ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
警報音が鳴り響くプロスペクター・ステーションのドック。
強制開放されたエアロックの向こう側、漆黒の宇宙空間には
三機のリック・ドムII(ツヴァイ)が
冷徹な死神のようにビーム・バズーカを構えて待ち構えていた。
【処刑の開門】
『出てきた瞬間を狙え。……蒸発させろ』
デュラハン隊の小隊長が、無慈悲な号令を下す。
エアロックが全開になる。
ドムIIの三門のバズーカが、一点に集中砲火を浴びせようとした――その瞬間。
ガゴンッ!!
ドックの中から飛び出してきたのは、ザクではなかった。
それは、ドック内に放置されていた巨大な廃コンテナだった。
『なんだ!?囮か!』
ドムIIの一機が反射的にトリガーを引く。
ズビョォォォ!!
太いビームがコンテナを貫き、爆発四散させる。
その爆炎とデブリの幕を突き破り、真打ちが現れた。
「ザクII・高機動『最下層』カスタム(フランケン)」だ。
その背中から伸びる「第三の腕(ボールのアーム)」が
先ほどのコンテナを盾として掴んでいたのだ。
“ビッグX”准尉の野性的な勘が、最初の斉射を防いだ。
「ヒャハァ!挨拶が派手じゃねえか、エリート様ァ!」
【獣の突撃】
『小賢しい真似を!』 残る二機のドムIIが、左右に散開して挟撃体勢に入る。
リック・ドムIIは、統合整備計画によって機動性が大幅に向上した傑作機だ。
その動きは洗練されている。
だが、ビッグXの「フランケン」は、洗練とは程遠い「暴力」そのものだった。
「遅えんだよッ!!」
ビッグXがペダルを踏み込む。
脚部に移植されたリック・ドム用の熱核ロケットエンジンが
ザクの軽量フレームを狂ったように加速させる。
ズガァァァァッ!!
青白い噴射炎が長く尾を引き、ザクが一瞬でドムIIの懐に飛び込んだ。
『馬鹿な! ザクの加速じゃない!』
ビッグXは、右脇に抱えた「試作ビーム・バズーカ」を
ゼロ距離で敵機に突きつけた。 背中のムサイ級冷却ユニットが唸りを上げる。
「エリートども、【マ・クベの遺産】の味はどうだッ!!」
ズギュゥゥゥゥン!!
荒れ狂うビームの奔流が、一機のドムIIを至近距離から飲み込んだ。
厚い装甲も、シールドも関係ない。
エネルギーの質量そのもので押し潰すような一撃が、ドムIIを瞬時に溶解・爆散させる。
【電子戦の攪乱】
『2番機がやられた!?馬鹿な、ビームだと!?』
残る二機のドムIIが狼狽する。
『データにない機体だ! 距離を取れ! 遠距離から蜂の巣にしろ!』
その通信に、ノイズが走った。
「……させるかよ」
戦域の端、デブリの影に隠れた小型作業艇(ランチ)の中で
カツオ・イトウがキーボードを叩きまくっていた。
「ハンス中尉!敵のデータリンクを解析しました!照準補正の信号をジャミングします!」
「頼むぞ、コーチ!ビッグXはあと2発しか撃てん!無駄弾は命取りだ!」
カツオは、先ほどヴェイン大佐に見せた「偽のIDコード」のアルゴリズムを応用し
ドムIIのFCS(火器管制システム)に偽のターゲット情報を流し込んだ。
『なっ!?レーダーに反応多数!?どれが本物だ!』
ドムIIのパイロットが混乱する。
【鉄塊の離脱】
「今だ、ビッグX!離脱しろ!」
ランチからのハンスの指示が飛ぶ。
「おうよ!……だが、もう一匹食ってからだ!」
ビッグXは、混乱して足を止めたもう一機のドムIIに向かって
背中のボール・アームを伸ばした。
アームが掴んだのは、先程破壊され漂っていたドムの装甲板だ。
「オラァッ!!」
機体の推力を乗せて、デブリをドムIIに投げつける。
ガシャァァン!
デブリがドムIIのモノアイ・レールに直撃し、メインカメラを粉砕した。
『ぐああっ!モニターが!』
「あばよ!」
ビッグXは、追撃を諦め、カツオたちのランチを小脇に抱えると、全スラスターを吹かした。
背中の冷却ユニットから、過熱した冷却剤が白い蒸気となって宇宙空間に噴き出す。
その白い霧に紛れ、フランケン・ザクは驚異的な加速で暗礁宙域の彼方へと消え去った。
ステーションのドック。
グリム少佐は、モニター越しに部隊の敗北を見届けていた。
「……リック・ドムIIを、旧型一機で翻弄したか」
グリムは、感情のない声で呟いた。
「……カツオ・イトウの電子支援、ハンス・シュタイナーの機体改造
そしてあのパイロットの野性。……『
グリムは、背後に控えていた部下に命じた。
「私の機体を用意しろ。……これ以上の遊びは終わりだ」
「はっ!……『ゲルググ・イェーガー』の発進準備を進めます!」
一方、戦場を離脱したカツオたち。
ビッグXのザクは、冷却剤を使い果たし、関節からは火花が散っていた。
ランチの中で、カツオは荒い息を吐きながら、星図を確認した。
「……逃げ切りました。ですが、もう正規のステーションには寄れません」
「ああ」
ハンスが頷く。
「俺たちは完全に『お尋ね者』だ。……行くぞ、コーチ。
この宇宙には、地図に載らない『
最下層の漂流者たちは、次なる隠れ家を求め、深宇宙の闇へと船首を向けた。