ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第58話 蒼き死神の胎動 (The Awakening of the Pale Reaper)

カツオ・イトウが研究所の中枢システムを「再起動(リブート)」させた瞬間。

 

ゴースト・コロニー内の廃墟で暴れ回っていた

 

無数の多脚兵器――RB-79AR「アラクノ・ボール」たちの動きが

 

糸の切れた人形のようにピタリと停止した。

 

 

【凍りついた蜘蛛】

 

「……と、止まった?」

 

“ビッグX”准尉のザクII(推力低下状態)は

 

目の前でチェーンソーを振り上げていたアラクノ・ボールを見上げ、安堵の息を漏らした。

 

あと数センチで、コックピットを切り裂かれるところだった。

 

上空のゲルググ・イェーガーも、射撃の手を止めていた。

 

『……システムダウンか? いや、再起動シーケンスに入っているだけだ』

 

グリム少佐は冷静に状況を分析し、銃口を下に向けた。

 

『今のうちに、ネズミどもを始末するか』

 

グリムが、動かないビッグXのザクに照準を合わせた、その時。

 

ズゥゥゥン……

 

コロニーの最深部。

 

地図で赤く示されていた「保管庫」の重厚なゲートが、完全に開放された。

 

そこから、冷たく、凍りつくような【殺気】が噴き出した。

 

 

【目覚めた災厄】

 

研究所の制御室。

 

カツオは、モニターに映し出されたデータを見て、戦慄していた。

 

「……RX-80PR……『ペイルライダー』計画、プロトタイプ1号機……。なんだこれは……?」

 

画面の中で、保管庫の暗闇から、一機のMSがゆっくりと歩み出てきた。

 

そのシルエットは、連邦軍の量産機「ジム・スナイパーII」に酷似しているが

 

全身に追加装甲と高機動スラスターが増設され

 

頭部にはガンダムタイプを彷彿とさせるV字アンテナがない代わりに

 

不気味なバイザーが装着されていた。

 

機体色は、死人のような蒼白(ペール・ブルー)。

 

そして、そのバイザーが、真紅に発光した。

 

『……SYSTEM "HADES"…… STANDBY……』

 

カツオのコンソールに、ノイズ混じりの音声が流れる。

 

HADES(ハデス)。

 

それは、パイロットの生存を無視して機体性能を限界まで引き出す、禁断の戦闘補助システム。

 

だが、今のこの機体にはパイロットは乗っていない。

 

アラクノ・ボールたちを統率するための、自律型AIが組み込まれていた。

 

 

【狩人狩り】

 

『……なんだ、あの機体は?連邦の新型か?』

 

上空のグリム少佐が、新たな敵影に気づく。

 

その瞬間、蒼きMS――プロトタイプ・ペイルライダーが消えた。

 

『なっ!?』

 

グリムのセンサーが警告音を発するよりも速く

 

ペイルライダーは廃ビルの壁面を蹴り、驚異的な加速で上空へ跳躍していた。

 

アラクノ・ボールのような「蜘蛛」の動きではない。

 

猛禽類の狩りの速度だ。

 

 

ズバァァッ!!

 

 

ペイルライダーの腕に装備された「ビーム・サーベル」が閃く。

 

グリムは、反射的にゲルググのスラスターを吹かし、紙一重で回避した。

 

『速い!!なんだこの加速は!』

 

回避したゲルググの足元の装甲が、熱で赤く溶けていた。

 

ペイルライダーは、そのまま空中で反転し

 

着地することなく廃墟の鉄骨を蹴って、再びグリムに襲いかかる。

 

「……バケモノだ」

 

地上で見ていたハンス・シュタイナー中尉が呻く。

 

「あれは、MSの動きじゃない。中のパイロットが死ぬ加速度だぞ……!」

 

 

【暴走する守護者】

 

ペイルライダーの暴走は、グリムだけでは終わらなかった。

 

その真紅のカメラアイが、地上で停止しているアラクノ・ボールと、ビッグXのザクを捉えた。

 

『……TARGET…… DESTROY……』

 

システム暴走。

 

リブートのショックで、敵味方の識別信号が破損したのか

 

HADESシステムは「動くもの全て」を殲滅対象と認識していた。

 

ペイルライダーは、手近にいた停止中のアラクノ・ボールを掴み上げ

 

それを投擲武器としてビッグXに投げつけた。

 

「うおぉっ!?味方ごとかよ!」

 

ビッグXは、ヒート・ホークで飛んできたボールを叩き落とす。

 

「逃げろ、ビッグX!そいつとは戦うな!」

 

ランチに戻ったカツオが、通信で絶叫した。

 

「そいつは、MSの形をした『何か』だ!

 まともにやり合える相手じゃない!」

 

「逃げろって言われても、足がねえんだよ!」

 

その時、ペイルライダーが両腕に内蔵された「ビーム・ガン」を乱射しながら

 

ビッグXに突っ込んできた。

 

絶体絶命。

 

ズドン!!

 

横合いから、太いビームの光軸が、ペイルライダーの進路を遮った。

 

上空のグリムだ。

 

『……私の獲物を横取りするな、狂犬』

 

グリムは、ゲルググ・イェーガーのライフルを構え、ペイルライダーを牽制した。

 

『……ザクは後だ。まずは、この「不愉快な亡霊」を始末する』

 

 

【逃走の好機】

 

グリムとペイルライダー。

 

二つの怪物が空中で激突し、光と衝撃波が廃墟を揺らす。

 

「今だ!グリムが足止めしてくれている!」

 

ハンスが叫ぶ。

 

「教授!ルーキー!ビッグXを回収して、反対側のゲートへ走れ!」

 

「了解!」

 

教授とルーキーの旧ザクが

 

動けないビッグXのザクを両脇から抱え上げ、スラスターを全開にする。

 

カツオもランチを加速させた。

 

背後では、真紅に光る蒼いMSと、漆黒のMSが

 

高次元の死闘を繰り広げている。

 

「……連邦軍は、あんなものを作っていたのか……」

 

カツオは、遠ざかるペイルライダーの姿に、底知れぬ恐怖を感じていた。

 

オデッサの最下層から逃げ出した先で見たのは、人の領域を超えた、科学の狂気だった。

 

彼らは、二匹の怪物の咆哮を背に

 

ゴースト・コロニーの深部、宇宙港ブロックへと転がり込んだ。





【挿絵表示】

RB-79AR「アラクノ・ボール」
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