ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
工業地帯の崩落から数時間。
夜が明け、第7補給基地には慌ただしい朝が訪れていた。
地下深くで起こった激闘も
地上から見れば「原因不明の地盤沈下」として処理されようとしていた。
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
カツオ・イトウ少尉以下「ホッジポッジ隊」の面々は
ワセン大尉の執務室で直立不動の姿勢を取らされていた。
彼らの帰投と、管轄外である工業地帯での無許可戦闘
そして「大規模崩落」は、即座に大尉の知るところとなっていた。
「……つまり貴様らは」
ワセン大尉は、指で机をトントンと叩きながら
心底軽蔑した目でカツオたちを見下していた。
「命令を無視して
「……敵は、我々が掴ませた『おとりデータ』の情報を利用し、意図的に地盤を崩落させました。不可抗力です」
カツオが冷静に反論する。
「不可抗力だと? 貴様らが勝手に行かなければ、何も起こらなかった! 報告書一枚で済んだはずのネズミを、穴熊だか何だか知らんが、貴様らが『怪物』に仕立て上げたんだ!」
ワセンが怒鳴りつける。
「陸戦型ジム二機を損傷させ、敵には逃げられ……これ以上の失態があるか!」
「失態じゃねえ!」
それまで黙っていたアキラ伍長が、カツオの前に一歩出た。
「俺たちは! あのベテランどもと互角にやり合った! あと一歩で……!」
「アキラ伍長、黙れ」
カツオが鋭く制する。
ワセンは、そのアキラの反抗的な目を面白くなさそうに細めた。
「……ほう。『寄せ集め』のくせに、牙だけは生えたようだな、『負け犬』ども」
ワセンは立ち上がり、窓の外を見た。
「いいだろう。その有り余る元気を、有効に使う場所へ回してやる」
彼が言い渡した新たな任務は
戦場とは名ばかりの、基地で最も忌み嫌われる仕事だった。
「……ワセン大尉殿、それは?」
「辞令だ。貴様らホッジポッジ隊は、本日付けで第7補給基地の任を解く。オデッサE-2エリア、掃討作戦部隊への『転属』だ」
E-2エリア。
それは、オデッサ作戦でジオン敗残兵が逃げ込んだとされる
最も危険で、最も泥沼化している最前線。
そこは、カツオたちがいた安全な後方基地とは次元の違う、本物の【最下層】だった。
「事実上の『左遷』だ、イトウ少尉。二度と俺の管轄(ツラ)を見るな」
【ジオン側(穴熊部隊)】
その頃、地下数十メートル。
「穴熊部隊」の四機(ザクタンク、J型、旧ザク二機)は
崩落地点から数キロ離れた、かろうじて確保した古い地下水路に身を潜めていた。
MSの稼働音は停止され、コックピットには最小限の生命維持ランプだけが灯っていた。
「……中尉。ザクタンクの掘削アーム、完全に機能停止です」
“ルーキー”クェン兵長が、震える声で報告する。彼はハンス機の応急修理を試みていた。
「もう……掘れない。食料も、あと二日分もありません。俺たち、ここで終わりなんですか……」
「泣き言を言うな、ルーキー!」
“ビッグX”准尉が、損傷した機体を苛立たしげに点検しながら一喝する。
「あの『寄せ集め』どもから逃げ切ったんだ。ここで死んでたまるか」
「その通りだ」
ハンス・シュタイナー中尉が、暗いコックピットで静かに告げた。
「我々は、連邦の包囲網を完全に『突破』した。奴らはもう、我々がこの地下にいるとは思うまい。地上を捜索しているはずだ」
『……通信傍受』
“教授”ビタム曹長が、旧ザクのコンソールからノイズ混じりに報告する。
『連邦軍は、我々を『崩落に巻き込まれ全滅』、あるいは『工業地帯から地上を東へ逃亡』と判断した模様。オデッサ周辺の地上掃討部隊が、東へ移動を開始しました』
「好都合だ」
ハンスは、唯一残った古いインフラ図の、さらに東の部分を指し示した。
「掘削アームは失った。だが、俺の『目』と『腕』は残っている」
彼は、ザクタンクの無事な通常マニピュレーターを見つめた。
「この先の地層は、風化しやすい砂岩層だ。時間はかかる。だが、この『素手』でも掘り進める」
「素手で……!?」
ルーキーが息をのむ。
「ああ。音を立てず、光も見せず、ただひたすらに壁を削る。ここからが、本当の『穴熊』の仕事だ」
数日後。
ホッジポッジ隊の管制トレーラーと
ボロボロの陸戦型ジム二機を乗せた輸送列車が、ガタン、と大きく揺れた。
彼らは、E-2エリアへと向かっていた。
「チクショウ……」
アキラが、レーションの袋を握りつぶす。
「俺たちは、あのジオンどもとやり合えたってのに。なんでこんな……」
「……俺の、判断ミスだ」
カツオは、窓の外を流れる荒野を見つめていた。
「俺は、ワセン大尉という『上司』の心理を読み間違えた。……俺たちは、戦場では勝ったが、組織で負けたんだ」
彼らが知らないところで、その「組織」である連邦軍は
彼らに最悪の任務を与えようとしていた。
ワセン大尉の執務室。
E-2エリアの司令部から、カツオたちの転属に関する確認の通信が入っていた。
『――ああ、ワセン大尉。例の『寄せ集め』、確かに受領する。こっちは人手不足でな、ガキどもでも助かる』
「フン。好きに使ってくれ。どうせすぐスクラップだ」
ワセンが通信を切ろうとした時、E-2の司令官、バリス大尉が付け加えた。
『ところで、一つ奇妙な報告が上がっていてな。……管轄外の「空白地帯」で、地熱発電所にて、原因不明のエネルギーを感知した、と……』
ワセンはその報告を気にも留めなかった。
だがそれは、地下深くで「穴熊」たちが新たなエネルギー源を見つけ出し
そして「ホッジポッジ隊」が、再び彼らと交錯する運命の、ほんの序章に過ぎなかった。