ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
サイド6宙域の端、巨大な小惑星をくり抜いて作られた『プロスペクター・ステーション』
そこは、正規のコロニーに入れない
流れ者、海賊、そして裏社会の商人たちが巣食う、欲望と鉄屑の岩礁だった。
【海賊の通行手形】
貨物ポッド「アーク-01」は、鹵獲した海賊ボールを牽引したまま
ステーションの汚れたドックへと接近していた。
『おい、海賊野郎。……セリフは忘れてないだろうな』
ハンス・シュタイナー中尉が、コクピットの中で縛り上げた海賊にナイフをちらつかせる。
『は、はい! ……こ、こちら「スペース・クラブ」。
デブリ帯で大物を拾った。ドックを開けてくれ……』
海賊が震える声で通信を入れる。
ステーションの管制官は、疑いもせずにゲートを開けた。
『了解。C-4ブロックへ入れ。……入港料は現物払いだぞ』
ドックのエアロックが開き、空気の流れるエリアへとポッドが滑り込む。
そこは、整備オイルと安酒、そして腐った冷却水の匂いが充満する、薄暗い巨大な倉庫街だった。
【地上用の屈辱】
ポッドが固定され、彼らはようやく外の空気を吸った。
目の前には、スクラップの山と、それを品定めする怪しいジャンク屋たちがたむろしている。
「……ひでえ場所だ。オデッサの泥の方がマシかもしれねえ」
“ビッグX”准尉が、ザクII J型のコックピットから降りてきて
床に唾を吐こうとして――無重力エリアだったため、危うく自分の顔にかかりそうになった。
「クソッ! どこもかしこもフワフワしやがって!」
そこへ、脂ぎった作業服を着た、大柄な女ジャンク屋が近づいてきた。
「よう、新入り。海賊ボールを持ってきたってのはアンタらか?」
彼女は『マダム・ヤン』と名乗った。
このブロックを取り仕切る顔役だ。
ハンスが前に出る。
「ああ。こいつを売りたい。それと、俺たちのMSの整備と補給を頼みたい」
ヤンは、ポッドの中に格納された三機のザクを品定めするように眺め、鼻で笑った。
「旧ザクが二機に……おいおい、冗談だろ?」
彼女は、ビッグXのJ型を指差して爆笑した。
「ザクII J型(陸戦型)!? こんな『重り』を宇宙まで持ってきたのかい?
こいつは冷却系が空冷式だ。宇宙じゃすぐに熱暴走して爆発するぞ。
それに、姿勢制御バーニアもスカスカだ。ただの『鉄の棺桶』だよ」
「なっ……!?」
ビッグXの顔が真っ赤になる。
「俺の愛機を棺桶だと!?」
「事実さ。こんなモン、スクラップとしての価値しかねえよ」
ヤンは冷たく言い放った。
「ボールの買取額じゃ、こいつらを宇宙用に換装する費用の半分にもならねえ。
……帰りな、地べたの這いずり虫共」
【コーチの交渉術】
ビッグXが激昂して殴りかかろうとした時、カツオ・イトウがその腕を掴んで止めた。
「……待ってください、マダム」
カツオは、ヤンの前に進み出た。
「このJ型は、ただの陸戦型じゃありません。
……見てください。脚部のサスペンションと、ジェネレーターの出力ログを」
カツオは、でっち上げの嘘と、事実を巧みに混ぜてプレゼンを始めた。
「この機体は、オデッサの激戦区で、限界稼働時間記録を更新した『カスタム機』です。
フレームの剛性は、通常のF型(宇宙用)を遥かに上回っています」
「……ほう?」
ヤンが眉をひそめる。
「それに」
カツオは、ハンスの方を見た。
「我々には、最高の『腕』がある。……換装作業の
マダムは、パーツと場所を貸してくれるだけでいい」
「……整備代を浮かそうってのか? 素人が」
「素人じゃありません」
ハンスが、ニヤリと笑って工具箱を掲げた。
「俺たちは、何もない地下からここまで這い上がってきた『プロの工兵』だ。
……あんたの店にあるガラクタの山、俺たちなら『宝の山』に変えてみせるが?」
ヤンは、カツオの理知的な目と、ハンスの不敵な目を見比べた。 そして、ニヤリと笑い返した。
「……面白い。口だけじゃないか、試してやろうじゃないか」
ヤンは、ドックの奥にある、さらに汚い区画を指差した。
「あそこの『ジャンク置き場』にあるパーツは使い放題だ。
……ただし、48時間以内に、その陸戦型ザクを『宇宙でまともに動く代物』に仕上げてみせな。
できなけりゃ、機体ごとスクラップにして売り払う」
【最下層の魔改造】
「48時間だと!? ふざけやがって!」
ビッグXが工具を叩きつける。
「J型を宇宙用にするには、バックパックの換装、脚部バーニアの増設、冷却系の水冷化
……正規の工場でも一週間はかかるぞ!」
「やるしかない」
カツオは、すでにジャンクの山を漁り始めていた。
「ビッグX、あんたの機体だ。あんたが一番よく分かってるはずだ。
……生き残るために、プライドを捨てて『継ぎ接ぎ』にする覚悟はあるか?」
カツオが拾い上げたのは
大破した『リック・ドム』の巨大な脚部スラスターの残骸と
連邦軍の『ジム・コマンド』のバックパックだった。
「……おい、コーチ。まさか、ドムとジムのパーツを、俺のザクに付ける気か!?」
「使えるものは何でも使う。それが『最下層(アンダー・ドッグス)』の流儀でしょう?」
カツオは、ハンスに目配せした。
「中尉。配管と溶接は任せます」
「オーケーだ、コーチ」
ハンスは溶接バーナーに火をつけた。
「さあ、始めようか。……史上最高に不格好で
最強の『宇宙用・陸戦型ザク』を作ってやろうぜ」
無法街の片隅で、ジャンクパーツをかき集めた
とんでもない『現地改修(魔改造)の夜』が始まろうとしていた。