ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
サイド4「ムーア」宙域。
ジオン軍の超大型空母「ドロス」は巨大な廃墟の塊となっていた。
その格納庫内部に造られた「シップ・グレイブヤード」の集落で
ハンス・シュタイナー中尉たちは、先住者たちに包囲されていた。
【亡霊たちの審判】
格納庫の床には、朽ち果てた艦船の残骸が積み上げられ
その上に掘立小屋のような居住区が形成されていた。
そこに、旧ザク、ジム、ボールなど
敵味方入り乱れたMSの混成部隊が、ボーン・ヤードの一行に銃口を向けていた。
リーダーとして前に進み出たのは、全身を白い機体番号のない「高機動型ザク(R-1A型)」だ。
そのパイロットは、通信で威圧的に尋問した。
『この宙域は、我々の生存圏だ。所属と目的を述べよ。抵抗すれば、ここに沈める』
ハンスが応じた。
「我々は、戦争から逃れてきた漂流者だ。
貴様らと同じ『最下層の住人』だ」
『そのデカい船は、連邦の特務艦と見受けられるが?』
「盗んだ。連邦軍の機密物資を積んでいる。……だが、それを売るつもりはない。
我々は、船の修理と補給、そして静かな休息を求めているだけだ」
"教授"ビタム曹長が、ハンスに耳打ちする。
『中尉、あれはR-1Aだ。性能は旧型でも、パイロットは相当な手練れですよ。
それに、このコロニーの住人は、ジオンと連邦の混合。交渉は慎重に』
【シャリアの証言】
緊迫した膠着状態を破ったのは、船内に残っていたシャリア・ブルだった。
彼の脳波は安定し、ブリッジの通信機を通して、外のMSに語りかけた。
「……待て。その白いザクのパイロットよ。……お前は、ドズル中将の……腹心か?」
その言葉に、白いR-1A型ザクが一瞬、動きを止めた。
『……何者だ、貴様は。なぜ、その名を知っている』
「私は、シャリア・ブル。……かつて、木星船団を率いていた男だ。
……中将閣下の『宇宙戦の哲学』を、貴様の操縦に見る」
「……!!」
白いザクのパイロットが、外部スピーカーで声を荒げた。
『馬鹿な!シャリア・ブル少佐は、ソロモンで戦死したはずだ!』
「私は死んだ。……全てを失ってな。
だが、貴様は生きている。……ドズル中将が、ここへ逃がしたのだろう」
シャリアの言葉は、まるで亡霊の囁きのように、R-1Aのパイロットの核心を突いていた。
このドロス残骸は、ドズル・ザビが敗戦時に見捨てなかった
数少ない忠実な部下たちが逃げ込んだ「秘密の隠れ家」だったのだ。
【契約】
沈黙の後、白いザクのパイロットは、周囲のMSに武器を下ろすよう命じた。
『……格納庫へ来い。話を聞こう』
白いR-1Aのパイロットは、ドズル艦隊の元エースパイロットだった。
彼は、シャリアの記憶が本物だと確信した。
ハンスたちは、ボーン・ヤードをハンガーに固定し、格納庫の居住区画へ向かった。
元エースパイロットは、顔を見せなかったが、通信で交渉を続けた。
『我々は、この宙域の平和を乱す連中を嫌う。貴様らの船には、追っ手がいるだろう?』
「その通りだ。グリム少佐のゲルググ・イェーガーだ」
ハンスが認めた。
『ジオンの特務部隊か。……厄介だ』
パイロットは条件を提示した。
『貴様らをここに滞在させる条件は二つだ。一つ、船の物資は、公平に分配する。
二つ、貴様らが持っている「機密情報」を、我々に譲渡せよ』
ハンスが振り返り、カツオと目を合わせる。
「機密情報……『HADES(ハデス)』のデータのことか」
カツオは、マロン(ハロ)を抱きかかえていた。
「……彼らは、自分たちの安息を守るために、その『パンドラの箱』を開けさせようとしている」
【鉄と鋼の誓い】
ハンスは、静かに答えた。
「HADESのデータは渡せない。……あれは、人類を滅ぼしかねない禁断の兵器だ。
売ることも、利用することもできない」
『ならば、貴様らは敵と見なす!』
再び、周囲のMSが銃口を向け始めた。
「待て」
ハンスが制した。
「データは渡せないが、『技術』は渡せる」
ハンスは、ビッグXの脚なしザクを指差した。
「この機体は、連邦の最新鋭パーツと、ジオンの技術で組み上げられている。
俺たちは、そのノウハウを持っている。……この船で、貴様らのMSを修理し、強化する。
その技術を、互いの命を守る盾とするのはどうだ?」
沈黙が支配した。
この集落の住民たちにとって、MSは命綱だ。
その修理技術は、金よりも価値がある。
『……いいだろう』
白いザクのパイロットが、重い口を開いた。
『貴様らの技術が、我々の生存権を確保すると誓うのなら。
……ただし、約束を破れば、即座に、貴様の船ごとドロス残骸に溶かしてやる。
……ようこそ、【シップ・グレイブヤード】へ』
こうして、「穴熊部隊」は、ムーア宙域の亡霊たちとの一時的な同盟関係を築いた。
シャリア・ブルは、ドロスに残されていた古い木製の椅子に座り、ブリッジを見つめていた。
「……あの男は、ドズル中将の意志を継いでいる。
……そして、この集落の者たちを、次の戦いのための『駒』として温存している」
「次の戦い、ですか?」
カツオが問う。
「そうだ。……連邦との戦争は終わっても、彼らの『意地』は終わらない」
シャリアは、遠い目をした。
「……そして、我々の『復讐者』であるグリムは、もうすぐここへやって来る。
この集落全体が、戦場となるだろう」
マロンのハロが、カツオの肩で揺れる。
『……カツオお兄ちゃん。……私、この船の中の……あのMSのパーツを調べていい?』
「あのMS?」
『……ビッグXお兄ちゃんのザクじゃないよ。……船のハンガーにある、連邦のMS……』
ボーン・ヤードのハンガーには、ペイルライダーの予備パーツの他に
その母体となったMS、そして、さらなる謎を秘めた機体の残骸が運び込まれていた。
カツオは、マロンの言葉に、新たな予感を感じていた。