ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第64話 老いた水先案内人 (The Old Navigator)

サイド4「ムーア」宙域。

 

そこは、一年戦争緒戦で破壊されたコロニーや艦船の残骸が無数に漂い

 

帯電したデブリ同士が衝突して、絶えず青白いプラズマ放電が走る、死の海だった。

 

特務輸送艦「ボーン・ヤード」は、その雷鳴の海を、まるで幽霊のように静かに進んでいた。

 

 

【木星帰りの操舵】

 

「……面舵、1.5度。……第2スラスター、噴射角修正……」

 

ブリッジの操舵席。 シャリア・ブルは、痩せこけた指でコンソールを弾くように操作していた。

 

彼の目は依然として虚ろだが、その手つきは神がかり的だった。

 

「すごい……。オートパイロットがエラーを吐くほどのデブリ密度なのに

 一度も接触していない」

 

カツオ・イトウが、モニターを見ながら感嘆する。

 

「デブリの『流れ』を読んでいるんだ」

 

ハンス・シュタイナー中尉が、シャリアの背中越しに言った。

 

「木星の重力圏や小惑星帯を抜けてきた男だ。

 これくらいの『ゴミ溜め』など、庭みたいなものだろう」

 

『……右舷前方……高エネルギー反応……雷……来るよ』

 

マロンのハロが、ナビゲーター席で警告を発する。

 

「……分かっている」

 

シャリアは、表情を変えずに操艦した。

 

巨大な廃コロニーの残骸の影に、船体を滑り込ませる。

 

直後、彼らがいた空間を、巨大なプラズマの稲妻が焼き尽くした。

 

「……雷の周期も計算済みか」

 

カツオは舌を巻いた。この老人がいれば、どんな宙域でも逃げ切れるかもしれない。

 

 

【雷鳴に紛れた殺意】

 

だが、その安心感は一瞬で打ち砕かれた。

 

 

ズギャァァァン!!

 

 

突然の衝撃。

 

ボーン・ヤードの左舷装甲が溶解し、警報が鳴り響く。

 

雷ではない。

 

鋭利な熱線――ビームの直撃だ。

 

「敵襲!?レーダーには何も映ってなかったぞ!」

 

ハンスが叫ぶ。

 

「……雷に……紛れたか……」

 

シャリアが、かすれた声で言った。

 

「……自然の放電現象に合わせて……ビームを撃ち込んできた……。敵は……『猟師』だ……」

 

マロンのハロが、センサーを最大感度にする。

 

『……熱源感知!……距離、5000!……デブリの隙間!』

 

モニターに映し出されたのは、遥か彼方のデブリの影に潜む、漆黒の機影。

 

ゲルググ・イェーガー。

 

グリム少佐だ。

 

 

【封じられた退路】

 

『……見つけたぞ、ドブネズミ』

 

グリムの通信が、強力なジャミングを突破して届く。

 

『雷鳴の海に逃げ込めば、追えないとでも思ったか?

 ……甘いな。ここは、私のような「狙撃手」にとっては最高の狩場だ』

 

グリムは、放電の閃光で機体の影を消し

 

雷鳴のノイズでビームの発射音をごまかしていた。

 

見えない弾丸が、次々とボーン・ヤードを襲う。

 

「……回避する!」

 

シャリアが操舵を切り、船体を回転させる。

 

第二撃が、メインエンジンをかすめる。

 

「……ダメだ!相手の位置が特定できない!このままじゃ蜂の巣だ!」

 

カツオが叫ぶ。

 

「俺が出る!」

 

ハンガーから、“ビッグX”准尉の怒号が響いた。

 

「船が沈んだらおしまいだ!俺が囮になって、奴を引きずり出す!」

 

 

【脚のない踊り子vs黒い死神】

 

ボーン・ヤードのハッチが開く。

 

飛び出したのは、「ザクII・高機動最下層(アンダードッグ)カスタム Ver.2.0」だ。

 

脚部を持たず、巨大なスラスター・スカートを纏った異形の機体。

 

「来やがれ、死神野郎ッ!!」

 

ビッグXは、スラスターを全開にし、デブリの間を縫うように疾走した。

 

その動きは、重力に縛られたMSのものではない。

 

上下左右、予測不能な三次元機動だ。

 

『……ほう。脚を捨てたか』

 

グリムは、スコープ越しにその姿を捉え、冷笑した。

 

『だが、動きが大きすぎる。……それでは「撃ってください」と言っているようなものだ』

 

グリムの指がトリガーを絞る。

 

精密射撃。ビームがザクの進行方向を塞ぐ。

 

「っとぉ!」

 

ビッグXは、背中の「ボール・アーム」で近くのデブリを掴み、強引に軌道を変えて回避した。

 

「当たるかよ! 俺のザクは、そこらの的とは違うんだよ!」

 

ビッグXは、ジグザグに動きながら、グリムとの距離を詰めようとする。

 

だが、グリムは動かない。

 

ゲルググ・イェーガーの高機動性を活かし

 

常に一定の距離を保ちながら、冷静にビッグXを削っていく。

 

『……無駄だ。近づく前に、手足を一本ずつもいでやる』

 

 

【老人の眼】

 

ブリッジで戦況を見ていたシャリア・ブルが、不意にマイクを掴んだ。

 

「……パイロット。……ビッグXと言ったか」

 

シャリアの声は、静かだが、不思議な響きを持っていた。

 

『……なんだよ爺さん! 、忙しいんだよ!』

 

「……敵の動きを見るな。……デブリの影を見ろ」

 

シャリアは、モニターを指差した。

 

「……奴は、スラスターを噴かす時、必ず近くのデブリを盾にしている。

 ……だが、その噴射炎が、デブリの表面温度をわずかに上げている……」

 

シャリアのニュータイプ能力は消えている。

 

だが、彼には木星の高放射線環境で培った、異常なまでの『観測能力』が残っていた。

 

彼は、計器の数値のわずかな揺らぎから、敵の位置を「計算」していたのだ。

 

「……3秒後。……右舷40度、巨大なソーラーパネルの残骸の裏だ。……そこへ撃ち込め」

 

『……マジかよ!?何も見えねえぞ!』

 

「……信じろ。私は、嘘をつかん」

 

ビッグXは、覚悟を決めた。

 

「……乗ったぜ、爺さん!」

 

ビッグXは、ザクの機首を右に向け、右手に持ったザク・マシンガンと

 

左手のシュツルム・ファウストを同時に発射した。

 

何の変哲もない、ただの宇宙ゴミの影に向かって。

 

 

ズドォォン!!

 

 

爆発の直後。

 

その影から、黒い機体が炙り出された。

 

『……なっ!?位置がバレた!?』

 

グリムの声に、初めて焦りが混じる。

 

「今だッ! 食らいつけ、ビッグX!」

 

ハンスが叫ぶ。

 

「オラァァァァッ!!」

 

脚なしザクが、爆発的な加速で

 

ついにグリムの懐へと飛び込み、インファイトを挑んだ!

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