ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
漆黒の宇宙空間。
グリム少佐の駆るゲルググ・イェーガーは長距離ビーム・マシンガンの照準を
ワイヤーが切れて漂流する「フランケン・ザク」に合わせていた。
【狩人の眼】
『……チェック・メイトだ』
グリムの冷徹な声が、コクピット内で響く。
ゲルググ・イェーガーの高性能FCS(火器管制システム)は
ビッグXのザクの回避パターンを予測し、その未来位置にロックオン・マーカーを重ねていた。
『あの不格好なバックパック(ジェネレーター)が弱点だ。誘爆させて、機体ごと消し飛ばす』
グリムの指がトリガーにかかる。
その距離、3,000メートル。
通常のMSなら豆粒にしか見えない距離だが、この機体にとっては『至近距離』だ。
【工兵の決断】
「狙われている!ビッグX!回避行動!」
カツオ・イトウが、小型作業艇(ランチ)から切り離されたビッグXに通信で叫ぶ。
「無理だ!スラスターが死んでる!動けねえ!」
ビッグXのザクは、無重力空間で手足をバタつかせる溺死体のように、制御を失っていた。
その時、ハンス・シュタイナー中尉の声が飛んだ。
「ビッグX!背中の『荷物』を捨てろ!」
「え?」
「でかいジェネレーターと冷却ユニットだ!強制パージしろ!今すぐだ!」
「で、でも中尉!これがなきゃ、ビームが……!」
「命と引き換えだ!やれ!」
ビッグXは、迷いを振り切り、緊急パージ・レバーを引いた。
ボシュッ!!
ザクの背中から、巨大なバックパックとプロペラントタンクの塊が、後方へと射出された。
【爆炎のカーテン】
その直後。
グリムが放ったビームの閃光が到達した。
狙いは正確だった。
だが、その狙いは『ザク本体』ではなく
射出されたばかりの『巨大なジェネレーターの塊』に吸い込まれた。
ズガァァァァァァァン!!
高出力ジェネレーターと、残留していた冷却剤、そして推進剤が一気に誘爆した。
宇宙空間に、局地的なプラズマの嵐と、白い蒸気の壁が出現する。
『……チッ。目くらましか』
グリムの視界がホワイトアウトする。
センサーが熱源の飽和状態でエラーを吐き出す。
「今だ、カツオ!ランチのアンカーを撃て!」
ハンスが叫ぶ。
カツオは、ランチからワイヤー・アンカーを射出し
爆風で吹き飛ばされそうになっているビッグXのザクを強引に捕まえた。
「捕まえた!……全速離脱!爆煙の影に隠れて、あの『岩』に向かうぞ!」
【亡霊の胎内へ】
爆発の煙幕を利用し、カツオたちは小惑星帯の奥深くにある「巨大な影」へと滑り込んだ。
それは、建設途中で放棄されたシリンダー型コロニー『ゴースト・コロニー』の外壁だった。
外壁には、建設事故か戦闘によるものか、巨大な亀裂が口を開けていた。
「あそこだ!あの亀裂に飛び込め!」
ランチと、牽引された手負いのザクは、そのままコロニーの内部へと突入した。
【廃墟の空】
コロニー内部に入った瞬間、彼らは息を呑んだ。
そこは、死の世界だった。
シリンダーの内側には、未完成の市街地が広がっていたが、人工太陽(ミラー)は砕け散り
建物は無重力で浮遊し、大地はひび割れていた。
空気はあるようだが、薄く、淀んでいる。
「……ここが、ゴースト・コロニー」
カツオが呟く。
「隠れるぞ。ビルの影だ」
ハンスの指示で、彼らは浮遊する高層ビルの廃墟に着地した。
数分後。
亀裂から、黒い機影――ゲルググ・イェーガーが侵入してきた。
グリム少佐は、センサーをアクティブにして、廃墟の中を捜索し始めた。
『……この閉鎖空間なら、ネズミを探すのは容易い』
しかし、グリムのセンサーに、奇妙な反応が入った。
カツオたちの機体反応ではない。
もっと微弱で、しかし『多数』の熱源反応が、コロニーの奥深くから発せられていた。
『……なんだ、この反応は?』
グリムが
同時に、カツオたちのモニターにも、同じ警告が表示されていた。
「……中尉。レーダーに反応あり」
教授が震える声で言う。
「このコロニーは……無人じゃありません」
廃墟の奥、暗闇の中から、無数の赤いモノアイが光った。
それは彼らの知る、ジオンのMSでも、連邦のMSでもない。
四本足で這い回る、異形のシルエット。
それは、一年戦争の闇に葬られたはずの、暴走した無人殺戮兵器の群れだった。
「……どうやら俺たちは、幽霊屋敷の『先客』を起こしちまったようだぞ」
ハンスが、脂汗を拭った。