ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
巨大空母『ドロス』の腹の中。
「シップ・グレイブヤード」と呼ばれるその場所は、死んだ艦船の森だった。
だが、その一角にある仮設ハンガーだけは、生きた熱気に包まれていた。
【異形の兄弟機】
「……出力安定。ハンス中尉、溶接はどうですか?」
カツオ・イトウは、整備端末の最終チェックを終え
白いR-1Aのジェネレーターユニットから身を引いた。
「完璧だ、コーチ」
ハンス・シュタイナーは、熱で火照った顔を拭った。
「装甲の合わせ目も塞いだ。これなら宇宙の塵も入らん。
連邦の技術と、ジオンのスクラップの合わせ技だ」
「ルーキー、カツオが使っている部品の在庫、確認しとけよ!」
"教授"ビタム曹長が、作業用アームを操りながら
隣の貨物ポッドにいる"ルーキー"クェン兵長に声をかける。
カツオ、ハンス、そして教授たちは、阿吽の呼吸で手を動かしていた。
そこにあるのは、人種も階級も超えた、熟練のピットクルーのような信頼関係だけだ。
その様子を、ハヤブサが白いR-1Aのコクピットハッチから見下ろしていた。
『……不思議な連中だ。連邦の脱走兵と、ジオンの落伍兵。
混ざり合うはずのない水と油が、ここでは最強の合金になっている』
「水と油じゃねえよ」
ハンガーの反対側から、野太い声が響いた。
“ビッグX”准尉だ。
彼は、自分の愛機――
『ザクII・高機動【最下層】カスタム Ver.2.0』の巨大なスラスター・スカートを磨き上げていた。
「俺たちは【泥水】だ。混ざり合って、ドロドロになって
固まればコンクリートより硬えんだよ」
ビッグXは、自分の『脚のない』機体を愛おしそうに叩いた。
「な? 俺の『踊り子』ちゃん」
ハヤブサは、その奇怪なザクを見て、ふっと口元を緩めた。
『……脚なんて飾りだ、と言いたげだな。面白い。ドズル閣下が生きておられたら、さぞかし気に入っただろう』
【処刑人の足音】
その時、カツオの横にいた「ハロ」――マロンが、激しく振動した。
『……来る。……怖いのが、来る……』
ハンガーの空気が凍りついた。
脳だけがハロの中に移植されたマロンの感覚は、センサーよりも鋭い。
彼女が「怖い」と言う時は、必ず死の匂いがする時だ。
「マロン、方向は?」
カツオが素早く確認する。
『……外。……デブリの影。……真っ黒な、狩人……』
「グリム少佐か」
ハンスが工具を置き、視線を鋭くした。
「教授、船のセンサーはどうだ?」
ボーン・ヤードのブリッジから、"教授"ビタム曹長の声が飛ぶ。
『反応あり!熱源探知を極限まで絞っていますが、この動き……間違いない。
ゲルググ・イェーガーです。単機で、デブリの死角を縫うように接近中。
……完全に、ここを特定しています』
ドロスの奥にある、古びた木製の椅子に座っていたシャリア・ブルが、虚ろな目のまま呟いた。
「……狩りだよ。奴は、獲物が巣穴に戻ったのを見届けてから、出口を塞いだのだ」
「……出るぞ、火が」
【共同戦線】
『……私が出る。ここは私の庭だ』
ハヤブサが白いR-1Aのハッチを閉めようとする。
「待て、ハヤブサ!」
カツオが叫び、キャットウォークを駆け上がった。
「アンタの腕は認める。だが、グリムは『狩人』だ。
正攻法のドッグファイトじゃ、アンタでも食われる可能性がある!」
『ならば、どうする。座して死を待つか?』
「俺たちが露払いをする」
カツオは、下のビッグXに合図を送った。
「ビッグX! お前の『踊り子』の出番だ。
あの変則機動なら、グリムの狙撃の照準を狂わせられる」
「へっ!言われなくてもエンジンは温まってるぜ!」
ビッグXがヘルメットを被り、親指を立てる。
「コーチ、作戦は?」
「単純明快だ」
カツオは不敵に笑った。
「ハヤブサの白いR-1Aが『本命』となる。
ビッグXのカスタムザクが『
二機の高機動ザクで、グリムの『リズム』を崩す。
俺も指示を出す。
お前たちの
ハヤブサは一瞬沈黙し、そしてニヤリと笑った。
『……いいだろう。貴様らの『泥水』の強さ、見せてもらう』
【開戦の咆哮】
ドロスの巨大なハッチが、重苦しい音と共に開放された。
そこへ、暗黒の宇宙から一筋の閃光が走る。
ビーム・マシンガンの狙撃だ。ハッチの縁が溶解し、爆発する。
『出てこい、ドロスの亡霊ども。……そして、最下層の薄汚いネズミたちよ』
オープン回線に乗ったグリム・ローゼンの声は、絶対零度のように冷たかった。
『このドロスごと、貴様らの墓標にしてやる』
「挨拶が遅えよ、死神野郎!」
ビッグXの怒号と共に、「ザクII・高機動【
脚部がなく、スラスターの一撃で初速からトップスピードに達する。
ズバァァァッ!!
上下左右、重力を無視したようなスライド移動。
予測不能な三次元機動だ。
『……また、あの機体か……。なに?以前より速い?』
冷静なグリムの声に、わずかなノイズが混じる。
「今だ、ハヤブサ!」
カツオが叫ぶ。
その直後、ビッグXの噴射煙の中から、純白の機体が躍り出た。
ハヤブサの白いR-1A型ザク。
『ドズル閣下の魂、ここに見せてくれる!』
整備されたばかりのジェネレーターが唸りを上げ
白いR-1AがビッグXとは対照的な、美しく鋭角的な機動でゲルググに肉薄する。
「行けぇッ!俺たちのザクは、伊達じゃねえぞ!!」
二機の『踊り子』が、最強の狩人・グリムに牙を剥いた。