ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

46 / 92
第3部 宇宙の漂流者
第45話 宇宙の嘘 (Lie of Space)


貨物輸送ポッドが、地球低軌道で漂流を開始した直後。

 

彼らの眼前に迫ったのは、地球連邦軍のサラミス級巡洋艦だった。

 

 

【カツオの緊急作戦】

 

ポッドの狭い管制ブース。

 

カツオ・イトウは、背後のMSが発する重圧を感じながら、サラミスの通信に応答した。

 

『応答せよ、民間船。貴機はなぜ、重要航路から外れたこの宙域を航行しているのか。

 識別信号が未登録だ』

 

カツオは、落ち着いた、それでいて憔悴しきった元連邦士官の声を装った。

 

「こちら、連邦軍極秘施設所属、貨物ポッド『アーク-01』です。

 操縦士のカツオ・イトウ准尉です。至急、パスコード【E-413】で認証をお願いします」

 

彼は、士官学校時代に習得した

 

使われるはずのなかった連邦軍の機密コードを、自信満々に打ち込んだ。

 

このパスコードは、放棄された施設や試作機の残骸を回収する部署のものだった。

 

『……E-413。認証完了。まさか、極秘開発局の人間がこんなところに……』

 

サラミスの艦長の声に、わずかな動揺が走る。

 

「艦長殿。我々は、地上の戦闘に巻き込まれ、意図せずマスドライバーから射出されました」

 

カツオは、一気にまくし立てる。

 

「積み荷は、オデッサから回収中の特殊な高純度レアメタルと、極秘の技術データです。

 積み荷の一部が損傷し、現在、非常に不安定な状態にあります」

 

 

【船長の賭け】

 

サラミスの艦長、ヴェイン大佐は、疑いの目を細めていた。

 

『なぜトランスポンダーを起動させない。そして、なぜ救援信号を出さない?』

 

「トランスポンダーは、地上での戦闘で破壊されました。救援信号は……積み荷の揮発性が高く

 下手に救援部隊を呼んで事故を起こせば、地球軌道上に大惨事を引き起こします」

 

カツオは、ポッド内に詰め込まれた三機のザク(()()()()()()()()()()()()())を念頭に

 

堂々と嘘をついた。

 

背後では、ハンス・シュタイナー中尉が

 

ポッドのハッチに銃を構え、通信の成り行きを固唾を呑んで見守っていた。

 

(……いいぞ、コーチ。その調子だ。嘘も、専門用語で固めれば真実になる)

 

ハンスは、カツオの冷静な対応に、改めて感心した。

 

ヴェイン大佐は、しばらく沈黙した後、ため息を漏らした。

 

『……分かった。これ以上、我々の船団に貴様の【揮発性の積み荷】を近づけたくない。

 我々は地球への補給路を急いでいる』

 

大佐は、面倒事を避けることを選んだ。

 

『現在の貴機の状態では、地球圏の主要航路に乗せるのは危険だ。座標を送る。

 サイド6宙域に近い「プロスペクター・ステーション」へ向かえ。

 そこなら補給と改修ができる』

 

 

【宇宙の荒野へ】

 

通信が切れると、カツオは全身の力が抜け、その場に崩れ落ちた。

 

「……やりました。助かりました」

 

ハンスがすぐに駆け寄った。

 

「さすがはコーチ。あんたのIDと演技力に、我々の命を救われた」

 

ハンスは、背後のMSに向かって指示を出す。

 

「ビッグX! ルーキー! 巡洋艦のレーダーが届かなくなったのを確認次第

 ポッドの簡易推進器を使い、サイド6方面へ加速する!」

 

ポッドの推進器は、マスドライバーによる射出後の微調整用であり

 

長距離航行能力は皆無に等しい。

 

彼らは、わずかな推進剤と、慣性の力に頼るしかなかった。

 

「……中尉。これで、俺たちはどうなるんですか」

 

カツオは、窓の外に広がる、光の粒のような星々を見つめた。

 

「どうなる、か」

 

ハンスは、ポッドの制御盤に、プロスペクター・ステーションまでの航路データを入力する。

 

「俺たちは、この宇宙で最も価値のない存在――『所属不明のジャンク』だ」

 

「だが、同時に、この貨物ポッドは、戦場から遠く離れるための『箱舟』となった」

 

ハンスは、カツオと、そして MSに搭乗する部下たちを見た。

 

「行くぞ。サイド6宙域は、連邦とジオンの監視が緩くなる、宇宙の『辺境』だ。

 そこでMSの修理、そして生存に必要な物資を調達する」

 

彼らの前に広がるのは、無限の闇。

 

補給も援軍もない、過酷な宇宙の旅路だった。

 

宇宙は、地球の最下層よりも遥かに広大で、冷たい『最上層』だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。