が戻る。
「……ハァ……ハァ……」
カツオは、エアバッグ代わりの衝撃吸収ゲルにまみれながら、生存を確認した。
「……生きてるか、ハンス中尉」
「……ああ。最悪のランディングだがな」
背後で、ハンスが呻く。
「だが、これで俺たちは『境界線』を越えた」
【雪原】
カツオが非常用レバーでハッチをこじ開けると
刺すような寒気が流れ込んできた。
そこは、文明の光が一切届かない、月明かりだけの銀世界だった。
カツオは、よろめきながら雪の上に降り立った。
陸戦型ジムは脚部がひしゃげ
背中のランドセルは焼き付き、完全に沈黙していた。
もう、二度と動かないだろう。
「……コーチ殿」
続いて降りてきたハンスが、カツオの横に立った。
彼の手首には、まだカツオがかけた手錠がついている。
「……あんたは、これからどうする」
ハンスが問う。
「通信機は死んだ。食料もない。ここがどこかも正確には分からん。
……そして、あんたは今や、敵将を連れて逃亡した『脱走兵』だ」
カツオは、自分の胸の連邦軍のエンブレムを見つめた。
バリス大尉の命令違反、アキラの置き去り、そして敵との同行。
もう、戻る場所はなかった。
その時。 夜空の向こうから、三つの噴射炎が近づいてきた。
ズオォォォ……ドスン!
少し離れた平地に、ザクII J型と、二機の旧ザクが着地した。
“ビッグX”准尉たちの機体だ。
彼らもまた、ギリギリの燃料でここまでたどり着いたのだ。
「……中尉!!」
ビッグXのJ型が、雪煙を上げて駆け寄ってくる。
ハッチが開き、ビッグXが飛び降りてきた。
彼は、カツオとハンスが並んで立っているのを見て、即座に腰の拳銃を抜いた。
「中尉! ご無事ですか!」
ビッグXは、銃口をカツオに向けた。
「……よくも中尉を! どけ、連邦のガキ! 今すぐその頭を吹き飛ばしてやる!」
「やめろ、ビッグX」
ハンスが、カツオの前に一歩出た。
「なっ!? 中尉、そいつは……!」
「銃を下ろせ。……こいつは、俺の『命の恩人』であり、ここまで俺を運んだ『パイロット』だ」
ハンスは、カツオの方を振り返り、ニヤリと笑った。
「それに、こいつはもう『連邦兵』じゃない。……そうだろ? コーチ」
【共犯者の夜明け】
カツオは、突きつけられた銃口と
ハンスの言葉の間で、ゆっくりと息を吐いた。
彼は、腰のホルスターから自分の拳銃を抜き――それを、雪の中に放り投げた。
「……俺は、カツオ・イトウ」
カツオは、ビッグXではなく、ハンスを見て言った。
「ただの……心理学者志望の学生だ」
ハンスは満足げに頷き、ビッグXに命じた。
「ビッグX。俺の手錠を切れ。……そして、この元少尉に、温かいスープの一杯でも恵んでやれ」
「……チッ。拾った命だ、大事にしな」
ビッグXは、忌々しげに銃を収めた。
東の空が白み始める。
壮大な山脈の夜明け。
連邦軍のジムパイロットだった男は、この瞬間
ジオン残党の『穴熊部隊』と共に、地図にない旅路を歩み始めた。
そこは、敵も味方もない
ただ生き延びるためだけの【