ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第65話 嵐の中の踊り子 (The Dancer in the Storm)

サイド4「ムーア」宙域。 青白いプラズマの雷光が走る中

 

「ザクII・高機動『最下層』カスタム Ver.2.0」が

 

漆黒の「ゲルググ・イェーガー」に肉薄していた。

 

 

【ゼロ距離の舞踏】

 

「逃がすかよォォッ!!」

 

“ビッグX”准尉の怒号と共に、脚のないザクがスラスター・スカートを全開にして突っ込む。

 

右手のザク・マシンガンが火を噴き

 

背中の「第三の腕(ボール・アーム)」が、巨大な鉄骨を棍棒のように振り回す。

 

『……野蛮な!』

 

グリム少佐は、愛機の長距離ビーム・マシンガンを背中にマウントし、即座にビーム・サーベルを抜いた。

 

狙撃手から剣士へ。

 

その切り替えにコンマ一秒の迷いもない。

 

ガギィィン!!

 

鉄骨とビーム・サーベルが激突し、火花が散る。

 

鉄骨は瞬時に溶断されたが、その隙にビッグXは懐に入り込んでいた。

 

「オラァッ!ヒート・ホークだ!」

 

左手の斧が、ゲルググの胴体を狙う。

 

『遅い』

 

グリムは、スラスターを逆噴射し、バックステップでかわす。

 

だが、ビッグXのザクは

 

脚がないゆえの「慣性を無視したような急停止」を行い、すぐに追撃に移った。

 

『……なんだ、この挙動は。重心が定まらない……まるで幽霊だ』

 

グリムの予測演算がズレる。

 

通常のMSが「脚で踏ん張る」動作をするところを

 

このザクは「腰のスラスターで滑る」ように動く。

 

その不規則なリズムが、エリートパイロットの勘を狂わせていた。

 

 

【予報士の指示】

 

特務輸送艦「ボーン・ヤード」のブリッジ。

 

シャリア・ブルは、目を閉じたまま操舵輪を握っていた。

 

「……来るぞ。……敵は、焦れている」

 

シャリアが呟く。

 

「……左舷、30度。デブリの『渦』が出来る……」

 

「渦?」

 

カツオ・イトウがモニターを見る。

 

「……本当だ!巨大な帯電デブリ同士が引き合っている!

 あそこで放電が起きれば、ビッグXが巻き込まれる!」

 

マロンのハロが通信を送る。

 

『……お兄ちゃん!そこ、危ない!雷、落ちるよ!』

 

『あぁ!?』

 

ビッグXは、ハロの警告を信じ、攻撃の手を止めて急降下した。

 

直後。

 

 

バリバリバリッ!!

 

 

彼がいた空間を、数億ボルトのプラズマ放電が焼き尽くした。

 

『……チッ!』

 

巻き込まれそうになったグリムのゲルググが、バランスを崩す。

 

「今だ!奴の姿勢制御が乱れた!」

 

ハンス・シュタイナー中尉が叫ぶ。

 

「カツオ!対空機銃で援護しろ!ビッグXの道を開けろ!」

 

 

【狩人の撤退】

 

「食らえッ!!」

 

ビッグXは、雷撃の余波を突き抜け、体勢を崩したゲルググにタックルを仕掛けた。

 

ザクのスパイク・ショルダーが、ゲルググの左肩装甲を粉砕する。

 

ガシャァン!!

 

『ぐぅっ……!!』

 

グリムのコックピットに衝撃が走る。

 

『……機動性、火力、そして環境適応……。地の利は貴様らにあるか』

 

グリムは即断した。

 

これ以上の戦闘は、機体の消耗を招くだけだ。

 

何より、あの『老人の操艦』と『ハロの予知』によるサポートがある限り

 

この雷鳴の海で彼らを沈めるのは困難だ。

 

『……勝ったと思うなよ、ドブネズミども』

 

グリムは、閃光弾をばら撒いた。

 

カッ!!

 

強烈な光が視界を奪う。

 

視界が戻った時、漆黒のゲルググ・イェーガーは、デブリの影に紛れて消え失せていた。

 

 

【難破船の墓場】

 

「……逃げたか」

 

ビッグXは、荒い息を吐きながら、周囲を警戒した。

 

「……へっ。ざまあみろ。ここは俺たちの庭だ」

 

戦闘が終わり、ボーン・ヤードは再び静寂を取り戻した。

 

「……案内しよう」

 

シャリア・ブルが、操舵席で静かに言った。

 

「……この雷の海の中心に……風の止む場所がある」

 

シャリアの導きに従い、艦は危険なデブリ帯のさらに奥深くへと進んだ。

 

やがて、雷鳴が遠ざかり、奇妙なほど静かな空間が現れた。

 

そこには、数え切れないほどの艦船の残骸が漂っていた。

 

マゼラン、ムサイ、チベ、サラミス……。

 

敵味方の区別なく、無数の鋼鉄の亡骸が寄り添うように集まり

 

巨大な「島のよう」な塊を形成していた。

 

「……シップ・グレイブヤード(船の墓場)……」

 

カツオが息を呑む。

 

「……あそこだ」

 

シャリアが指差したのは、その残骸の塊の中心。

 

一隻の、巨大な『ドロス級超大型空母』の残骸だった。

 

その巨大な船体は、半ば崩壊しているが

 

まだ「生きて」いるかのように、微弱な誘導ビーコンを発していた。

 

「……あれが、私の知っている場所だ」

 

シャリアが、懐かしそうに、そして悲しげに言った。

 

「……はぐれた者たちが、最後に身を寄せる……『深海の家』だ」

 

 

ボーン・ヤードは、ドロス級の残骸にある巨大な格納庫へと入港した。

 

そこには、驚くべき光景が広がっていた。

 

残骸を利用して作られた、継ぎ接ぎだらけの居住区。

 

MSのパーツで作られた家々。

 

そして、そこに住む、連邦やジオンの軍服を着崩した、痩せこけた人々。

 

彼らは、戦争から逃げ出し、あるいは戦死扱いとなって

 

ここへ流れ着いた「本当の亡霊」たちだった。

 

「……ようこそ、吹き溜まりへ」

 

ハンスが苦笑した。

 

その時、居住区の影から、数機のMSが現れ、銃口を向けてきた。

 

ザクI(旧ザク)、ジム、そしてボール。

 

敵対していたはずの機体が、混成部隊として彼らを包囲する。

 

『……所属と目的を言え』

 

リーダーらしき、真っ白に塗装された『高機動型ザク(R-1A型)』が進み出た。

 

「……ここも、楽園じゃなさそうだな」

 

カツオは、マイクを握りしめた。

 

また一つ、新たな【最下層】での交渉が始まろうとしていた。

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