ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

60 / 92
第59話 崩落の空 (The Sky of Collapse)

ゴースト・コロニーの宇宙港ブロック。

 

かつては物資の搬入で賑わったであろう巨大なドックは、今は静寂と埃に支配されていた。

 

だが、その静寂は、数キロ後方から響く、二機の怪物の激突音によって震えていた。

 

 

【嵐の中の捜索】

 

「急げ! 天井が崩れるぞ!」

 

ハンス・シュタイナー中尉の怒号が飛ぶ。

 

“教授”と“ルーキー”の旧ザク二機が

 

手足を失いかけた“ビッグX”のフランケン・ザクを抱え、ドックの回廊を滑るように移動する。

 

カツオ・イトウの乗る小型作業艇(ランチ)が、先行して使用可能な船を探していた。

 

「……ダメだ。あそこのランチはエンジンがない。こっちのパプア級は半分埋まっている……」

 

カツオは焦っていた。

 

後方の廃墟エリアでは、真紅と漆黒の閃光が交錯し

 

その余波でコロニーの内壁が剥がれ落ち始めている。

 

(何か……俺たちのMS三機と、資材を積んで飛べる『船』はないか!?)

 

その時、ドックの最深部

 

厳重なロックが掛かった第1ハンガーの奥に、異質なシルエットが見えた。

 

「……あれは!」

 

 

【特務仕様の箱舟】

 

ランチのライトを当てた先にあったのは、流線型のボディを持つ軍用艦艇ではなく

 

無骨で巨大なコンテナを背負った、大型輸送シャトルだった。

 

「……連邦軍の重輸送シャトル、『ガンペリー』の宇宙改修型……いや、さらに大型化されている?」

 

カツオが分析する。

 

「コンテナ部分が拡張されています。

 ……おそらく、あの『ペイルライダー』とその運用設備を

 極秘輸送するために用意された船だ!」

 

「動くのか、コーチ!」

 

ハンスが問う。

 

「電源は生きています!……ですが、電子ロックが堅い!

 Augusta Labの最重要機密コードがかかっています!」

 

「……やるしかない」

 

ハンスは、教授とルーキーに指示を出した。

 

「MSをコンテナへ搬入しろ!無理やり押し込め!

 カツオ、お前はハッキングだ!俺は物理的に燃料パイプを直結させる!」

 

 

【迫りくる死神】

 

ドックに震動が走る。

 

ズドォォォォン!!

 

後方の隔壁が溶解し、吹き飛んだ。

 

爆煙の中から、ペイルライダー(プロトタイプ)が飛び込んできた。

 

機体はあちこち黒焦げだが、その動きは衰えていない。

 

HADESシステムは、新たな標的――動こうとしているシャトル――を感知していた。

 

『……ESCAPE TARGET…… DETECTED……』

 

「来やがった!亡霊野郎!」

 

ビッグXが、動かないザクのコックピットで叫ぶ。

 

ペイルライダーが、背部の180mmキャノンを展開し、シャトルに照準を合わせる。

 

「しまっ……!ハッキングが間に合わない!」

 

カツオが叫ぶ。

 

その時、ペイルライダーの背後から、漆黒の影が襲いかかった。

 

グリム少佐のゲルググ・イェーガーだ。

 

『……余所見とは余裕だな、壊れ人形』

 

グリムのビーム・サーベルが、ペイルライダーのキャノン砲身を斬り飛ばした。

 

ペイルライダーが体勢を崩し、照準が狂う。

 

キャノンの弾丸はシャトルの遥か上空、ドックの天井を直撃した。

 

ガラガラガラッ!!

 

巨大な鉄骨の雨が降り注ぐ。

 

 

【強制発進】

 

「今だ! ロック解除!」

 

カツオがエンターキーを叩き込む。

 

シャトルのメインエンジンに火が入る。

 

 

ボォォォォォッ!!

 

 

長い眠りから覚めた大型シャトルのスラスターが、猛烈な噴射炎を上げる。

 

「全員乗ったな!出すぞ!!」

 

カツオはランチを捨て、シャトルのコックピットに飛び込んだ。

 

ハンスも続く。

 

シャトルは、固定ボルトを切り離し、ドックから急発進した。

 

その直後、二機の怪物が戦うドック全体が

 

崩落した天井に飲み込まれ、宇宙空間へと吸い出されていく。

 

『……逃げたか』

 

グリムは、崩壊するドックの中で、ペイルライダーと斬り結びながら

 

飛び去るシャトルの噴射炎を一瞥した。

 

『……まあいい。今は、この狂った玩具を壊すのが先だ』

 

 

【名もなき船】

 

ゴースト・コロニーを脱出した大型シャトルは、不安定ながらも順調に加速していた。

 

後方では、コロニーの一部が爆発し、崩壊していくのが見えた。

 

シャトルのブリッジ。

 

カツオとハンスは、荒い息を吐きながら操縦席に座っていた。

 

「……生き延びたな」

 

ハンスが、震える手でタバコを取り出した。

 

「ええ……。なんとか」

 

カツオは、モニターに映る機体ステータスを確認した。

 

「この船、すごい出力です。MS三機と予備パーツを満載しても、まだ推力に余裕がある。

 ……居住区画も広い。これなら、長期航行も可能です」

 

「……いい『家』を見つけたもんだ」

 

ハンスは、シートに深く沈み込んだ。

 

通信機から、コンテナにいるビッグXの声が届く。

 

『……おいコーチ。この船、名前はあるのか?』

 

カツオは、コンソールの登録名を見た。

 

「……『T-99 特務輸送艦』としか書かれていません」

 

「味気ねえな」

 

ビッグXが笑う。

 

「……じゃあ、こうしようぜ。墓場(ゴースト・コロニー)から拾った、骨董品だ。

 ……『ボーン・ヤード(骨置き場)』ってのはどうだ?」

 

「ボーン・ヤードか……」

 

ハンスが微かに笑った。

 

「死に損ないの俺たちにはお似合いだ」

 

こうして、最下層の漂流者たちは、新たな母艦「ボーン・ヤード」を手に入れた。

 

だが、彼らはまだ知らない。

 

この船のデータバンクに、ペイルライダー計画のさらに【深い闇】が記録されていることを。

 

そして、彼らの背後には

 

あの蒼き死神と黒き処刑人の決着を生き延びた【勝者】が、必ず追ってくることを。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。