ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
ゴースト・コロニーの廃墟。
砕けたビルの陰に隠れたカツオたちの目の前で、その「異形」たちが動き出した。
【異形の正体】
暗闇から現れたのは、連邦軍の作業用ポッド「ボール」のボディに
建設重機のアームを流用した四本の「多脚」を取り付けた、不気味な自律兵器だった。
滑るように廃墟の壁や天井を這い回り
頭頂部のキャノン砲と、アームに装着されたチェーンソーが殺気を放っている。
「……なんだありゃ。ボールか?蜘蛛か?」
“ビッグX”准尉が、動力を絞ったザクのコックピットで息を殺す。
「RB-79AR『アラクノ・ボール』……」
カツオ・イトウが、ランチのモニターを見ながら震える声で言った。
「連邦軍の資料で見たことがあります。コロニー内での暴動鎮圧用に試作された
対人・対MS用自律兵器です。……まさか、実戦配備されていたなんて」
その時、上空から侵入してきたグリム少佐のゲルググ・イェーガーが
アラクノ・ボールの群れに捕捉された。
キシャァァァァッ!!
機械的な金切り音と共に
十数機の「鋼鉄の蜘蛛」が、一斉にゲルググに飛び掛かる。
【狩人の実力】
『……旧世紀の遺物風情が』
グリム少佐の声には、焦りは微塵もなかった。
ゲルググ・イェーガーが空中で舞う。
精密なAMBAC(姿勢制御)で蜘蛛たちの突撃を紙一重でかわすと
ビーム・マシンガンが火を噴いた。
バウ!バウ!バゥ!
無駄弾は一発もない。
正確無比な射撃が
アラクノ・ボールのセンサー・アイと動力部を次々と貫く。
『所詮はプログラムされた動きだ。……邪魔だ』
グリムは、群がる蜘蛛を次々と撃ち落としながら
その視線をコロニーの下層――カツオたちが隠れているエリアへと向けた。
『……そこにいるな、ネズミども』
グリムは、あえて数機の蜘蛛を撃ち漏らした。
そして、その蜘蛛たちを誘導するように、カツオたちの隠れ場所付近へビームを撃ち込んだ。
ドォォン!
(しまっ……! 奴、わざと俺たちの位置を!)
ハンス・シュタイナー中尉が歯噛みする。
【剥がされた牙】
爆発音に反応したアラクノ・ボールたちが
一斉にカツオたちの隠れるビルの残骸へと殺到する。
「来るぞ! ビッグX、迎撃だ!」
ハンスが叫ぶ。
「クソッ! やるしかねえか!」
ビッグXは、フランケン・ザクを飛び出させた。
だが、その背中は軽い。
ジェネレーターと冷却ユニットをパージしたため
自慢のビーム・バズーカは撃てないが、推力も通常以下に戻っている。
残された武器は、腰のヒート・ホーク一本のみ。
「オラァッ!!」
ビッグXは、飛び掛かってきた蜘蛛の一体を、ヒート・ホークで叩き割る。
ガギィン!
だが、数は圧倒的だ。
左右、そして頭上から、三体の蜘蛛がチェーンソーを回して迫る。
「くっ!マシンガンもねえ!これじゃ手足が出ねえ!」
ビッグXのザクが、蜘蛛のアームに捕まり、装甲を削られる。
ガリガリガリッ!!
「痛ぇぇぇッ!!」
【音のない世界】
「ビッグXがやられる! 援護を!」
“教授”と“ルーキー”の旧ザクがマシンガンを構えるが、カツオが止めた。
「撃っちゃダメだ!
音と熱を出せば、グリムに見つかる!」
「じゃあどうしろってんだ!」
カツオは、ランチのハッチを開け、生身で外に出ようとした。
「ハンス中尉。……あいつらの制御中枢(マザー)を探します」
「なに?」
「アラクノ・ボールは群れで動く。必ず指揮官機か、制御用アンテナがあるはずです。
……この廃墟のどこかに!」
「馬鹿な! 生身で探す気か!」
「MSじゃ目立ちすぎます! ……それに」
カツオは、廃ビルの壁面に残された、薄れた文字を指差した。
『AUGUSTA LAB - BLOCK 4(オーガスタ研究所・第4ブロック)』
「ここは連邦の極秘研究所の成れの果てだ。……僕なら、端末の場所に見当がつきます!」
ハンスは一瞬迷ったが、教授に指示した。
「教授!ビッグXを援護しろ!ただし発砲はするな!
閃光弾(フラッシュバン)で目を眩ませろ!……カツオ、行け!時間はないぞ!」
【研究所の闇】
ビッグXと教授たちが、閃光弾とヒート・ホークによる肉弾戦で時間を稼ぐ中
カツオは無重力の廃墟を蹴って、研究所の中枢棟らしき建物へと侵入した。
内部は、荒れ果てていた。 漂う書類、壊れた実験器具。
そして、カツオが見たものは、カプセルの中に残された「何か」の残骸だった。
「……MSの、パーツ? ……いや、生物的な……」
カツオは戦慄したが、今はそれを調べる時間はない。
メインコンソールを見つけ、カツオは携帯端末をジャックインさせた。
(動け……!生きてろ、メインシステム!)
カツオの祈りが通じたのか、非常用電源でコンソールが息を吹き返した。
モニターに映し出されたのは、アラクノ・ボールの制御コードと、このコロニーの全貌を示す地図。
そして、地図の最深部に点滅する、赤い警告表示。
『PROJECT: PALE RIDER - PROTOTYPE STRAGE
(プロジェクト:ペイルライダー・試作機保管庫)』
「……ペイルライダー?」
カツオはその名を知らなかった。だが、不吉な響きだった。
その時、頭上で爆発音が響いた。
モニターを見ると、ビッグXのザクが、蜘蛛の群れに押し倒され
チェーンソーを突き立てられそうになっている映像が映った。
さらに上空からは、グリムのゲルググが
その様子を冷ややかに見下ろし、とどめのビームチャージを開始していた。
「……間に合えッ!!」
カツオは、制御コードを書き換える暇はないと判断し
「システム・リブート(再起動)」のコマンドを叩き込んだ。
ブォォォォォン……
コロニー全体に、重低音が響き渡る。
一瞬、すべての照明が落ち、アラクノ・ボールたちの動きが凍りついた。
(止まった!?」
だが、それは「停止」ではなかった。
コロニーの最深部――地図で赤く示された保管庫のゲートが、ゆっくりと開き始めたのだ。
蜘蛛たちよりも恐ろしい、この研究所の「主」が、目を覚まそうとしていた。