ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
『雲の上の廃村』に、再び戦火の匂いが立ち込めた。
だが、今回の敵は、これまでの「ハイエナ隊」のようなゴロツキとは
纏っている空気が違っていた。
【処刑部隊】
監視塔のモニターに映し出されたのは
雪山を高速でホバー移動する、漆黒の塗装が施された三機の重モビルスーツだった。
「……あれは、ドムだ」
ハンス・シュタイナー中尉が、険しい表情でモニターを睨む。
「だが、ただのドムじゃない。……先行量産型のカスタム機。
そして先頭の機体……あれは『イフリート(MS-08TX)』か!?」
「イフリート……?」
カツオが聞き返す。
「グフとドムの中間に位置する、地上戦特化の試作機だ。生産数はごくわずか。
……そんなレア機体を駆るのは、キシリア配下の特務部隊か、あるいはマ・クベの私兵か……
イフリートとドム二機はまずいな……」
敵部隊からの通信が入る。回線は全周波数で強制的に割り込まれた。
『――こちら、ジオン公国軍・特別掃討隊「デュラハン」。指揮官のグリム少佐だ』
ノイズの向こうから、感情のない、機械的な声が響く。
『貴様らが保有する「施設」は、軍の最高機密に抵触する。
……よって、証拠隠滅のため、村の住人、及びそこにいる脱走兵の「全員抹殺」を通告する』
「抹殺、だと……?」
村の長老バトが義手の拳を震わせる。
「降伏勧告もなしか!」
『証人は不要だ。……攻撃開始』
【電力を賭けた選択】
「来るぞ! 総員、戦闘配置!」
ハンスが叫ぶ。
「待ってください!」
カツオ・イトウが、地下制御室のコンソールから叫んだ。
「マスドライバーを起動させれば、村の全電力がそっちに持っていかれます!
防衛用の砲台も、監視レーダーも、全てダウンします!」
「……だとしても、やるしかない」
ハンスは、カツオの肩を掴んだ。
「奴らの目的は『口封じ』だ。戦って勝っても、次から次へと増援が来る。
……生き残る道はただ一つ。奴らが村を蹂躙する前に、俺たちが
この事実を『外』へ持ち出すことだ」
ハンスは、バトの方を向いた。
「……バト殿。あんたの村を、危険に晒すことになる」
バトは、ニヤリと笑った。
「フン。どのみち『抹殺』されるんだ。
なら、デカい花火を打ち上げて、奴らの度肝を抜いてやるわ!」
バトは、村内放送のマイクを掴んだ。
「野郎ども! 聞け! これより、村の全電力を『巨人(マスドライバー)』に注ぎ込む!
電気が消えるぞ! 女子供はシェルターへ! 男は武器を持て!
……俺たちの『家』と『客人』を守り抜け!」
ブツンッ!
村中の照明が一斉に消え
代わりに地下の岩壁沿いの誘導灯だけが、不気味な赤色に点灯した。
地響きと共に、巨大な電力エネルギーが、リニア・レールへと吸い込まれていく。
「……充填開始。……射出可能まで、あと30分!」
カツオが叫ぶ。
【最下層の防衛線】
村の入り口。
電源を失った防御砲台は沈黙し、頼れるのはMSのみ。
バトの「
そして教授とルーキーの「旧ザク」二機が展開する。
『ヒャッハー! 電気が消えたぜ! チャンスだ!』
先行していた「ハイエナ隊」の生き残りが、ザク・キャノンで砲撃を開始する。
だが、その背後から、黒い風が抜けた。
ズバァァン!!
ハイエナ隊のザク・キャノンが、一瞬で両断された。
『なっ!?』
『邪魔だ、野良犬』
黒いイフリートが、ヒート・サーベルを振り抜く。
『我々の
味方殺し。
その冷徹さに、ビッグXが息を呑む。
「……イカれてやがる。こいつら、本物の処刑人だ!」
ズオオォォォ!
イフリートと、二機の黒いドムが、ホバー走行で一気に距離を詰めてくる。
速い。雪山の悪路をものともしない。
「させるかよ!」
ビッグXがマシンガンを撃つが
ドムは拡散ビーム砲で目くらましを行い、軽々と回避する。
『遅い』
ドムの一機が、ジャイアント・バズを構える。
ドォォン!
爆風がビッグXの機体を揺らす。
「くっ! 装甲が厚い! マシンガンじゃ止まらねえ!」
その時、上空から青い影が降ってきた。
「若造ども! 道を空けろォ!」
バトの継ぎ接ぎグフが、カツオの調整したスラスター全開で、イフリートに斬りかかる。
ガギィィン!!
ヒート・サーベルとヒート・ロッドが激突し、火花が散る。
『……ほう。グフか。……だが、動きに無駄が多い』
グリム少佐のイフリートが、最小限の動きでバトの攻撃をいなす。
『機体性能差ではない。……パイロットの「老い」だ』
ズバッ!
イフリートの返し技が、グフの右肩(ザクのパーツ部分)を浅く切り裂く。
「……ぐっ! 言ってくれるじゃねえか!」
バトは引かない。
「だがな、こちとら『死にぞこない』の意地があるんだよ!」
【カツオの戦場】
地下制御室。
カツオは、滝のような汗を流しながら、キーボードを叩き続けていた。
(電圧が不安定だ! このままじゃレールが焼き付く!)
村の継ぎ接ぎだらけの動力炉では
マスドライバーの要求電力に耐えきれず、出力が乱高下している。
「くそっ、どうすれば……!」
カツオの脳裏に、
限られたリソース、寄せ集めの機材、そして現場の工夫。
「……タカシなら、どうする?」
カツオは、自問自答した。
「……そうだ。『平均化』じゃない。『パルス制御』だ!
電力を一定に保とうとするから無理が出る。
……波に合わせて、送り込むタイミングを同調させれば!」
カツオは、OSのパラメーターを書き換える。
それは、マニュアルにはない、カツオ・イトウという『技術屋』が生み出した
即興の制御プログラム。
ウィィィン……ドクン、ドクン……
不安定だったエネルギー供給音が、力強いリズムへと変わっていく。
「……よし! 充填率上昇! これならイケる!」
カツオはマイクに向かって叫んだ。
「みんな、持ちこたえてくれ! あと15分だ!」
だが、モニターに映る地上の映像は、絶望的だった。
バトのグフが、イフリートに押され、片膝をついていた。
ビッグXのJ型も、ドムの連携攻撃に防戦一方だ。
(……15分。……長すぎる!)
その時、ハンスがカツオの肩に手を置いた。
「コーチ。……射出シークエンスは、自動化したな?」
「え? ああ、はい。あとは最終承認キーを押すだけですが……」
「なら、あとは任せる」
ハンスは、カツオに背を向け、部屋の出口へと向かった。
「中尉? どこへ!?」
ハンスは、部屋の隅に置いてあった
ビッグXから預かった『対MS用ロケットランチャー』を担ぎ上げた。
「……15分持たせるには、MSが足りん」
「まさか、生身で!?」
「俺は工兵だ。……『地雷原』を作るくらいはできる」
ハンスは、ニヤリと笑った。
「時間を稼ぐぞ。……俺たちの『未来』のためにな」