ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

68 / 92
第67話 二機の踊り子 (The Two Dancers)

巨大空母『ドロス』の腹の中。

 

「シップ・グレイブヤード」と呼ばれるその場所は、死んだ艦船の森だった。

 

だが、その一角にある仮設ハンガーだけは、生きた熱気に包まれていた。

 

 

【異形の兄弟機】

 

「……出力安定。ハンス中尉、溶接はどうですか?」

 

カツオ・イトウは、整備端末の最終チェックを終え

 

白いR-1Aのジェネレーターユニットから身を引いた。

 

「完璧だ、コーチ」

 

ハンス・シュタイナーは、熱で火照った顔を拭った。

 

「装甲の合わせ目も塞いだ。これなら宇宙の塵も入らん。

 連邦の技術と、ジオンのスクラップの合わせ技だ」

 

「ルーキー、カツオが使っている部品の在庫、確認しとけよ!」

 

"教授"ビタム曹長が、作業用アームを操りながら

 

隣の貨物ポッドにいる"ルーキー"クェン兵長に声をかける。

 

カツオ、ハンス、そして教授たちは、阿吽の呼吸で手を動かしていた。

 

そこにあるのは、人種も階級も超えた、熟練のピットクルーのような信頼関係だけだ。

 

その様子を、ハヤブサが白いR-1Aのコクピットハッチから見下ろしていた。

 

『……不思議な連中だ。連邦の脱走兵と、ジオンの落伍兵。

 混ざり合うはずのない水と油が、ここでは最強の合金になっている』

 

「水と油じゃねえよ」

 

ハンガーの反対側から、野太い声が響いた。

 

“ビッグX”准尉だ。

 

彼は、自分の愛機――

 

『ザクII・高機動【最下層】カスタム Ver.2.0』の巨大なスラスター・スカートを磨き上げていた。

 

「俺たちは【泥水】だ。混ざり合って、ドロドロになって

 固まればコンクリートより硬えんだよ」

 

ビッグXは、自分の『脚のない』機体を愛おしそうに叩いた。

 

「な? 俺の『踊り子』ちゃん」

 

ハヤブサは、その奇怪なザクを見て、ふっと口元を緩めた。

 

『……脚なんて飾りだ、と言いたげだな。面白い。ドズル閣下が生きておられたら、さぞかし気に入っただろう』

 

 

【処刑人の足音】

 

その時、カツオの横にいた「ハロ」――マロンが、激しく振動した。

 

『……来る。……怖いのが、来る……』

 

ハンガーの空気が凍りついた。

 

脳だけがハロの中に移植されたマロンの感覚は、センサーよりも鋭い。

 

彼女が「怖い」と言う時は、必ず死の匂いがする時だ。

 

「マロン、方向は?」

 

カツオが素早く確認する。

 

『……外。……デブリの影。……真っ黒な、狩人……』

 

「グリム少佐か」

 

ハンスが工具を置き、視線を鋭くした。

 

「教授、船のセンサーはどうだ?」

 

ボーン・ヤードのブリッジから、"教授"ビタム曹長の声が飛ぶ。

 

『反応あり!熱源探知を極限まで絞っていますが、この動き……間違いない。

 ゲルググ・イェーガーです。単機で、デブリの死角を縫うように接近中。

 ……完全に、ここを特定しています』

 

ドロスの奥にある、古びた木製の椅子に座っていたシャリア・ブルが、虚ろな目のまま呟いた。

 

「……狩りだよ。奴は、獲物が巣穴に戻ったのを見届けてから、出口を塞いだのだ」

 

「……出るぞ、火が」

 

 

【共同戦線】

 

『……私が出る。ここは私の庭だ』

 

ハヤブサが白いR-1Aのハッチを閉めようとする。

 

「待て、ハヤブサ!」

 

カツオが叫び、キャットウォークを駆け上がった。

 

「アンタの腕は認める。だが、グリムは『狩人』だ。

 正攻法のドッグファイトじゃ、アンタでも食われる可能性がある!」

 

『ならば、どうする。座して死を待つか?』

 

「俺たちが露払いをする」

 

カツオは、下のビッグXに合図を送った。

 

「ビッグX! お前の『踊り子』の出番だ。

 あの変則機動なら、グリムの狙撃の照準を狂わせられる」

 

「へっ!言われなくてもエンジンは温まってるぜ!」

 

ビッグXがヘルメットを被り、親指を立てる。

 

「コーチ、作戦は?」

 

「単純明快だ」

 

カツオは不敵に笑った。

 

「ハヤブサの白いR-1Aが『本命』となる。

 ビッグXのカスタムザクが『撹乱(デコイ)』だ。

 二機の高機動ザクで、グリムの『リズム』を崩す。

 俺も指示を出す。

 お前たちの連携(ダンス)、見せてやれ!」

 

ハヤブサは一瞬沈黙し、そしてニヤリと笑った。

 

『……いいだろう。貴様らの『泥水』の強さ、見せてもらう』

 

 

【開戦の咆哮】

 

ドロスの巨大なハッチが、重苦しい音と共に開放された。

 

そこへ、暗黒の宇宙から一筋の閃光が走る。

 

ビーム・マシンガンの狙撃だ。ハッチの縁が溶解し、爆発する。

 

『出てこい、ドロスの亡霊ども。……そして、最下層の薄汚いネズミたちよ』

 

オープン回線に乗ったグリム・ローゼンの声は、絶対零度のように冷たかった。

 

『このドロスごと、貴様らの墓標にしてやる』

 

「挨拶が遅えよ、死神野郎!」

 

ビッグXの怒号と共に、「ザクII・高機動【最下層(アンダードッグ)】カスタム」が飛び出した。

 

脚部がなく、スラスターの一撃で初速からトップスピードに達する。

 

 

ズバァァァッ!!

 

 

上下左右、重力を無視したようなスライド移動。

 

予測不能な三次元機動だ。

 

『……また、あの機体か……。なに?以前より速い?』

 

冷静なグリムの声に、わずかなノイズが混じる。

 

「今だ、ハヤブサ!」

 

カツオが叫ぶ。

 

その直後、ビッグXの噴射煙の中から、純白の機体が躍り出た。

 

ハヤブサの白いR-1A型ザク。

 

『ドズル閣下の魂、ここに見せてくれる!』

 

整備されたばかりのジェネレーターが唸りを上げ

 

白いR-1AがビッグXとは対照的な、美しく鋭角的な機動でゲルググに肉薄する。

 

「行けぇッ!俺たちのザクは、伊達じゃねえぞ!!」

 

二機の『踊り子』が、最強の狩人・グリムに牙を剥いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。