ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第40話 工兵の戦略 (The Engineer's Strategy)

中央アジア山岳地帯『雲の上の廃村』での抗争。

 

ジオンの脱走兵を狩る「ハイエナ隊」の攻撃に対し、村の防衛線が引かれた。

 

()()ぎグフが空を制し

 

地上では穴熊部隊の三機のザクが、二機のザク・キャノンと対峙していた。

 

 

【コーチの役割】

 

村の入り口の石垣に身を潜め、カツオ・イトウは双眼鏡で戦況を注視していた。

 

MSを持たないカツオの役割は、地上からの「目」であり、『コーチ』だった。

 

『ビッグX!無理に前線を押し上げるな!奴らは距離を取ってキャノン砲で村を狙っている!』

 

カツオは、村の通信機を使い、戦闘中のハンスたちに指示を飛ばす。

 

『うるせえ!遠距離戦なんか性に合わねえんだよ!』

 

ビッグXのJ型が、敵のキャノン砲の着弾を紙一重でかわす。

 

彼は持ち前の運動性で敵を翻弄していたが、ザク・キャノンの重装甲を崩しきれずにいた。

 

『待て、ビッグX』

 

教授の旧ザクに同乗しているハンス・シュタイナー中尉が、冷静に言った。

 

『コーチの言う通りだ。奴らは射程と装甲に依存している。

 ……しかし、そのために機動性が死んでいる。

 特に左側の機体は、キャノンを撃つ際、背面の冷却用ラジエーターが無防備になるはずだ』

 

「ラジエーター!」

 

カツオは双眼鏡を覗き込む。

 

「ハンス中尉、あの岩場を右に迂回した地点です!敵のレーダーの死角になる!」

 

ハンスは即座に命令を下した。

 

『教授、ルーキー!ビッグXを囮にして、あの岩場から側面へ回り込め!

 キャノン砲の直撃は避けて、ラジエーターをマシンガンで削れ!』

 

『了解!』

 

 

【穴熊の狩り】

 

教授とルーキーの二機の旧ザクは、岩の陰を縫うように

 

まるで山岳地帯の穴を掘るように、敵の側面に回り込んだ。

 

その間、ビッグXのJ型は、敢えてキャノン砲の射線に飛び込み

 

ヒート・ホークを投擲するフェイントで敵の注意を釘付けにした。

 

『貴様、卑怯だぞ! 仲間を動かすな!』

 

ハイエナ隊のリーダー、キャプテン・ヴァルチャーの乗るザク・キャノンが

 

苛立ちから連続で砲撃を行う。

 

その一瞬の隙。

 

砲撃の反動で機体が静止し、冷却ラジエーターが最大出力で放熱を開始する。

 

ダダダダダッ!

 

側面から現れた教授機とルーキー機のマシンガン掃射が、一点に集中した。

 

『うわあああ! 装甲を抜かれた!?』

 

ラジエーターを破壊されたザク・キャノンは

 

即座にオーバーヒートを起こし、機体の動きが鈍くなる。

 

ドォン!

 

ビッグXのJ型が、その機体に容赦なく飛び込み

 

ヒート・ホークで敵機の頭部を叩き割った。

 

一撃で沈黙。

 

『な、馬鹿な! なぜ側面がバレた!?』

 

ヴァルチャーが狼狽する。

 

「残念だったな、ハイエナ」

 

教授機のコックピットから、ハンスの声が響く。

 

「俺たちの『コーチ』は、あんたたちみたいな『泥棒』の行動パターンなんて

 とっくにお見通しさ」

 

 

【戦いの代償】

 

残る友軍ザク・キャノンは、ヴァルチャー機の撃破を見て戦意を喪失。

 

上空では、バトのグフが最後のヘリを熱線で焼き払い、勝利を確信する。

 

『ちくしょう! 覚えておけ! ここは俺のシマだ!』

 

ヴァルチャーは捨て台詞を吐き、残された友軍機に強引に乗り込み

 

損傷したまま南の空へと逃走していった。

 

「……勝ったぞォォォ!!」

 

村人たちの歓声が、山々に響き渡った。

 

戦闘は終わった。 しかし、代償は小さくなかった。

 

ビッグXのJ型は、キャノン砲の直撃こそ避けたものの、脚部に複数の被弾。

 

ルーキー機は右肩の装甲が大きく抉れていた。

 

そして、何より、村の入り口の石垣が

 

ハイエナ隊の威嚇射撃で大きく崩壊していた。

 

「……バトさん!」

 

カツオが駆け寄ると、バトはグフのコックピットから降り

 

その老いた顔には泥と汗がこびりついていた。

 

「助かったぜ、コーチ」

 

バトは、カツオの肩を叩いた。

 

「お前の整備と、あの戦術がなきゃ、この村は終わっていた」

 

彼は、周囲に集まった村人たちに、大きく呼びかけた。

 

「聞け! こいつらは、この村を守った! 連邦もジオンも関係ねえ!

 今日からこいつらは、この村の一員だ!」

 

村人たちは歓声を上げ、カツオと穴熊部隊の面々を担ぎ上げた。

 

敵だったはずのジオンの男たちに守られ、敵だったはずの連邦の男が讃えられる。

 

そこには、連邦もジオンもない、ただ『共生』という一つの現実だけがあった。

 

 

【巨人の背骨】

 

その夜。

 

村の動力プラントから引いた温水で

 

カツオたちは久しぶりにゆっくりと体を休めていた。

 

暖を取る焚き火のそば。

 

“ビッグX”が、カツオに缶詰を差し出した。

 

「……食え。感謝なんかしてねえぞ。

 ただ、テメェのおかげで、俺のJ型が致命傷を負わずに済んだだけだ」

 

「……ありがとうございます、先輩」

 

カツオは、素直に受け取った。

 

宴の喧騒から少し離れた場所で

 

ハンス・シュタイナー中尉は、一人で夜空を見上げていた。

 

その視線の先には、星空に向かって突き出す

 

村の背後の巨大な『岩壁』があった。

 

「……中尉?」

 

カツオが近づくと、ハンスは振り向かずに口を開いた。

 

「……コーチ殿。あんた、あの動力プラントを修理した時、違和感を持たなかったか?」

 

「違和感、ですか?」

 

カツオは記憶を手繰り寄せた。

 

「……確かに。あのプラントは、この規模の村の暖房や電力にしては、出力が大きすぎます。

 まるで、工業地帯か要塞を動かすための……」

 

「そうだ」

 

ハンスは頷いた。

 

「そして、今日のハイエナ隊だ。……ただの『脱走兵狩り』にしては、奴らは執拗すぎた。

 奴らは、この貧しい村から食料を奪いに来たんじゃない。……『何か』を探しに来たんだ」

 

ハンスは、手に持っていた古い地図をカツオに見せた。

 

そこには、この山岳地帯の等高線が描かれていたが

 

ハンスが指差したラインは、不自然なほど「一直線」に、山頂に向かって伸びていた。

 

「この村の地形、そしてあの過剰な出力の動力炉……。俺の工兵としての勘が告げている」

 

ハンスは、闇の中にそびえ立つ、村の背後の『岩壁』を指さした。

 

「あれは、自然の崖じゃない。……人工物だ」

 

「え?」

 

カツオが目を凝らす。 月明かりに照らされたその岩肌は

 

よく見るとコンクリートと鉄骨が風化し、岩に擬態しているようにも見えた。

 

そしてそれは、天に向かって緩やかなカーブを描きながら伸びている。

 

「……まさか」

 

カツオの背筋が凍った。

 

「……マスドライバーですか……?」

 

「ああ。旧世紀か、あるいは開戦初期に極秘で建設され、放棄された『宇宙への架け橋』だ」

 

ハンスの目が、工兵の鋭い光を宿した。

 

「ハイエナ共……いや、その背後にいる連中は、この『眠れる巨人』を狙っているのかもしれん」

 

「そんな……。ここから宇宙(そら)へ……?」

 

「もし、このカタパルトが生きていればな」

 

ハンスはニヤリと笑った。

 

「どうやら俺たちは、とんでもない『火薬庫』の上に腰を下ろしてしまったようだぞ、コーチ」

 

オデッサの地下(最下層)から脱出した、彼らがたどり着いた場所。

 

そこは、宇宙(最上層)へと繋がる、巨大な遺産の上だった。

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