ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第50話 指揮官の決断 (The Commander's Decision)

デブリ帯の静寂を破り、連邦軍のサーチライトが「穴熊部隊」を捉えていた。

 

包囲網を形成するのは、サラミス級巡洋艦一隻と、護衛のジム・コマンド(宇宙戦仕様)三機。

 

そして、通信機の向こうには、あのヴェイン大佐の声があった。

 

 

【暴かれた嘘】

 

『……アーク-01のカツオ・イトウ准尉、と言ったな』

 

ヴェイン大佐の声は、以前よりも低く、威圧的だった。

 

『貴官が提示したパスコード【E-413】だが

 ……本部照会した結果、該当する極秘任務は存在しなかった。

 さらに言えば、そのコードは半年前に凍結された「廃棄処理班」のものだ』

 

カツオ・イトウは、小型艇の操縦席で息を呑んだ。

 

(……調べられたか! やはり、正規軍のチェックは甘くない!)

 

『武装を解除しろ。貴様らが何者かは知らんが、連邦の威を借る「海賊」と見なす』

 

「待て! やれるかよ!」

 

“ビッグX”准尉が叫ぶ。

 

「俺の『フランケン』は絶好調だ! ジムの三機くらい、食ってやる!」

 

「やめろ、ビッグX!」

 

ハンス・シュタイナー中尉が制止する。

 

「相手はサラミスだ。艦砲射撃を受ければ、デブリごと消し飛ぶぞ」

 

ハンスは、カツオを見た。

 

「……どうする、コーチ。嘘はバレた。次は『本音』でいくか、それとも『商売』にするか?」

 

 

【銃口越しのプレゼン】

 

カツオは、冷や汗を拭い、通信マイクを握り直した。

 

「……ヴェイン大佐。嘘をついたことは謝罪します。我々は連邦の正規部隊ではありません」

 

『……降伏の意思表示か?』

 

「いいえ。……『取引』の提案です」

 

カツオは、モニターに映る「幽霊船(パプア級)」の貨物データを、サラミスへ転送した。

 

「この船の積荷を見てください。……ただの物資じゃありません。

 ジオンの新型MS『ゲルググ』に使われる予定だった

 ビーム兵器のジェネレーターとEパックのパーツです」

 

サラミスのブリッジで、ヴェイン大佐が目を見開いた。

 

「……ビーム兵器の技術だと?」

 

「そうです。もし我々がここで抵抗し、戦闘になれば、このパプア級は誘爆し

 貴重な技術サンプルは宇宙の塵になります。

 ……それは、連邦軍にとっても損失ではありませんか?」

 

カツオは、心理学を応用した『損失回避』の交渉術に出た。

 

相手に「勝つこと」よりも「失わないこと」を意識させる。

 

「我々を見逃してください。そうすれば、この船と

 積荷の『8割』を、無傷で連邦軍に引き渡します」

 

『……8割、だと? 残りの2割はどうするつもりだ』

 

「我々がいただきます」

 

カツオは、はっきりと言った。

 

「我々がここへたどり着くまでの『回収費用』です。……悪い話ではないはずだ」

 

 

【予期せぬ時限爆弾】

 

ヴェイン大佐が沈黙し、決断を下そうとしたその時。

 

“教授”ビタム曹長が、パプア級の制御盤を見て悲鳴を上げた。

 

『ちゅ、中尉! 大変です!この船、貨物室のハッチが開放されたことで

 自爆装置のタイマーが起動しました!』

 

「何だと!?」

 

『あと3分で、メインエンジンが臨界に達します! 自爆です!』

 

カツオの顔色が蒼白になる。

 

「大佐! 聞こえましたか! 取引とか言ってる場合じゃない! この船は爆発します!」

 

ヴェイン大佐も、パプア級の熱源上昇を確認した。

 

『……クソッ! 亡霊め、タダでは死なんということか!』

 

大佐は即断した。

 

『全機、パプア級から離脱せよ!……そこの「ジャンク屋」ども!

 貴様らもだ!巻き込まれたくなかったら消え失せろ!』

 

「……交渉成立、ですね!」

 

 

【炎の中の略奪】

 

「急げ! 欲しいもんだけ持ってずらかるぞ!」

 

ハンスが叫ぶ。

 

ビッグXのカスタム・ザクが、パプアの貨物室から

 

最も重要そうなコンテナ(ビーム・ジェネレーターの基幹パーツが入った箱)を

 

その巨大なボール・アームで鷲掴みにした。

 

「欲張りすぎだ、ビッグX! 重くなるぞ!」

 

「うるせえ! これがなきゃ、俺のザクはただの『デブ』なんだよ!」

 

三機のザクとカツオのランチは、スラスター全開でパプア級から離脱する。

 

連邦のジム・コマンド隊も、慌てて後退していく。

 

その直後。

 

カッ……!!

 

パプア級輸送艦が、白い閃光となって爆発四散した。

 

衝撃波がデブリを吹き飛ばし、カツオたちの機体を木の葉のように揺さぶる。

 

 

爆発が収まった後。

 

サラミス級巡洋艦は、パプアの残骸(燃え残ったコンテナ群)の回収作業に入っていた。

 

カツオたちが「8割」置いていった、ビーム技術の残骸だ。

 

ヴェイン大佐は、ブリッジから、遠ざかっていく「不格好なザク」と小型艇の影を見つめていた。

 

「……艦長。追撃しますか?」

 

副官が尋ねる。

 

「いや、いい」

 

ヴェインは首を振った。

 

「奴らは約束通り、技術サンプルを残していった。

 ……それに、あの『フランケンシュタイン』のようなMSを見ろ。

 下手に手を出せば、こちらのジムもただでは済まなかっただろう」

 

ヴェインは、カツオが送ってきたIDデータ(偽造)を削除した。

 

「……『カツオ・イトウ』か。面白い男だ。……だが、次はこうはいかんぞ」

 

 

一方、戦場を離脱したカツオたち。

 

ビッグXのザクが抱えたコンテナの中には、確かに『未来』が詰まっていた。

 

「……危なかった」

 

カツオは、シートに深く沈み込んだ。

 

「連邦にも『商売』ができる将官がいて助かったな。冷や冷やしたぞ」

 

ハンスも大きくシートにもたれかかった。

 

「だが、手に入れたぞ」

 

ハンスが、コンテナを愛おしそうに眺める。

 

「ゲルググのジェネレーター。……これで、俺たちのザクは『進化』できる」

 

「進化、ですか」

 

カツオは、ビッグXの機体を見た。

 

「……魔改造の次は、ビーム兵器の搭載。……いよいよ、引き返せなくなってきましたね」

 

彼らは再び、プロスペクター・ステーションへの帰路につく。

 

手に入れた「マ・クベの遺産」は

 

彼らを新たな戦い――宇宙の最下層での勢力争いへと巻き込んでいくことになる。

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