ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
『雲の上の廃村』は、黒い死神たちの蹂躙によって崩壊寸前だった。
だが、その絶望的な戦場を
一人の『生身の人間』が駆け抜けていた。
【巨人を狩る】
ハンス・シュタイナー中尉は
対MS用ロケットランチャーを担ぎ、雪の積もった廃屋の屋根を走っていた。
彼の眼下には、ホバー走行で村の広場へ突入しようとする
黒いドム(デュラハン隊2番機)が迫っていた。
(……速い。だが、その速さが命取りだ)
ドムは、雪上の凹凸をホバーで滑るように無視して進んでくる。
その
ハンスは、廃屋の陰から飛び出し
ドムの側面――ホバーユニットの
「工兵を舐めるなよ……!」
ズドン!
ロケット弾が発射される。
直撃。
だが、ドムの分厚い脚部装甲は、携帯火器の一撃程度では貫通しない。
『フン、小蝿が!』
ドムのパイロットが嘲笑い、拡散ビーム砲をハンスのいる廃屋に向けようとした。
だが、ハンスの狙いは装甲ではなかった。
ロケット弾の爆発で、雪山特有の『パウダースノー』が大量に舞い上がり
ドムのホバー吸気口に詰まったのだ。
さらに、その爆風は、村の地下水道のマンホールを吹き飛ばした。
『なっ!? 出力が……!』
吸気不全を起こしたドムがバランスを崩し
その巨体が、雪に隠されていたマンホールの穴へと、片足から突っ込んだ。
ガクンッ!
高速移動していたドムの自重が、関節に掛かる。
バキィッ!
という鈍い音と共に、ドムが転倒した。
「今だ、ビッグX!」
ハンスが叫ぶ。
「おおおおっ!」
待ち構えていた“ビッグX”のJ型が、転倒したドムに躍りかかる。
灼熱のヒート・ホークが、無防備なドムのコックピットハッチを叩き潰した。
【砕ける青い巨星】
一方、村の正門。
バトの「
ガギィィン!!
イフリートの二刀流ヒート・サーベルが、グフのヒート・ロッドを切り刻み
シールド(ジムの装甲板)をバターのように両断する。
『……退屈だ』
グリム少佐の冷徹な声が響く。
『機体性能、パイロット技量、全てにおいて劣る。……なぜ戦う?』
「……へっ、分かってねえな、エリート様は……」
バトは、血の混じった唾を吐いた。
グフの右腕(ザクのパーツ)は既に機能停止し、左足の関節も悲鳴を上げている。
「……『守るもん』がある奴はな、性能差なんかで引かねえんだよ!!」
バトは、残った左腕一本で、グフを突撃させた。
捨て身の体当たり。
だが、グリムのイフリートは
それを紙一重で見切り、カウンターの斬撃を放った。
ズバッ!!
グフの胴体が、斜めに切り裂かれた。
動力パイプが千切れ、オイルが血飛沫のように雪原に散る。
「……ぐ、ああ……!」
バトのグフが、膝から崩れ落ちる。
『終わりだ』
イフリートが、とどめを刺そうとサーベルを振り上げる。
その時、村中にサイレンが鳴り響いた。
地下制御室からの、カツオの声だ。
『エネルギー充填完了! 射出可能! 総員、マスドライバーへ撤退せよ! 繰り返す、総員撤退!』
【最後の撤退戦】
「バトさん!」
“教授”と“ルーキー”の旧ザク二機が、倒れたグフを引きずろうと駆け寄る。
『……馬鹿野郎! 構うな、行け!』
バトが通信で怒鳴った。
『俺の機体はもう動かん! 俺を運んでたら、全員死ぬぞ!』
「しかし!」
『行け! 若いのが生き残るのが、大人の役目だ!』
バトは、残った左手のフィンガーバルカンを、イフリートに向けて乱射した。
『さっさと行け! コーチと、あのハンス中尉を連れて、
グリム少佐は、バルカンを煩わしそうに弾き、バトのグフを踏みつけた。
『……往生際が悪い』
「クソッ……! バトのおっさん!」
ビッグXが歯噛みする。
その時、雪の中から飛び出してきたハンスが、教授の旧ザクの手のひらに飛び乗った。
「行くぞ! バト殿の覚悟を無駄にするな! マスドライバーの入り口へ走れ!」
ハンスの命令に、穴熊部隊の三機は、涙を呑んで反転した。
背後で、バトのグフが、自爆覚悟でイフリートに組み付く音が聞こえた。
ドォォン!!
小規模な爆発が起き、イフリートの視界を黒煙が塞ぐ。
『……チッ。自爆か』
グリム少佐は、無傷のイフリートで煙を払い、逃走するザクたちを見据えた。
『逃がさん。……全機、追撃せよ』
【箱舟への搭乗】
岩壁の偽装ゲートを突破し、三機のザクはマスドライバーの内部へ滑り込んだ。
そこには、巨大な『貨物輸送ポッド』が口を開けて待っていた。
「……来た!」
制御室から駆け上がってきたカツオが、誘導灯を振る。
「そのままポッドへ! MSを固定しろ!」
先頭のルーキー機、続いて教授機(ハンス同乗)
最後に
中は、MS四機を収納できる広さがあったが、今は三機。
「……バトさんは?」
カツオが、ハンスに尋ねる。
ハンスは、煤けた顔で首を横に振った。
「……門番を全うされたよ」
カツオは唇を噛み、ポッドのハッチ閉鎖レバーに手をかけた。
「……出発します!」
だが、その時。
トンネルの入り口から、黒い死神――グリムのイフリートが、スラスター全開で突入してきた。
『見つけたぞ、ネズミども!』
イフリートが、ショットガンを構える。
「しまっ……! ハッチが間に合わない!」
「コーチ! 伏せろ!」
最後尾のビッグXが、J型のマシンガンを乱射し、イフリートを牽制する。
だが、イフリートは止まらない。
ポッドの発射レールに乗り上げ、直接乗り込んでくる勢いだ。
『ここが貴様らの棺桶だ!』
絶体絶命の瞬間。
ポッドの奥から、教授の旧ザクが、あるものを抱えて前に出た。
それは、ハンスが持ち出した
『対MS用ロケットランチャー』の予備弾頭を束ねた、即席の爆弾だった。
「中尉! コーチ! 発射してください!」
教授が叫ぶ。
「こいつを入り口にばら撒いて、起爆します!
その爆風に乗れば、イフリートを吹き飛ばせる!」
「だが、それではポッドも損傷するぞ!」
「やるしかねえ!」
ビッグXが叫ぶ。
「コーチ! スイッチを押せぇぇ!!」
カツオは、震える指で
コンソールの『射出』ボタンを叩いた。
「……行けぇぇぇッ!!」