ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第52話 機雷原の悪意 (The Minefield of Malice)

プロスペクター・ステーション、マダム・ヤンのドック。

 

試射の成功に沸く一方で、カツオ・イトウは

 

黒焦げになった『試作ビーム・バズーカ』の砲身を前に頭を抱えていた。

 

 

【熱との戦い】

 

「……ダメだ。冷却が全く追いついていない」

 

カツオは、タブレットのデータをハンス・シュタイナー中尉に見せた。

 

「外付けジェネレーターの出力は十分ですが

 ザク本体からの冷却パイプでは、熱を捨てきれません。

 次は暴発して、ビッグXごと蒸発します」

 

「なら、どうする?」

 

「もっと強力な『肺』が必要です。

 ……MS用の高性能ラジエーターか、戦艦クラスの冷却ユニットを移植するしか……」

 

それを聞いていたジャンク屋のマダム・ヤンが

 

請求書(ドックの壁の修理代)を叩きつけながら口を挟んだ。

 

「……ラジエーターだって? 心当たりならあるよ」

 

ヤンは、宇宙図の一部を表示させた。

 

「ここから宙域F-9。通称『機雷原(マイン・フィールド)』。

 ……そこに、一週間前に沈んだジオンの軽巡洋艦『ムサイ』の残骸がある。

 そいつの冷却ユニットなら、アンタらのバケモノ(ザク)も冷やせるだろうさ」

 

「ムサイか。……だが、『機雷原』とは穏やかじゃないな」

 

ハンスが目を細める。

 

「ああ。縄張りを争うギャングどもが、無差別に自動追尾機雷をばら撒いた危険地帯さ。

 ……回収できれば、そのユニットで借金をチャラにしてやる」

 

 

【老兵の目】

 

出撃メンバーは選抜された。

 

ビッグXの「フランケン・ザク」は、ビーム兵器の修理と調整のためドックに残留。

 

出撃するのは、“教授”ビタム曹長と“ルーキー”クェン兵長の旧ザク二機

 

そしてカツオとハンスが乗る小型作業艇(ランチ)だ。

 

「……嫌な予感がしますねえ」

 

教授が、旧ザクのセンサー感度を最大にしながらボヤく。

 

宙域F-9は、破壊されたデブリと、肉眼では見えない小型機雷が漂う死の海だった。

 

「頼むぞ、教授。旧ザクのセンサーは旧式だが

 余計なフィルターがない分、熱源探知だけは鋭敏だ」

 

ランチのカツオが励ます。

 

「あんたの『目』だけが頼りだ」

 

「へいへい。……おっ、反応あり。時計の針、2時の方向。

 ……機雷です。アクティブ・モードだ」

 

教授の指示に従い、ルーキーが慎重にマシンガンで機雷を狙撃、爆破処理していく。

 

地味だが、神経を削る作業だ。

 

やがて、デブリの影に、横倒しになった緑色の巨体――ムサイ級軽巡洋艦の残骸が見えてきた。

 

「……ビンゴだ。エンジンブロックは無傷だぞ」

 

ハンスがランチの窓から確認する。

 

「よし、教授、ルーキー。作業開始だ。バーナーで冷却ユニットを切り出せ」

 

 

【忍び寄る赤】

 

作業が順調に進んでいた、その時。

 

教授のレーダーが、背後からの接近反応を捉えた。

 

「……中尉!後方に熱源!……速い!機雷を避けて突っ込んできます!」

 

デブリの影から現れたのは、先日撃退したはずの「レッド・スネーク」の残党だった。

 

リーダー格の赤いズゴック(片腕破損)と、手下の「ドラケンE(作業用MSの武装型)」が数機。

 

『見つけたぞ、ドロボー猫ども!』

 

ズゴックのパイロットの怒号が響く。

 

『俺たちに恥をかかせやがって!ビームの撃てないザクなんぞ、ただの的だ!』

 

「……チッ。尾けられていたか!」

 

ハンスが舌打ちする。

 

「教授!ルーキー!応戦しろ!俺たちは冷却ユニットの切り出しを急ぐ!」

 

「無茶ですよ!旧ザクでズゴックの相手なんて!」

 

ルーキーが叫ぶが、ドラケンEの実体弾バズーカが容赦なく襲いかかる。

 

 

【機雷原のダンス】

 

「ヒャハハ! 死ねぇ!」

 

ギャングたちは、機雷の位置を把握しているのか、巧みに爆発物を避けながら攻撃してくる。

 

一方、教授たちは機雷を警戒して大きく動けない。

 

「くそっ!これじゃサンドバッグだ!」

 

教授の旧ザクが、シールドで砲弾を受けるが、装甲が悲鳴を上げる。

 

ランチのカツオは、戦場全体を見渡し、あることに気づいた。

 

「……ハンス中尉。奴ら、機雷の位置を知っているわけじゃない。

 ……『機雷の識別信号』を持っているんです」

 

「何?」

 

「奴らは自分の機雷に反応しないよう、信号を出している。だから突っ込んでこれる!」

 

「……なら、話は早い」

 

ハンスは、作業用アームの操縦桿を握り直した。

 

「コーチ。あんたは電子戦で、その信号を解析・ジャミングしろ。

 ……その間、奴らを『誘い込む』……俺がやる」

 

「中尉!?」

 

ハンスは、ランチをムサイの残骸から離し

 

なんと未処理の機雷群のど真ん中へと突っ込ませた。

 

『あいつ、自殺する気か!?』

 

ズゴックが、ランチを追って機雷原へ入ってくる。

 

『逃がすか! 生身で宇宙に放り出してやる!』

 

「今だ、コーチ! 信号を遮断しろ!」

 

カツオは、ランチの通信機をハッキング・モードに切り替え、広帯域のノイズを放射した。

 

「……食らえ!」

 

ザザザザッ!!

 

強力なジャミングが、宙域を覆う。

 

その瞬間、ズゴックが発していた『味方識別信号』がかき消された。

 

周囲に漂っていた自動追尾機雷のセンサーが、一斉に赤く輝く。

 

目の前の「熱源(ズゴック)」を、ただの「敵」として再認識したのだ。

 

『な、なんだ!?機雷のアラートが……!うわあああ!こっちへ来るな!』

 

 

ドォォン!!

ドン!ズドォォン!!

 

 

無数の機雷が、赤いズゴックに吸い寄せられ、次々と誘爆した。

 

装甲が剥がれ、推進器が吹き飛ぶ。

 

「……自業自得だ」

 

ハンスは、爆炎を背に、ランチを作業に戻した。

 

「教授、ルーキー!敵は壊滅した。……最高の『お土産』を持って帰るぞ!」

 

 

数時間後。

 

プロスペクター・ステーションに帰還した彼らは

 

ムサイから回収した巨大な冷却ユニットを、ビッグXのフランケン・ザクの背中に移植していた。

 

「……すげえ。まるで冷蔵庫を背負ってるみてえだ」

 

ビッグXが、さらに不格好になった愛機を見上げて苦笑する。

 

カツオは、パイプの接続チェックを終え、頷いた。

 

「これで、熱問題は解決です。……理論上は、連続3発までならビームを発射できます」

 

「3発か。上等だ」

 

ハンスは満足げに言った。

 

だが、彼らはまだ気づいていなかった。

 

ステーションの入港ゲートに、地球連邦軍のIDを持つ

 

漆黒に塗装された高速艇が静かにドッキングしていたことを。

 

艇から降り立ったのは、冷徹な目をした男――グリム少佐。

 

デュラハン隊が、ついに宇宙へ上がり、彼らの匂いを嗅ぎつけていた。

 

「……見つけたぞ。ドブネズミども」

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