ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第60話 死者のブラックボックス (The Black Box of Dead)

ゴースト・コロニーの爆発を背に、特務輸送艦「ボーン・ヤード」は深宇宙へと逃れた。

 

連邦軍の機密予算で作られたこの船は

 

外見こそ無骨な輸送シャトルだが、内部は最新鋭の設備で満たされていた。

 

 

【快適すぎる幽霊船】

 

「……おいおい、マジかよ」

 

艦内の居住区。

 

“ルーキー”クェン兵長が、シャワールームから出てきて目を丸くしていた。

 

「温水シャワーが出放題だ!それに、キッチンには真空パックのステーキまであるぞ!」

 

「騒ぐな、ルーキー」

 

“教授”ビタム曹長が、ふかふかのベッドに背中を沈めながら苦笑する。

 

「ここは、あの『ペイルライダー』のテストパイロットやエリート技術者たちのための船だ。

 俺たちのような工兵崩れが使っていい場所じゃない」

 

泥と油にまみれた彼らにとって、この清潔すぎる船内は、むしろ居心地が悪かった。

 

だが、彼らは久しぶりに「人間らしい休息」を得ていた。

 

 

【禁断の遺産】

 

一方、ブリッジ。

 

カツオ・イトウは、メインコンピューターの解析に没頭していた。

 

ハンス・シュタイナー中尉が、豆から挽いた淹れたてのコーヒーを持って入ってくる。

 

「……どうだ、コーチ。この船の『航海日誌』は」

 

「……とんでもないシロモノです」

 

カツオは、モニターに表示されたデータを指差した。

 

「この船には、ペイルライダーの機体データだけでなく

 搭載されている特殊システム『HADES(ハデス)』の全設計図と

 運用アルゴリズムが保存されています」

 

「ハデス……なんだそれは?」

 

「俺も、噂でしか聞いたことは無いんですが」

 

カツオの声が震える。

 

「連邦軍は、人間を『生体部品』として扱うシステムを作っていたらしいんです」

 

「……オデッサの少年兵と変わらんな」

 

ハンスは、苦々しい顔でコーヒーを啜った。

 

「このデータ、どうする? 連邦に知られれば消される。

 ジオンに売れば億万長者だが、戦争はさらに泥沼化するぞ」

 

カツオは、データを暗号化し、ロックを掛けた。

 

「……封印します。これは、交渉の切り札にはなりますが

 開けてはならない『パンドラの箱』です」

 

 

【ビッグXの憂鬱】

 

格納庫(ハンガー)

 

“ビッグX”准尉は、整備用アームに吊るされた愛機を見上げて、深い溜息をついていた。

 

『ザクII・高機動“最下層”カスタム』、通称フランケン・ザク。

 

その姿は、あまりにも無惨だった。

 

脱出劇で、リック・ドムの脚部はパージされ(一部溶断)

 

背中のムサイ級冷却ユニットもジェネレーターも失われた。

 

残っているのは、ボロボロの上半身と、申し訳程度に残った大腿部のフレームだけ。

 

「……また『ダルマ』かよ」

 

ビッグXが、レンチを床に投げつける。

 

「せっかく手に入れたビームも、スピードも、全部パァだ。……これじゃ、ただの鉄クズだ」

 

そこへ、カツオとハンスが降りてきた。

 

「諦めるな、ビッグX」

 

カツオが、タブレット端末を見せる。

 

「この船には、MSの整備・改修用の『高性能工作機械(3Dプリンター)』と

 ペイルライダー用の予備パーツの一部が残っています」

 

「予備パーツ?連邦の部品じゃねえか。ザクに付くのか?」

 

「付けるんだよ」

 

ハンスが、工兵の目でザクのフレームを観察した。

 

「幸い、お前のザクはこれまで散々連邦のパーツを移植してきたおかげで

 接続規格がガバガバだ。……連邦だろうがジオンだろうが

 何でも飲み込む『悪食』になってる」

 

ハンスは、ハンガーの隅にあるコンテナを指差した。

 

「あそこにあるのは、ペイルライダー用の『空間戦闘用スラスター・ユニット』の予備だ。

 ……脚はないが、これを腰と背中に直結すれば、宇宙での機動性は確保できる」

 

「脚なしか……」

 

ビッグXは、ジオングのような姿を想像して鼻を鳴らした。

 

「……へっ。偉い人には分からん飾りってか?上等だ。やってやろうじゃねえか」

 

 

【悪魔の生還】

 

同時刻。

 

ゴースト・コロニーの残骸エリア。

 

崩壊したドックの瓦礫の中から、黒い手が突き出した。

 

 

ガシャァァン!

 

 

瓦礫を押し除けて現れたのは、満身創痍のゲルググ・イェーガーだった。

 

装甲は傷だらけで、片腕を失い、頭部のアンテナも折れている。

 

だが、そのモノアイは不気味に明滅していた。

 

コクピットの中で、グリム少佐は血を吐きながら(わら)った。

 

『……ハッ、ハッ……。生き延びたか』

 

彼のレーダーには、ペイルライダーの反応は消えていた。

 

崩落に巻き込まれ、コロニーの最深部へ沈んだのだろう。

 

だが、グリムの獲物は「亡霊」ではない。

 

『……逃がさんぞ、カツオ・イトウ。ハンス・シュタイナー』

 

グリムは、損傷したコンソールで通信回線を開いた。

 

『こちらデュラハン1。……これより、特務艦「ボーン・ヤード」を追撃する。

 ……アレには、我が軍が必要とする【HADES】のデータがあるはずだ』

 

グリムは、ただの処刑人から、国家機密を狙う「奪還者」へと目的を変えていた。

 

傷ついた狼が、血の跡を辿り始める。

 

 

数日後。

 

ボーン・ヤードは、サイド6の辺境にある工業コロニー「バルドル」へと接近していた。

 

表向きは中立だが、裏では軍需産業の廃棄パーツや闇取引が横行する、通称「鉄の街」。

 

「……次の目的地だ」

 

ブリッジで、ハンスがモニターを指差す。

 

「ここで、食料と燃料、そしてザクを直すための資材を補給する。

 ……そして、この船のID(連邦籍)を偽装して、追っ手を撒く」

 

カツオは、窓の外に見える巨大な工業コロニーを見つめた。

 

「……休息は終わりですね」

 

「ああ。ここからは、金と暴力を天秤にかける『商売』の時間だ」

 

最下層の漂流者たちは、新たな街へと舵を切る。

 

そこで待つのは、商人か、敵か、それとも新たな仲間か。

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