ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
第73話 昇進しなかった男 (The Unpromoted Man)
一年戦争、終盤。
ボーン・ヤードのドックで
カツオ・イトウは傷ついた「ザクII・高機動【
「シップ・グレイブヤード」の住人たちをこれ以上巻き込みたくない。
その思いで、カツオたちはドロスの残骸地帯を後にし、今のコロニーにたどり着いた。
戦いは終わらない。
逃避行は続く。
だが、追っ手の足音は、予想よりも早く
そして今までとは違う「冷たい殺意」と共に近づいていた。
【連邦の刺客】
サイド6領空境界線。
地球連邦軍サラミス級巡洋艦「サウザンド・アイズ」のMSデッキ。
そこには、かつてカツオが率いた『
だが、その空気はオデッサ時代とは一変していた。
「……遅いぞ、アキラ少尉。ブリーフィング開始時刻を15秒過ぎている」
氷のような声が響く。
声の主は、最新鋭機「RGM-79C ジム改」の前に立つ女性士官、ヴァギーニャ大尉だ。
鋭い眼光、短く切り揃えた黒髪。
その立ち姿には隙がなく、部下を委縮させる威圧感を放っていた。
「……悪かったですね、隊長。
食堂のコーヒーが不味すぎて、飲み干すのに時間がかかったんでね」
アキラ少尉が、悪びれずに答える。
だが、その目にはヴァギーニャへの反発心が隠せていない。
「減らず口を。……貴様らはカツオ・イトウの『悪い癖』ばかり受け継いでいるようだな」
ヴァギーニャは冷たく吐き捨て、データパッドを表示させた。
「今回の標的は、脱走艦『ボーン・ヤード』だ。……だが、私の優先目標は別にある」
彼女が指し示したのは、カツオではなく
ハンス・シュタイナーの顔写真だった。
「ジオン公国軍工兵、ハンス・シュタイナー。『穴熊』と呼ばれている。
……オデッサで、私の父が乗る戦車隊を罠に嵌め、全滅させた男だ」
ヴァギーニャの瞳に、暗い炎が揺らめいた。
「奴は私が殺す。……貴様らは、そのための『駒』として動け。
感情は不要だ。合理的に、奴を追い詰めろ」
【階級格差】
ブリーフィング終了後。
アキラは、僚機の整備をしている男に声をかけた。
「……聞いたかよ、タカシ。あの女、完全に私怨じゃねえか」
タカシ曹長は、整備用端末を叩きながら、深いため息をついた。
「……はぁ。合理的とか言いながら一番感情的ですよね。やりにくいったらありゃしない」
タカシは、自分の階級章(曹長のまま)を恨めしそうに撫でた。
「それにしても、納得いきませんよ。アキラは『少尉』、リツコさんは『特務曹長』に昇進。
……なんで僕だけ、オデッサからずっと『曹長』のままなんですか!?AI開発の功績は!?」
「ははっ!お前のAIが優秀すぎて
上層部が『人間(タカシ)の手柄じゃない』って判断したんだろ!」
「笑い事じゃないですよ!給料のベースアップが全然違うんですからね!
……あーあ、カツオ隊長なら、もっと正当に評価してくれたのになぁ……」
タカシは愚痴りながらも、指先は高速でキーを叩き、ドック内の熱源反応を解析していた。
「……愚痴はここまでです。反応捕捉。……『コーチ』たちは、第4ブロックにいます」
「行くぞ。……リツコ、回線開け。カツオ隊長……いや、ターゲットに接触する」
【銃口と因縁】
ボーン・ヤードのブリッジ。
カツオが振り返ったその先には
アキラの「ジム・コマンド宇宙戦仕様」と、ヴァギーニャの「ジム改」が音もなく着地していた。
「……動くな、カツオ・イトウ」
アキラが外部スピーカーで警告する。
「アキラ……。それにタカシ、リツコか」
カツオは、両手を挙げながらも、どこか嬉しそうに目を細めた。
「いい機体に乗せてもらってるじゃないか。……アキラ、重心移動の癖、少し治ったな」
「……っ!隊長面するな!」
アキラが声を荒らげる。
「アンタは脱走兵だ! 軍の物資を盗み、あまつさえ……!」
その時、ヴァギーニャのジム改が一歩前に出た。
ビーム・スプレーガンの銃口が、カツオではなく、その背後にいたハンスに向けられる。
「……見つけたぞ、父の仇」
ヴァギーニャの憎悪に満ちた声が響く。
「ハンス・シュタイナー。貴様の仕掛けた爆弾で、父は死んだ。
……今ここで、父と同じ苦しみを味わわせてやる」
ハンスは眉をひそめた。
「……オデッサの戦車隊か。……すまんな、いちいち顔は覚えていない。だが、それが戦争だ」
「貴様ァッ!!」
ヴァギーニャが激情に駆られ、トリガーに指をかける。
「待て!ここは中立地帯だ!発砲すれば国際条約違反になる!」
アキラが叫んで割って入ろうとする。
「黙れ、駒が!指揮官の邪魔をするな!」
【非情の砲火】
その時、さらに高位の命令が下された。
『……構わん、撃て』
サウザンド・アイズ艦長、ガリム大佐の冷酷な声が回線に割り込む。
『ネズミ一匹にこだわるな、ヴァギーニャ大尉。ドックごと焼き払え。……全砲門、開け』
ズガァァァン!!
サウザンド・アイズからの砲撃が、中立コロニーのドック外壁を直撃する。
爆風と真空の嵐が吹き荒れる中、ヴァギーニャは舌打ちをした。
「チッ……ガリムめ、私の獲物を横取りする気か!」
「……くそッ!連邦の上官ってのは、どいつもこいつもイカれてやがるのか!」
アキラは叫び、カツオの方へ機体を向けた。
「……コーチ!ここは一時休戦だ!死にたくなきゃ、俺のジムの後ろに乗れ!」
「アキラ少尉!何を勝手なことを!」
ヴァギーニャが怒鳴る。
「うるせえ!俺はアンタの駒じゃねえ!ホッジポッジ隊の突撃隊長だ!」
アキラは叫んだ。
「タカシ!退路を計算しろ!給料分は働けよ!」
「もう!僕の給料安いんですけどね!!」
タカシが叫びながら、ドックの緊急ハッチのロックを強制解除する。
復讐に燃える新隊長ヴァギーニャ。
かつての恩師を救おうとするアキラたち。
そして、オデッサの因縁に追いつかれたハンス。
崩壊するドックの中で、三つ巴の脱出劇が始まる。