ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
一夜明けた『雲の上の廃村』
村人たちが昨日の勝利の余韻に浸り
壊れた石垣の修復作業をしている一方で
カツオとハンス、そして“教授”ビタム曹長の三人は
村の長老バトに案内され、村の背後にそびえる巨大な『岩壁』の内部へと足を踏み入れていた。
【封印された回廊】
岩壁の麓にある、巧妙に偽装された洞窟の入り口。
バトが、グフの起動鍵で古い電子ロックを解除すると、重厚な防爆扉が軋みを上げて開いた。
「……ここから先は、村の者でも俺しか知らん」
バトが松明代わりの懐中電灯を掲げる。
その先に広がっていたのは、自然の鍾乳洞ではない。
冷ややかなコンクリートと、どこまでも続くメンテナンス用通路。
そして、その通路の横には
闇の中へ向かって天高く伸びる、巨大な『レール』が鎮座していた。
「……間違いない」
ハンス・シュタイナー中尉が、壁面の銘板に積もった埃を指で拭った。
『U.C.0070 - ADMF (Asian Development Mass-driver Facility)』
「マスドライバー……。宇宙世紀70年に計画が凍結された、幻のアジア方面・質量投射施設だ」
ハンスの声が、洞窟内に反響する。
「当時、連邦政府が予算不足と環境保護団体の反対で放棄したはずだが……
まさか、ここまで完成していたとはな」
カツオ・イトウは、そのレールの規模に圧倒されていた。
「巨人の脊髄だ……。これが、山の頂上まで続いているんですか」
「ああ。全長4,000メートル」
バトが答えた。
「この村は、この施設の維持管理用居住区の成れの果てだ。
……俺たちが流れ着いた時、ここは無人だったが、この『化け物』だけは生きていた」
【眠れる箱舟】
三人は、メンテナンス用エレベーターをカツオが配線を直して動かし、施設の上層部へと昇った。
そこには、射出カタパルトの「装填区画」があった。
「……おい、中尉。あれを見ろ」
教授が、震える声で指さした。
カタパルトのレールの上に、巨大なコンテナ状の物体が固定されていた。
ジオン軍のHLV(大気圏離脱艇)ではない。
このマスドライバー専用に設計された、流線型の『貨物輸送ポッド』だ。
「……『箱舟』か」
ハンスが呟く。
「当時の連邦が、何を宇宙へ上げるつもりだったかは知らんが、
……MS四機くらいなら、余裕で詰め込める」
カツオの脳裏に、電撃的なひらめきが走った。
「ハンス中尉。……まさか」
「その『まさか』だ、コーチ」
ハンスは、ニヤリと笑った。
「このポッドに俺たちのMSを積み込み
あのバカでかい動力炉のエネルギーを全てこいつに注ぎ込む。そうすれば……」
「……
それは、戦場からの究極の『脱走』だった。
連邦の追撃も、ジオンの督戦隊も届かない場所。
宇宙へ上がれば、中立コロニーへ逃げることも、あるいは本国へ帰還することも可能になる。
「だが、問題がある」
バトが、冷や水を浴びせるように言った。
「こいつを動かすには、村の全電力を一時的にカットしなきゃならん。
それに、発射時の衝撃波と轟音は、この山脈全体に響き渡る。
……隠れ里の生活は、これでおしまいだ」
バトは、隻腕でカツオの胸を突いた。
「それに、このシステムを再起動させるには、複雑なOSの書き換えが必要だ。
……俺たちのようなロートルには無理だったが、今のここには『本職』がいる」
カツオは、制御盤を見つめた。 連邦軍の旧式OS。
……自分なら、やれる。
だが、それをやることは、この村の平穏を完全に破壊することを意味していた。
【嗅ぎつけた猟犬】
同時刻。南の空、輸送機ファット・アンクルの機内。
昨日逃走した「ハイエナ隊」のリーダー、キャプテン・ヴァルチャーは
通信機に向かって卑屈な声を出していた。
『……へい、旦那。間違いないですぜ。あの村の出力反応、そしてあの地形……。
間違いなく『お宝』が眠ってます』
通信の相手は、ノイズの向こうで冷徹に答えた。
『……ご苦労。マスドライバーの存在は、我々の情報部も掴んでいたが
座標が特定できずにいた。……よくやった』
『へへっ。で、報酬の方は……』
『弾んでやるさ。……ただし』
通信相手の声色が、温度を失った。
『その施設に「先客」がいるのは邪魔だ。
特に、第13独立工兵中隊……ハンス・シュタイナー。奴は目障りだ』
『へい? 奴らなら、俺たちが……』
『お前たちのようなゴロツキでは無理だ。……奴らを狩るために、私の部隊が直接出る。
お前たちは、その【露払い】をしろ』
通信が切れる。 ヴァルチャーは、冷や汗を拭った。
「……おいおい、マジかよ。エリート部隊かよ……。
こいつは、とんでもないことになりそうだぜ」
廃村の地下、制御室。
カツオは、コンソールにキーボードを接続し、診断プログラムを走らせていた。
「……どうだ、コーチ」
ハンスが背後から覗き込む。
「……動きます」
カツオは、モニターの光に照らされた顔を上げた。
「リニア・レールの伝導率は低下していますが、射出は可能です。……ただし」
「ただし?」
「
その間、村は停電し、防衛設備もダウンします」
ハンスは、腕を組んで天井を見上げた。
「30分か。……ハイエナ共が戻ってくるには十分な時間だな」
その時、村の監視塔の鐘が、再び激しく打ち鳴らされた。
今回は、空襲警報ではない。
もっと切迫した、地上部隊接近の合図だった。
『敵影確認! 数、多数! ……こ、これはハイエナ隊だけじゃない! 正規軍だ!』
バトの無線が悲鳴を上げる。
『これは……ジオンなのか?……識別信号不明の、黒いMS部隊だ!』
宇宙への架け橋を巡り
最下層の村は、巨大な陰謀の戦場と化そうとしていた。