ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第70話 三つの心、一匹の獣 (Three Minds, One Beast)

「……撃てッ!!」

 

グリム・ローゼン少佐の号令と共に

 

ジオン公国軍特務部隊「デュラハン」の艦隊が一斉射撃を開始した。

 

ムサイ級巡洋艦からのメガ粒子砲が、暗黒の宇宙を裂き

 

ドロスの巨体を覆うデブリの壁に着弾する。

 

ズガァァァァン!!

 

爆発の閃光が、シップ・グレイブヤードの掘立小屋を揺らす。

 

「おのれ、グリムめ!住居区を狙うとは!」

 

ハヤブサが咆哮し、白きR-1A型ザクを急発進させた。

 

だが、敵は艦隊だ。単機の突撃では、弾幕の餌食になる。

 

その時、ボーン・ヤードのカタパルトデッキから、異形の機体が滑り出した。

 

 

【トライアングル・システム起動】

 

「……行くぞ、相棒ども!」

 

“ビッグX”准尉の「ザクII・高機動【最下層(アンダードッグ)】カスタム Ver.2.0」が、スラスターを噴射する。

 

脚部のないその機体は、背負った巨大なHADESユニットと

 

ボールのマニピュレーターを揺らしながら、戦場という名のダンスフロアへ飛び出した。

 

『……HADES、リンク開始。……殺意データ、受信』

 

コクピットに設置されたハロ――マロンの無機質な声が響く。

 

『……殺気、多数。……怖いのが、いっぱい来る……』

 

「カツオ!情報量が多すぎる!画面が真っ赤だ!」

 

ビッグXが叫ぶ。彼の全周囲モニターには

 

HADESが予測した敵の『攻撃予測ライン』が、無数の赤い線となって視界を埋め尽くしていた。

 

これでは、どこに避ければいいのか分からない。

 

特務艦「ボーン・ヤード」のブリッジ。

 

カツオ・イトウは、マイクを握りしめて叫んだ。

 

「全部を見るな、ビッグX!情報を捨てるんだ!」

 

カツオは、手元のコンソールで、マロン(ハロ)への情報流入量を調整する。

 

心理学でいう「選択的注意」の強制執行だ。

 

「マロン!遠くの敵は無視しろ!

 半径500メートル以内、自分に『殺意』を向けている敵だけを拾え!」

 

『……うん。……絞る。……赤いの、減った』

 

瞬時に、ビッグXの視界からノイズが消え、三本の「極太の赤いライン」だけが残った。

 

それは、彼を狙撃しようとしていた

 

デュラハン隊の先鋒・リック・ドムII(ツヴァイ)三機の射線だった。

 

 

【舞踏する獣】

 

「……見えたッ!!」

 

ビッグXが操縦桿を倒す。

 

思考するより早く、体が反応した。

 

HADESが弾き出した「最適解」を、マロンが「直感」として伝え

 

ビッグXの「技量」がそれを実行する。

 

ズバァッ!!

 

三条のバズーカ弾が、ザクの残像を貫く。

 

ビッグXの機体は、脚がないゆえの慣性を無視した動きで

 

予測不能な軌道を描いてリック・ドムの懐に飛び込んだ。

 

「遅えんだよ、エリート崩れがァ!」

 

ザクの右手に握られたマシンガンが火を噴くのと

 

背中の「第三の腕(ボール・アーム)」がドムの顔面を鷲掴みにするのは同時だった。

 

 

ガシャァン!!

 

 

アイアン・クローのようにドムの頭部を握り潰し、そのまま盾にして、後続の敵弾を防ぐ。

 

『なっ!? なんだあの動きは!』

『データにない機動だ! 囲め!』

 

敵の通信が混乱する。

 

「いいぞ、ビッグX!その調子だ!」

 

カツオが声を飛ばす。

 

「マロン、次の指示は?」

 

『……右、後ろ。……速いのが来る!』

 

「右後方だ!回避!」

 

ビッグXは、疑うことなく機体を右へスライドさせた。

 

直後、そこをグリムのゲルググ・イェーガーによる高出力ビームが貫通していった。

 

「ヒュウ!危ねえ!」

 

ビッグXが冷や汗を流す。

 

「すげえな、おい!まるで背中に目がついたみたいだぜ!」

 

 

【心理学者の手綱】

 

だが、HADESの恐ろしさはここからだった。

 

戦闘が高揚するにつれ、システムが「より効率的な殺戮」を求めて暴走を始める。

 

『……敵、排除。……もっと、壊す。……壊さなきゃ……』

 

マロンの声から、感情が消え、冷たい機械の響きが混じり始める。

 

モニターの予測ラインが、敵のコクピットを執拗に狙うコースへと変化していく。

 

「まずい!」

 

カツオが気づく。

 

「過剰適応だ!マロンがシステムの殺意に飲み込まれかけてる!

 ビッグX!深追いするな!一撃離脱に徹しろ!」

 

「うるせえ!今ならやれる!全員ぶっ殺せる気がするぜ!」

 

ビッグXの目にも、危険な光が宿り始めていた。

 

HADESの興奮剤が、パイロットの闘争本能を異常に刺激しているのだ。

 

カツオは、コーチとしての『言葉』をぶつけた。

 

「戻れ、ビッグX!それはお前の強さじゃない!システムに使われているだけだ!」

 

カツオの声が、通信機を通してビッグXの脳髄を叩く。

 

「お前はジオンの叩き上げだろ!機械に操られて勝って、それでエース気取りか!?」

 

「……ッ!!」

 

ビッグXの動きが一瞬止まる。

 

「……チッ!痛えとこ突きやがる!」

 

ビッグXは、頭を振って正気を取り戻した。

 

「悪かったなコーチ!俺の手綱は、しっかり握ってろよ!」

 

ザクは、無理な突撃を中止し、デブリの影へと滑り込んだ。

 

暴走寸前だったHADESの出力が、カツオの制御で正常値に戻る。

 

 

【老兵の観測】

 

その様子を、ブリッジの隅で見ていたシャリア・ブルが、深く息を吐いた。

 

「……驚いたな」

 

彼の老いた瞳が、モニターの中のザクを見つめる。

 

「ニュータイプ研究所の連中が見れば、腰を抜かすだろう。

 ……『感応波』による制御ではなく、『対話』による制御か」

 

シャリアは、隣にいるハンス・シュタイナー中尉に話しかけた。

 

「あの子(マロン)は、未来予知をしているわけではない。

 膨大な演算データを、パイロットが理解できる『言葉』に翻訳しているだけだ。

 ……だが、それこそが、凡人が天才(ニュータイプ)に抗うための、唯一の解かもしれん」

 

ハンスは、腕を組んでカツオの背中を見ていた。

 

「ウチのコーチは、人の心を扱うプロですからね。

 ……たとえ相手が、呪われた殺人システムだろうと」

 

 

【騎士の焦燥】

 

一方、旗艦ムサイのブリッジから戦況を見ていた

 

グリム・ローゼンの表情が、初めて険しくなった。

 

『……バカな。HADESだと?』

 

グリムは、あのザクの動きに、連邦の極秘データの片鱗を見て取った。

 

『だが、あのシステムはパイロットを食い潰すはず。……なぜ、あんなに安定している?』

 

予想外の抵抗。

 

そして、自軍の損耗。

 

「デュラハン」の名を持つエリート部隊が、寄せ集めの敗残兵に翻弄されている。

 

「……認めん。このような不条理は」

 

グリムは、通信機を掴んだ。

 

『全艦、砲撃目標を変更。……MSではない』

 

グリムの冷酷な目が、戦場の奥に浮かぶ巨大な影――特務輸送艦「ボーン・ヤード」を捉えた。

 

『あの船だ。……あの中に、システムを制御している「頭脳」がいる。船ごと吹き飛ばせ』

 

戦局は、MS戦から、ボーン・ヤードを守る防衛戦へと移行しようとしていた。

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