ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
サイド6「リーア」外縁部、崩壊する浮遊ドック。
ガリム大佐の無差別砲撃により、ドックの天井が崩落し、真空の宇宙へと空気が吸い出されていく。
暴風とデブリが乱舞する中、二つの「ジム」が対峙していた。
【優等生vs 落ちこぼれ】
「どけッ!アキラ!貴様、上官に銃を向けてタダで済むと思っているのか!」
ヴァギーニャ大尉の怒号と共に、「ジム改(RGM-79C)」が加速する。
無駄のない、教科書通りの完璧な機動。
彼女はデブリを最小限の動作で回避し、標的であるハンスの元へ一直線に突き進む。
「……悪いな、新隊長!俺の
アキラ少尉の「ジム・コマンド宇宙戦仕様(RGM-79GS)」が、強引にその進路へ割り込む。
ヴァギーニャの精密射撃に対し
アキラはスラスターを全開にして「横滑り」しながらマシンガンを乱射する。
「野蛮な……!偏差射撃の計算もできていないのか!」
ヴァギーニャはシールドで弾き、ビーム・スプレーガンを構える。
「計算なんかタカシに任せてらぁ!俺は……食らいつく!」
アキラは、爆散するコンテナの煙を突っ切り、ゼロ距離まで肉薄した。
ジム改の高出力ジェネレーターによるパワーと
ジム・コマンドの高機動スラスターによるスピード。
同系統の機体でありながら、その戦い方は対照的だった。
【憎悪の論理】
ガギィィン!!
二機のビーム・サーベルが激突し、火花が散る。
鍔迫り合いの中、通信回線が接触する。
『……ハンス・シュタイナーは私の父を殺した!』
ヴァギーニャの悲痛な叫びが響く。
『父は立派な軍人だった!オデッサで、あの男の卑怯な罠にかかって死んだ!
……それを庇う貴様も同罪だ!』
アキラは、サーベルを押し返しながら叫び返した。
「……戦争だろ!殺し合いだろ!俺だって仲間をジオンに殺された!
……だけどな、カツオとあのオッサンは、俺たちに生き延びる術を教えてくれたんだ!」
アキラの脳裏に、雪山でのサバイバルや、カツオの心理学講義が過る。
「アンタの父さんは立派だったかもしれねえが
アンタは今、部下を捨て駒にしてるだけじゃねえか!
そんな奴に、俺たちの隊長は務まらねえ!」
「……へらず口を!
ヴァギーニャのジム改が、アキラの胴体を蹴り飛ばす。
体勢を崩したアキラに、必殺のビームが向けられる。
【昇進しなかった男のハッキング】
絶体絶命の瞬間。
ヴァギーニャのコックピットに、警告音が鳴り響いた。
『警告。火器管制システム(FCS)にエラー発生。照準固定不能』
「なっ!?故障か!?」
ヴァギーニャが焦る。
その頃、タカシの搭乗機、強行偵察型ジムでは
タカシ曹長が血走った目でキーボードを叩いていた。
「……させませんよ!ジム改のOSなんて、まだ新品で脆弱性だらけだ!
バックドア(裏口)くらい、僕が見つけられないとでも!?」
タカシは、二階級特進したアキラへの嫉妬を、すべてキー入力のタイプ速度に変えていた。
「僕の給料が上がらない分
システム負荷増大ウイルスでアンタの機体の動作効率を下げてやりますよ!
喰らえ、必殺『未払い残業代請求アタック』!!」
ヴァギーニャ機の動きが一瞬止まる。
「タカシ!お前、ネーミングセンス最悪だけど最高だぜ!」
FCSがフリーズした一瞬の隙を突き、アキラはスラスターを逆噴射。
ヴァギーニャの懐へ飛び込み、そのメインカメラにペイント弾を撃ち込んだ。
バシュッ!
ジム改の視界が、鮮やかなピンク色に染まる。
【逃走経路の確保】
「今だ!コーチ!行け!」
アキラが叫ぶ。
崩れ落ちるドックの隙間から、ビッグXの「ザクII・高機動【
カツオたちを乗せたボーン・ヤードが滑り出す。
「……すまない、アキラ、タカシ」
カツオは通信機越しに呟いた。
「お前たち、軍法会議にかけられることになるな……」
『へっ!始末書ならタカシが得意ですから!』
アキラが笑う。
『……もう、コーチったら!次会ったら、絶対に高い酒おごってくださいよ!』
タカシが泣き言を言う。
ボーン・ヤードは、デブリベルトの彼方へと消えていった。
「……逃がしたか」
メインカメラを洗浄し、視界を取り戻したヴァギーニャは、歯噛みした。
しかし、彼女はそれ以上追撃しなかった。
ガリム大佐の砲撃が激化し、これ以上留まれば自分たちも危険だったからだ。
「……覚えておけ、アキラ少尉。タカシ曹長」
ヴァギーニャは、氷のような声で告げた。
「この落とし前は、必ずつけさせる。……貴様らも、あの『穴熊』も、私が地獄へ送ってやる」
ドックが完全に崩壊する中
二つのジムは、それぞれの『正義』を抱えたまま、一時的に矛を収めた。