ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第38話 錆びついた鼓動 (The Rusted Pulse)

「雲の上の廃村」での初日。

 

村の長であるバトの案内で

 

カツオと「穴熊部隊」の面々は、村の裏手に広がる巨大な鍾乳洞へと連れて行かれた。

 

そこには、この村の生命線とも言える、巨大な『心臓』があった。

 

 

【異形のプラント】

 

「……こいつは驚いた」

 

ハンス・シュタイナー中尉が、鍾乳洞の天井を見上げて口笛を吹いた。

 

そこにあったのは、旧世紀の地熱発電プラントをベースに

 

壊れたMSのジェネレーターや、戦車のエンジン、戦闘機のタービンなどを無理やり繋ぎ合わせた

 

フランケンシュタインのような巨大な動力炉だった。

 

「村の暖房、電力、そして地下水を汲み上げるポンプ……全てこいつで動かしている」

 

バトが、錆びついたパイプを義手(グフの指を加工したもの)で叩いた。

 

「だが、最近調子が悪い。出力が落ちて、温水が村まで届かん。

 ……だか、俺たちのような『パイロット崩れ』や『歩兵』には

 こいつの機嫌の取り方が分からんのだ」

 

バトは、ハンスとカツオを見た。

 

「アンタら、『工兵』と『連邦士官』だろ? こいつを直せ。それが宿代だ」

 

 

【プロフェッショナルの仕事】

 

作業が始まった。

 

ハンスは、プラントの配管図(手書きのボロボロな紙)を一目見ただけで、全体構造を把握した。

 

「……配管が詰まっているんじゃない。循環バランスが崩れているんだ」

 

ハンスは、即座に指示を出した。

 

「ビッグX、一番奥のタービンを人力で回せ。

 ルーキー、教授、配管のC-3とD-4のバルブを閉めろ。

 圧力を逆流させて、詰まりを吹き飛ばす」

 

「了解!」

 

ハンスたちが動き出す中、カツオ・イトウは

 

プラントの中枢部にある制御ユニットを見つめていた。

 

そこには、見覚えのあるエンブレムがあった。

 

「……ハンス中尉。この制御ユニット、連邦軍の『61式戦車』のものです」

 

カツオが叫ぶ。

 

「ジオン規格のジェネレーターと接続しているせいで、電圧が合っていません!

 無理に回せば、安全装置(リミッター)が作動して止まります!」

 

「何だと? ならどうする、コーチ!」

 

「バイパスを作ります!

 ……俺の陸戦型ジムから外した『電圧変換器』がまだ残っているはずです!」

 

カツオは、ルーキーが運んできた資材の山から、自分のジムのパーツを探し出した。

 

(……アキラ。お前の陸戦型ジムのパーツも、ここで役に立つぞ)

 

カツオは、陸戦型ジムの部品を

 

ジオンのジェネレーターと連邦の制御ユニットの間に強引に割り込ませた。

 

「教授! 工具貸してください! ここを短絡させます!」

 

「お、おい! 爆発しないだろうな!」

 

「させません!」

 

カツオの手際は、士官学校で習ったマニュアル通りではない。

 

現場で覚えた『応急処置』の手際だった。

 

ハンスは、その様子を見て、ニヤリと笑った。

 

「……いい腕だ。まるで『現地改修(フィールド・ハック)』のプロだな」

 

「ビッグX! 回せぇぇ!!」

 

ハンスの合図と共に、ビッグXが渾身の力でタービンを回す。

 

ズズズ……ゴウッ!!

 

蒸気が噴き出し、プラントが呻き声を上げる。

 

カツオが取り付けた陸戦型ジムのパーツが、過負荷で赤熱する。

 

「保ってくれ……!」

 

ボッ!

 

……ドクン、ドクン、ドクン……

 

不整脈を起こしていた『心臓』が、力強い鼓動を取り戻した。

 

パイプの中を、熱湯が勢いよく流れ始める音が、鍾乳洞に響き渡った。

 

 

【グフの整備】

 

その夜。

 

村には久しぶりに温かい湯が供給され、村人たちの間に安堵の空気が流れていた。

 

広場の隅で、カツオは一人、バトの愛機である「継ぎ接ぎグフ」を見上げていた。

 

(……右腕はザクのマニピュレーター。左足はジムの装甲。動力パイプは一部欠損……)

 

カツオは、技術者としての性分で、その機体のバランスの悪さが気になって仕方がなかった。

 

「……いい仕事だったな、連邦」

 

背後から、バトが声をかけてきた。手には、自家製の酒が入ったボトルがある。

 

「……バトさん」

 

「村の連中も感謝してる。……特に、あの眼帯の男とかな」

 

バトは苦笑して、酒をあおった。

 

「だか、俺のグフをジロジロ見るのは感心しねえな。惚れたか?」

 

「……いえ。ただ……」

 

カツオは、グフの右肩を指さした。

 

「右肩のサーボモーター、異音がしています。

 ザクの腕をつけたせいで、重量バランスが崩れている。

 ……このままだと、戦闘中に腕が脱落しますよ」

 

バトの目が細められた。

 

「……ほう。音だけで分かるか」

 

「調整しましょうか」

 

カツオは、自然と言っていた。

 

「連邦のOSなら、異種パーツの重量差を補正するプログラムが組めます。

 ……俺の陸戦型ジムの予備回路を使えば、そのグフの挙動、もっとスムーズになりますよ」

 

バトは、カツオをじっと見つめ、やがて酒瓶をカツオに放った。

 

「……好きにしろ。ただし、壊したら承知せんぞ」

 

「はい」

 

カツオは酒を一口飲み、工具箱を持ってグフの足場へと登っていった。

 

その背中を見ながら、バトの隣にハンスが並んだ。

 

「……妙な奴だろう? 俺たちの『コーチ』は」

 

「ああ」

 

バトが頷く。

 

「敵の機体を直す手つきが、まるで医者が患者を診るようだ。……あいつ、本当に連邦軍人か?」

 

「さあな。だが、あいつのおかげで、俺たちはここまで生き延びた」

 

ハンスは、星空の下で整備を始めたカツオを見上げた。

 

「……あいつはもう、軍服の色なんか見ていないのさ」

 

 

翌朝。

 

カツオによって調整されたグフは、見違えるような滑らかな駆動音を立てていた。

 

村人たちのカツオを見る目も、昨日までの「敵意」から

 

『頼れる余所者』へと変わりつつあった。

 

だが、その平和は長くは続かなかった。

 

村の監視塔から、鐘が鳴り響いた。

 

『敵襲! 敵襲! 南の空から、航空機接近!』

 

バトが色めき立つ。

 

「連邦か!?」

 

『いや……違う!』

 

監視員の叫び声が、スピーカーから響いた。

 

『あれは……ジオン軍の識別信号だ! 友軍じゃない! ……【海賊】だ!』

 

「雲の上の廃村」に近づく影。

 

それは、ジオン軍の脱走兵を狩り、物資を奪う

 

同じジオン軍の落ちこぼれ部隊――通称『ハイエナ隊』の戦闘ヘリだった。

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