ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第53話 忍び寄る処刑人 (The Creeping Executioner)

プロスペクター・ステーションの歓楽街。

 

無法者たちが集う安酒場で

 

「穴熊部隊」の面々は久しぶりの祝杯を挙げていた。

 

 

【嵐の前の安酒】

 

「へへっ!見たかよ、あのズゴックの逃げっぷりを!」

 

“ビッグX”准尉が、オイルのような匂いのする合成酒を(あお)りながら上機嫌で笑う。

 

「俺の『フランケン』は最強だ!ビームも撃てる、スピードも速い!

 もう誰も俺を『鈍重』とは言わせねえ!」

 

「調子に乗るなよ、ビッグX」

 

“教授”ビタム曹長が苦笑する。

 

「まだ冷却系の調整が終わってない。あと、あのバックパック、重すぎて姿勢制御がシビアだぞ」

 

カツオ・イトウは、喧騒から少し離れた席で

 

ハンス・シュタイナー中尉と向かい合っていた。

 

グラスの中の氷が溶けていくのを眺めながら、カツオは呟いた。

 

「……静かすぎますね」

 

「ああ」

 

ハンスが頷く。

 

「あの『レッド・スネーク』を追い払ったのに、他のギャングからの干渉がない。

 ……まるで、もっと『ヤバイ連中』を恐れて、誰も俺たちに近づこうとしないみたいだ」

 

カツオは、胸騒ぎを覚えていた。

 

「……戻りましょう、中尉。ルーキーだけで見張りを任せているのも心配だ」

 

 

【ドックの影】

 

マダム・ヤンのドック。

 

見張りの“ルーキー”クェン兵長は

 

整備デッキの隅で、端末で音楽を聴きがら、うとうとしていた。

 

その背後。

 

エアロックの影から、音もなく現れた黒い影があった。

 

黒いノーマルスーツ(宇宙服)に身を包んだ男――グリム少佐だ。

 

グリムは、無音の足取りでルーキーに近づき、その首筋に目に見えぬ速さで手刀を打ち込んだ。

 

「ぐっ……」

 

ルーキーは声も上げずに気絶し、その場に崩れ落ちる。

 

グリムは、倒れたルーキーを一瞥もせず

 

ドックの中央に鎮座する巨体――「ザクII・高機動“最下層”カスタム」へと歩み寄った。

 

「……なんだ、この醜悪な機体は」

 

グリムは、背中のムサイ級冷却ユニットと、ゲルググ用ジェネレーターを見上げ、軽蔑の色を浮かべた。

 

「連邦とジオンの技術を()()ぎし、尊厳を冒涜した鉄屑の塊(フランケンシュタイン)だ。

 ……いかにも、あの『工兵』と『裏切り者』がお似合いの機体だ」

 

グリムは、懐からプラスチック爆弾を取り出した。

 

「……ここで破壊するのは容易いが、まずは『ネズミ』を始末するのが先か」

 

 

【鉢合わせ】

 

ドックのゲートが開く音がした。

 

カツオとハンス、そしてビッグXたちが戻ってきたのだ。

 

「おいルーキー!起きろ!交代だ……って、おい!」

 

ビッグXが、倒れているルーキーに気づき、駆け寄ろうとする。

 

「待て!ビッグX!」

 

ハンスが鋭く制止した。

 

「……いるぞ」

 

ドックの照明が届かないコンテナの影から、グリム少佐がゆっくりと姿を現した。

 

その手には、サイレンサー付きの拳銃が握られている。

 

「……久しぶりだな、ハンス・シュタイナー。……そして、連邦の脱走兵、カツオ・イトウ」

 

「……あんたは!」

 

カツオが息を呑む。

 

マスドライバー襲撃時の指揮官。

 

声紋が一致する。

 

「……デュラハン隊!」

 

「わざわざ宇宙(そら)までご苦労なことだ」

 

ハンスが、ビッグXを背に隠しながら前に出る。

 

「俺たちのような敗残兵に、特務部隊の少佐殿が何の用だ?まさか、観光か?」

 

「貴様らは知りすぎた」

 

グリムは、感情のない声で告げた。

 

「あの『マスドライバー』の存在。そして、そこに隠されていた物資のリスト。

 ……生かしておくわけにはいかない」

 

「物資のリスト、だと?」

 

カツオが眉をひそめる。

 

(我々が持ち出したのはビーム技術のパーツだけだ。

 ……奴らは、他にも『何か』を隠していたのか?)

 

「問答無用」

 

グリムが引き金を引く。

 

シュッ!

 

「伏せろ!」

 

ハンスがカツオを突き飛ばす。

 

弾丸が床の鉄板を弾く。

 

「ビッグX!ルーキーを担げ!カツオ、照明を落とせ!」

 

ハンスは、ポケットから「閃光手榴弾」を取り出し、投げつけた。

 

工兵の必需品だ。

 

カッ!!

 

強烈な閃光がドックを白く染める。

 

「……小細工を」

 

グリムは腕で目を覆いながらも、的確に発砲を続ける。

 

 

【強制退去】

 

激しい銃撃戦の中、ドックのスピーカーからマダム・ヤンの怒鳴り声が響いた。

 

『おい!何の騒ぎだ!私の店でドンパチやる奴があるかい!』

 

「ヤン!客人だ!」

 

ハンスが遮蔽物の陰から叫ぶ。

 

「ジオンの『秘密警察』がお出ましだ!あんたも巻き添えになるぞ!」

 

『……チッ!疫病神どもめ!』

 

ヤンは即断した。

 

『ドックのゲートを緊急開放する!さっさと出ていきな!

 ……これ以上いたら、私がステーションの管理組合に消される!』

 

ウゥゥゥン!!

 

警報音と共に、宇宙へ続くエアロックが開き始める。

 

「ビッグX!ザクに乗れ!ルーキーと教授はコクピットに押し込め!」

 

ハンスが指示を出す。

 

「カツオ!小型作業艇(ランチ)を出せ!」

 

「逃がさん」

 

グリムは、通信機で部下へ指令を送った。

 

『目標はMSとランチで出る。……リック・ドムII(ツヴァイ)隊、発進せよ。

 ドックから出た瞬間を狙撃しろ』

 

 

ビッグXが、気絶したルーキーと教授を

 

無理やりコックピットに放り込み、フランケン・ザクを起動させる。

 

「……面白ぇ! 表にはテメェの子分が待ってるってか!」

 

カツオとハンスもランチに飛び乗った。

 

「行くぞ! ここは袋のネズミだ!」

 

エアロックが開く。

 

その向こうには、ステーションの光を背に

 

漆黒の塗装を施された最新鋭機――リック・ドムIIが三機

 

ビーム・バズーカを構えて待ち構えていた。

 

「……出たな、化物」

 

グリムは、ドックに残され、去りゆく彼らを見送った。

 

「宇宙の藻屑となるがいい」

 

最下層の住人たちは、安息の地を追われ

 

再び死の宇宙(そら)へと放り出された。

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