ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第6話 それぞれの戦場 (Respective Battlefields)

工業地帯の崩落から数時間。

 

夜が明け、第7補給基地には慌ただしい朝が訪れていた。

 

地下深くで起こった激闘も

 

地上から見れば「原因不明の地盤沈下」として処理されようとしていた。

 

 

【連邦側(ホッジポッジ隊)】

 

カツオ・イトウ少尉以下「ホッジポッジ隊」の面々は

 

ワセン大尉の執務室で直立不動の姿勢を取らされていた。

 

彼らの帰投と、管轄外である工業地帯での無許可戦闘

 

そして「大規模崩落」は、即座に大尉の知るところとなっていた。

 

「……つまり貴様らは」

 

ワセン大尉は、指で机をトントンと叩きながら

 

心底軽蔑した目でカツオたちを見下していた。

 

「命令を無視して管轄外(ピクニック)に出向き、(ネズミ)とじゃれ合い、あまつさえ工業地帯(納屋)を丸ごと一つ『崩落』。挙句の果てに、(ネズミ)は『取り逃がした』。そうだな?」

 

「……敵は、我々が掴ませた『おとりデータ』の情報を利用し、意図的に地盤を崩落させました。不可抗力です」

 

カツオが冷静に反論する。

 

「不可抗力だと? 貴様らが勝手に行かなければ、何も起こらなかった! 報告書一枚で済んだはずのネズミを、穴熊だか何だか知らんが、貴様らが『怪物』に仕立て上げたんだ!」

 

ワセンが怒鳴りつける。

 

「陸戦型ジム二機を損傷させ、敵には逃げられ……これ以上の失態があるか!」

 

「失態じゃねえ!」

 

それまで黙っていたアキラ伍長が、カツオの前に一歩出た。

 

「俺たちは! あのベテランどもと互角にやり合った! あと一歩で……!」

 

「アキラ伍長、黙れ」

 

カツオが鋭く制する。

 

ワセンは、そのアキラの反抗的な目を面白くなさそうに細めた。

 

「……ほう。『寄せ集め』のくせに、牙だけは生えたようだな、『負け犬』ども」

 

ワセンは立ち上がり、窓の外を見た。

 

「いいだろう。その有り余る元気を、有効に使う場所へ回してやる」

 

彼が言い渡した新たな任務は

 

戦場とは名ばかりの、基地で最も忌み嫌われる仕事だった。

 

「……ワセン大尉殿、それは?」

 

「辞令だ。貴様らホッジポッジ隊は、本日付けで第7補給基地の任を解く。オデッサE-2エリア、掃討作戦部隊への『転属』だ」

 

E-2エリア。

 

それは、オデッサ作戦でジオン敗残兵が逃げ込んだとされる

 

最も危険で、最も泥沼化している最前線。

 

そこは、カツオたちがいた安全な後方基地とは次元の違う、本物の【最下層】だった。

 

「事実上の『左遷』だ、イトウ少尉。二度と俺の管轄(ツラ)を見るな」

 

 

【ジオン側(穴熊部隊)】

 

その頃、地下数十メートル。

 

「穴熊部隊」の四機(ザクタンク、J型、旧ザク二機)は

 

崩落地点から数キロ離れた、かろうじて確保した古い地下水路に身を潜めていた。

 

MSの稼働音は停止され、コックピットには最小限の生命維持ランプだけが灯っていた。

 

「……中尉。ザクタンクの掘削アーム、完全に機能停止です」

 

“ルーキー”クェン兵長が、震える声で報告する。彼はハンス機の応急修理を試みていた。

 

「もう……掘れない。食料も、あと二日分もありません。俺たち、ここで終わりなんですか……」

 

「泣き言を言うな、ルーキー!」

 

“ビッグX”准尉が、損傷した機体を苛立たしげに点検しながら一喝する。

 

「あの『寄せ集め』どもから逃げ切ったんだ。ここで死んでたまるか」

 

「その通りだ」

 

ハンス・シュタイナー中尉が、暗いコックピットで静かに告げた。

 

「我々は、連邦の包囲網を完全に『突破』した。奴らはもう、我々がこの地下にいるとは思うまい。地上を捜索しているはずだ」

 

『……通信傍受』

 

“教授”ビタム曹長が、旧ザクのコンソールからノイズ混じりに報告する。

 

『連邦軍は、我々を『崩落に巻き込まれ全滅』、あるいは『工業地帯から地上を東へ逃亡』と判断した模様。オデッサ周辺の地上掃討部隊が、東へ移動を開始しました』

 

「好都合だ」

 

ハンスは、唯一残った古いインフラ図の、さらに東の部分を指し示した。

 

「掘削アームは失った。だが、俺の『目』と『腕』は残っている」

 

彼は、ザクタンクの無事な通常マニピュレーターを見つめた。

 

「この先の地層は、風化しやすい砂岩層だ。時間はかかる。だが、この『素手』でも掘り進める」

 

「素手で……!?」

 

ルーキーが息をのむ。

 

「ああ。音を立てず、光も見せず、ただひたすらに壁を削る。ここからが、本当の『穴熊』の仕事だ」

 

 

数日後。

 

ホッジポッジ隊の管制トレーラーと

 

ボロボロの陸戦型ジム二機を乗せた輸送列車が、ガタン、と大きく揺れた。

 

彼らは、E-2エリアへと向かっていた。

 

「チクショウ……」

 

アキラが、レーションの袋を握りつぶす。

 

「俺たちは、あのジオンどもとやり合えたってのに。なんでこんな……」

 

「……俺の、判断ミスだ」

 

カツオは、窓の外を流れる荒野を見つめていた。

 

「俺は、ワセン大尉という『上司』の心理を読み間違えた。……俺たちは、戦場では勝ったが、組織で負けたんだ」

 

彼らが知らないところで、その「組織」である連邦軍は

 

彼らに最悪の任務を与えようとしていた。

 

ワセン大尉の執務室。

 

E-2エリアの司令部から、カツオたちの転属に関する確認の通信が入っていた。

 

『――ああ、ワセン大尉。例の『寄せ集め』、確かに受領する。こっちは人手不足でな、ガキどもでも助かる』

 

「フン。好きに使ってくれ。どうせすぐスクラップだ」

 

ワセンが通信を切ろうとした時、E-2の司令官、バリス大尉が付け加えた。

 

『ところで、一つ奇妙な報告が上がっていてな。……管轄外の「空白地帯」で、地熱発電所にて、原因不明のエネルギーを感知した、と……』

 

ワセンはその報告を気にも留めなかった。

 

だがそれは、地下深くで「穴熊」たちが新たなエネルギー源を見つけ出し

 

そして「ホッジポッジ隊」が、再び彼らと交錯する運命の、ほんの序章に過ぎなかった。

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