ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第61話 脚のない踊り子 (The Legless Dancer)

「バルドル」、工業コロニーだ。

 

サイド6の辺境に位置するこのコロニーは

 

外壁が煤で黒ずみ、常に重低音の振動が響く「鉄の街」だった。

 

正規の港ではなく、廃棄物搬入ゲートに

 

特務輸送艦「ボーン・ヤード」は静かにドッキングした。

 

 

【裏通りの交渉】

 

「……ひどい空気だ。オデッサの硝煙の方がまだマシかもしれん」

 

ハンス・シュタイナー中尉が、空気清浄機のフィルター越しでも匂うオイル臭に顔をしかめた。

 

カツオ・イトウとハンスは、艦を部下に任せ、コロニーの最下層にある闇市場を訪れていた。

 

目的は、この船のID(連邦軍籍)を書き換え

 

民間船に偽装してくれる「裏の技術屋」を探すことだ。

 

雑多なジャンク屋が並ぶ路地の奥。

 

看板もないガレージのシャッターを叩くと

 

油まみれの義手をした老人が現れた。

 

通称「ギア・ヘッド」ガレット。

 

この街一番の腕利きだ。

 

「……連邦の特務艦のID書き換えだと?」

 

ガレットは、カツオが差し出したデータチップ(船の基本設計図)を見て、義手の指を鳴らした。

 

「厄介な仕事だ。軍の暗号化コードは複雑だぞ。……報酬は?」

 

「金はない」

 

ハンスが即答する。

 

「だが、現物はある。

 ……連邦軍の最新鋭MS用の、高機動スラスター・ユニットの予備パーツだ」

 

ペイルライダー用の予備パーツ。

 

市場には出回っていない極上品だ。

 

ガレットの義眼が怪しく光った。

 

「……ほう。盗品か、それとも拾い物か。……まあ、いいだろう。商談成立だ」

 

 

【縄張り争い】

 

その時、ガレージの外で爆発音が響いた。

 

「なんだ!?」

 

カツオが振り返る。

 

ガレージの監視モニターには、ボーン・ヤードが停泊している搬入ゲート付近に

 

数機のMSが接近している映像が映っていた。

 

機体は、ジオンの量産機を海賊仕様に改造した「ドラッツェ(MS-21C)」の群れだ。

 

「……チッ。地元のゴロツキ共か」

 

ガレットが舌打ちをする。

 

「あれは『アイアン・ファング』だ。

 余所者の船を見つけると、因縁をつけて積荷を奪うハイエナどもさ」

 

『こちらアイアン・ファング!

 そのデカい船、通行料を払ってもらおうか!積荷を全部置いて消えな!』

 

海賊のボスらしき声が、街のスピーカーを通じて響く。

 

「……交渉中だというのに、邪魔が入ったな」

 

ハンスが通信機を取り出した。

 

「ビッグX! 聞こえるか!『アレ』の準備はできているな?」

 

 

【脚のない踊り子】

 

『おうよ中尉! 待ちくたびれたぜ!』

 

ボーン・ヤードのハッチが開放される。

 

飛び出してきたのは、誰も見たことのない異形だった。

 

上半身は、パイプと装甲で肥大化したフランケン・ザク。

 

だが、その下半身には『脚』がなかった。

 

代わりに、腰部と背部に

 

ペイルライダー用の巨大な空間戦闘用スラスター・ユニットが直結され

 

スカートのように広がっている。

 

その姿は、まるで巨大なドレスを纏った踊り子のようだった。

 

ザクII・高機動『最下層』カスタム Ver.2.0のお披露目である。

 

『足なんて飾りですよ、ってな! 行くぜェ!』

 

ビッグXがスロットルを全開にする。

 

 

ズバァァァッ!!

 

 

噴射音と共に、ザクが「走る」のではなく、空間を「滑走」した。

 

その加速力は、以前のドム脚部仕様を遥かに凌駕していた。

 

 

【無重力の舞踏】

 

「なっ、速え!なんだあのダルマは!」

 

ドラッツェ隊が慌ててガトリング砲を撃つ。

 

だが、当たらない。

 

ビッグXのザクは、上下左右、あらゆる方向に瞬時にスライド移動し、弾幕をすり抜ける。

 

脚部がない分、機体重量が軽くなり

 

スラスターの推力がダイレクトに挙動に反映されているのだ。

 

「ヒャハハ!軽い!羽根が生えたみてえだ!」

 

ビッグXは、右手のザク・マシンガンを乱射し

 

背中の「第三の腕(ボール・アーム)」でドラッツェの一機を捕まえた。

 

「捕まえたぜ、トンボ野郎!」

 

ボール・アームがドラッツェのスラスターを握り潰す。

 

同時に、ザク本体がクルリと旋回し、ヒート・ホークで別の一機を一刀両断する。

 

『バ、バケモノか! 逃げろ!』

 

アイアン・ファングの残党は、あまりの性能差に恐れをなし

 

蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

「……へっ。準備運動にもならねえな」

 

ビッグXは、スラスターから余剰ガスを吐き出しながら、悠然とポーズを決めた。

 

 

【サンダーボルト】

 

「……いい腕だ。機体も、パイロットもな」

 

ガレージの中で、一部始終を見ていたガレットが感心したように言った。

 

「気に入ってもらえて何よりだ」

 

ハンスが言う。

 

「これで、仕事は頼めるな?」

 

「ああ。船のIDは、正規の民間輸送船『マリー・ゴールド号』に書き換えてやる。……だが」

 

ガレットは、作業用端末を操作しながら、低い声で付け加えた。

 

「気をつけろよ、アンタら。

 ……昨日の夜、このコロニーのネットワークに、奇妙な検索履歴があった」

 

「検索履歴?」

 

カツオが問う。

 

「ああ。『黒いゲルググ』に乗った男が

 地上のオデッサ方面から来た『所属不明の船』を探していたそうだ。

 ……そいつのIDは、ジオンの特務部隊のものだった」

 

カツオとハンスの顔色が変わる。

 

「……グリムだ」

 

「奴も生きている。……そして、俺たちの背中を嗅ぎ回っている」

 

 

数時間後。

 

IDを書き換えられ

 

補給を終えたボーン・ヤード(偽装名:マリー・ゴールド号)は、バルドルで整備をしていた。

 

艦内。

 

ハンガーに戻ったビッグXは、脚のない愛機を満足げに眺めていた。

 

「……悪くねえ。地べたを這いずり回るより、空を飛ぶ方が性に合ってたのかもな」

 

だが、ブリッジの空気は重かった。

 

「……グリム少佐は、執念深い」

 

カツオは、星図を見つめた。

 

「奴を振り切るには、普通の航路じゃダメだ。

 ……もっと深く、誰も近づかない場所へ行くしかない」

 

ハンスが、星図の一点を指差した。

 

「ここだ。……サイド4跡地、『ムーア』宙域。別名『雷鳴の暗礁』だ。

 ……ここなら、どんな猟犬も鼻が利かなくなる」

 

カツオは唖然とした。

 

「ここ……ですか……?!」

 

ハンスは頷いた。

 

「そうだ。ここだ。

 しかし、見つからないが……

 今の俺達の状況では、途中で立ち往生してしまう。

 しばらくこのコロニーで準備が必要だ」

 

一年戦争最大の激戦地であり、今は亡霊と雷が支配する魔の海域。

 

カツオたちはさらなる最下層へと誘われるのだった。

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