ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第55話 狩人の最終兵器 (The Hunter's Final Weapon)

プロスペクター・ステーションを逃れたハンス・シュタイナー中尉たちは

 

無人宙域の「ゴースト・コロニー」を目指し、デブリと小惑星の陰を縫うように航行していた。

 

 

【航行不能】

 

貨物ポッドに牽引されたカスタム・ザクは、限界を超えていた。

 

脚部スラスターはオーバーヒートで一部が溶け、背中のムサイ級冷却ユニットは冷却剤が枯渇。

 

ビーム・バズーカは黒焦げのまま、予備弾もない。

 

「……もうダメだ。このザクは、ただの鉄屑に戻っちまった」

 

“ビッグX”准尉が、疲労困憊でコックピットから降りてきた。

 

彼の体には、過剰なGと激しい機動の反動でできた内出血の跡が残っていた。

 

「無理もない」

 

ハンスが、ザクの溶けたフレームを触りながら言った。

 

「規格外の出力を、規格外のパーツで無理やり支えたんだ。

 ……これ以上は、機体もパイロットも持たない」

 

“教授”ビタム曹長は、カツオ・イトウが提供した情報をもとに、航路を計算していた。

 

「中尉。目標の『ゴースト・コロニー』まで、あと最低でも三日はかかります。

 このポッドの推進剤も、底をつきそうです」

 

「なら、慣性飛行だ」

 

ハンスは即決した。

 

「無駄なエネルギーを使うな。

 ……最悪の場合に備え、機体の残存エネルギーは全て、偵察・隠密モードに回す」

 

 

【ゴースト・コロニーの噂】

 

カツオが、休憩中に情報を整理し、ハンスに伝えた。

 

「『ゴースト・コロニー』とは、サイド6宙域で建設中に放棄された小規模なコロニーです。

 連邦もジオンも、現在では存在すら把握していません」

 

「なぜ放棄された?」

 

「公式記録では、建設中の事故。……ですが、裏の情報では

 建設チーム内に連邦軍のスパイが潜り込み、秘密兵器を開発していたという噂があります」

 

カツオは、目を伏せた。

 

「……恐らく、連邦が極秘に開発していた

 『ガンダム開発計画』に関わる初期の施設だったのかもしれません」

 

ハンスは口元に手を当て、考え込んだ。

 

「つまり、連邦の残党、あるいはそれを狙うジオンの残党が、今も潜んでいる可能性がある、と」

 

「ええ。安息の地ではないかもしれません」

 

 

【狩人の発進】

 

一方、プロスペクター・ステーション。

 

デュラハン隊の旗艦として使われていた小型巡洋艦のドックでは

 

グリム少佐の愛機が出撃準備を完了していた。

 

真っ黒に塗装された、流線形の高性能MS。

 

ジオンの最新鋭狙撃機『MS-14JG ゲルググ・イェーガー』だ。

 

リック・ドムIIとは比較にならないほど高出力のジェネレーター

 

内蔵された高性能ビーム・マシンガン、そして、長距離射撃を可能にする高精度センサー。

 

まさに、『一撃必殺の狩人』に相応しい機体だった。

 

グリム少佐は、コックピットに乗り込み、通信を接続した。

 

『ターゲットの「ザク」は、現在、慣性飛行で深宇宙へ逃走中。

 エネルギー残量が少なく、航行不能状態と判断する』

 

『この宙域で最も速いのは、私の機体だ。

 ……追いつく。そして、一機残らず、長距離から精密に仕留める』

 

グリムのモノアイが、冷たく輝いた。

 

『……地球の泥の中で生きたネズミどもめ。宇宙(そら)で、一撃で心臓を射抜かれる恐怖を味わえ』

 

 

【暗闇の追跡】

 

数時間後。

 

貨物ポッドは、エンジンを止め、宇宙の暗闇に紛れて漂流を続けていた。

 

MSのセンサーは最低限のパッシブ・モードに設定されている。

 

……ピィィィィ

 

突如、教授の旧ザクのセンサーが、微かな「高周波ノイズ」を捉えた。

 

『中尉!……何か、接近しています!……高速です!』

 

教授が緊張した声で報告する。

 

ハンスは、ポッドから身を乗り出し、双眼鏡を構えた。

 

「ノイズ源を分析しろ、カツオ!」

 

カツオがデータ処理する。

 

「……これは!ズゴックの残党じゃない!

 ……高性能レーダーと、高出力ジェネレーターが発する特有の電磁波です!」

 

「……グリムか!」

 

ハンスが歯を軋ませる。

 

次の瞬間、漆黒の宇宙の奥から、一筋の赤い閃光が走った。

 

それは、ビーム・ライフルの光ではない。

 

ゲルググ・イェーガーが

 

長距離狙撃のために使用する「高性能センサーのロックオン光」だった。

 

カッ!

 

その光は、貨物ポッドの船首を寸分違わず捉えていた。

 

「しまった!敵は我々を既に捉えている!」

 

ハンスが叫ぶ。

 

『ビッグX!すぐにザクを起動させろ!囮だ!』

 

「中尉、馬鹿な!エネルギーが……!」

 

『今すぐ起動しろ!奴は今、我々を狙っている!起動時の「熱」で奴の照準をずらすんだ!』

 

ビッグXは、限界を超えた愛機の起動レバーを、荒々しく叩き込んだ。

 

ズズズ……ボフッ!

 

フランケン・ザクのジェネレーターが悲鳴を上げ

 

背中の冷却ユニットから大量の蒸気と排熱が噴き出した。

 

その熱源の揺らぎが、グリムの照準をわずかに乱す。

 

ズビャァァァァン!!

 

一瞬後、ゲルググ・イェーガーのビーム・マシンガンが火を噴いた。

 

そのビームは、ポッドの船首を避け

 

わずか数十センチ離れた牽引ワイヤーを、正確に焼き切った。

 

貨物ポッドとフランケン・ザクが、宇宙の暗闇へと、バラバラに放り出される。

 

そして、グリムのゲルググ・イェーガーが

 

冷酷なモノアイを光らせながら、悠然と彼らに向かって加速してくる。

 

「……次の狙撃で、俺達は終わりだ」

 

ハンスは、拳を握りしめた。

 

彼らは、逃げる場所も、戦う力も失っていた。

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