ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第37話:軍服と村の掟 (The Uniform and the Village Law)

『雲の上の廃村』

 

そこは、連邦とジオンの脱走兵、そして戦火を逃れた難民たちが

 

廃棄された兵器のパーツで築き上げた、奇妙なパッチワークの街だった。

 

 

【武器預かり】

 

村の集会所。

 

「穴熊部隊」の面々とカツオは、村の長である、あの継ぎ接ぎグフのパイロットと対面していた。

 

名はバト。

 

元ジオン軍の曹長だという、隻腕の老人だった。

 

「……ここでは、MSの火器管制回路(FCS)と、携帯火器の弾倉はすべて預かる」

 

バトは、卓上に置かれたビッグXたちの拳銃と、MSの起動鍵を顎で示した。

 

「争いごとはステゴロでやれ。機体を使った奴は、即座に全員でスクラップにする。それが掟だ」

 

「……いいでしょう」

 

ハンス・シュタイナー中尉が、誰よりも早く自分の拳銃と、MSの起動鍵を差し出した。

 

「俺たちは戦いに来たんじゃない。休息と、補給が欲しいだけだ」

 

バトの鋭い視線が、ハンスの後ろに立つカツオ・イトウに向けられた。

 

泥と油にまみれているとはいえ

 

その青いパイロットスーツは、明らかに「地球連邦軍」のものだ。

 

「……おい、アンタ」

 

バトがカツオを指さす。

 

「連邦の士官か。珍しいな。ここに来る連邦兵は、大抵が戦場から逃げ出した『泣き虫』か

 部隊とはぐれた『間抜け』だが……アンタの目は、そのどっちでもないな」

 

「……俺は」

 

カツオは言葉を選んだ。

 

「……彼らの、『荷物』です」

 

「荷物、か」

 

バトは喉の奥で笑った。

 

「まあいい。ここでは軍服の色は関係ない。働かざる者食うべからずだ。

 ……お前たちには、村の『裏手』の仕事をやってもらう」

 

 

【洗礼】

 

交渉が成立し、彼らは村の広場にある共同炊事場へと向かった。

 

久しぶりの「温かい食事」の匂いに

 

“ルーキー”クェン兵長と“教授”ビタム曹長の顔がほころぶ。

 

「へへっ、肉の匂いがしますよ中尉!」

 

「芋の煮込みか。悪くない」

 

だが、カツオだけは、周囲の視線の冷たさを感じていた。

 

村人の半数は、ジオン系の脱走兵や難民だ。

 

連邦の軍服を見る目は、決して友好的ではない。

 

カツオが、井戸で水を汲もうとした時だった。

 

背後から、殺気が肌を刺した。

 

「……おい、連邦」

 

低い声と共に、カツオの肩が乱暴に掴まれた。

 

振り返ると、眼帯をした男――村の入り口でナイフを弄んでいた男――が立っていた。

 

その手には、錆びついたサバイバルナイフが握られている。

 

「テメェらがオデッサで何をしたか、忘れたとは言わせねえぞ」

 

男の残った片目が、憎悪で充血していた。

 

「俺の弟は、テメェらのジムに踏み潰された。……その青い服を見るだけで、吐き気がするんだよ!」

 

「……」

 

カツオは、抵抗せずに手を挙げた。

 

「……俺は、戦いに来たわけじゃない」

 

「ハッ! 丸腰なら許されるとでも思ったか!」

 

眼帯の男が、ナイフを振り上げた。

 

「ここで死んで、弟に詫びろ!」

 

周囲の村人たちは、誰も止めようとしない。

 

これが、この村の「ガス抜き」なのだ。

 

新入り、特に連邦兵への【洗礼】だった。

 

カツオは、ナイフの軌道を見切った。

 

(……大振りだ)

 

彼は、相手の腕を取り、関節を極めて制圧することもできた。

 

だが、それをすれば、村人全員を敵に回すことになる。

 

カツオは、目を閉じて、その刃を受け入れようとした――その時。

 

ガシッ!

 

巨大な手が、眼帯の男の手首を万力のように掴み上げた。

 

「……あ?」

 

男が驚いて見上げると

 

そこには、顔に大きな傷跡を持つ巨漢――“ビッグX”准尉が立っていた。

 

 

【荷物の所有権】

 

「……痛えな。離せよ、ジオンの同胞だろ?」

 

眼帯の男が、ビッグXを睨む。

 

「こいつは連邦だ。敵だろ?」

 

「ああ、敵だ」

 

ビッグXは、低い声で答えた。

 

「こいつは、俺たちに散々嫌がらせをして、俺のプライドを傷つけ

 挙句の果てには俺たちをここまで連れてきた、クソ忌々しい『敵』だ」

 

ビッグXは、掴んだ男の手首をギリギリと締め上げた。ナイフが地面に落ちる。

 

「だがな。……こいつは今、俺たちの『荷物』だ」

 

ビッグXの目が、凄味を帯びて光った。

 

「俺たちの荷物に手を出していいのは、俺たちだけだ。

 ……テメェごときが、勝手に傷つけていいシロモノじゃねえんだよ」

 

「ぐ、ぐあああ……!」

 

眼帯の男が悲鳴を上げる。

 

「……やめろ、ビッグX」

 

ハンスの声が飛んだ。

 

「騒ぎを起こすなと言われたはずだ」

 

ビッグXは、チッ、と舌打ちをして男を突き放した。

 

男は尻餅をつき、恐怖に顔を歪めて逃げ去っていった。

 

周囲の村人たちが、ざわめきながら距離を取る。

 

「……なんだ、あの連中……」 「連邦を庇ったぞ……」

 

 

カツオは、呆然とビッグXを見上げていた。

 

「……なぜ、助けた」

 

「勘違いすんな、コーチ」

 

ビッグXは、カツオを見ようともせず、落ちていたカツオの水筒を拾って押し付けた。

 

「テメェがここで死んだら、誰が俺たちのMSを整備するんだ?

 テメェはジムのパーツ扱い要員であり、俺たちの『下っ端』だ。

 ……さっさと水を汲め。教授たちが待ってる」

 

そう言って背を向けるビッグXの耳は、少し赤かった。

 

ハンスが、カツオの横に来て、ニヤリと笑った。

 

「……どうやら、あんたは『穴熊』の群れに、正式に受け入れられたようだな」

 

カツオは、渡された水筒を握りしめた。

 

その冷たい金属の感触が、なぜか少しだけ温かく感じられた。

 

(……アキラ。見てるか)

 

(俺は今、敵だった男たちに守られながら、生きている)

 

カツオは、泥だらけの袖で顔を拭い、ビッグXの背中を追った。

 

「……了解しました、先輩

 

軍服の色も、所属も超えた

 

奇妙な「家族」のような絆が、最下層の村で生まれようとしていた。

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