ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
旧サイド1「ザーン」~ソロモン(コンペイトウ)宙域間。
サイド6でのドック崩壊から数時間。
カツオたちの乗る特務艦「ボーン・ヤード」は、推進剤の残量が
彼らが逃げ込んだ先は、つい数日前、連邦とジオンの決戦が行われたばかりの激戦区――
宇宙要塞ソロモン、現在は連邦軍の拠点「コンペイトウ」周辺の広大なデブリ帯だった。
【偵察機のレンズ越し】
『……こちら「アイ・オブ・ザ・タイガー(自称)」
……じゃなかった、ホッジポッジ2(ツー)。感度良好です』
デブリの陰から、モノアイのような巨大なカメラアイを持つジムが顔を覗かせていた。
「RGM-79E 強行偵察型ジム」、タカシ曹長の搭乗機だ。
武装を廃し、高性能カメラガンとセンサーポッドを満載した、まさに『覗き見』専用の機体だ。
コックピットで、タカシ曹長は不満げにキーボードを叩いていた。
「まったく……。なんで僕がこんな『カメラ小僧』みたいな機体なんですか。
ビームの一発も撃てないじゃないですか」
『文句言うなよ、タカシ。お前の射撃センスじゃ、どうせ当たらねえだろ』
僚機のアキラ少尉(ジム・コマンド)が笑う。
「失敬な!僕の計算なら百発百中ですよ!……ただ、指が震えるだけで」
タカシはレンズの倍率を上げ、デブリ帯の奥をスキャンした。
「……しかし、これじゃあヴァギーニャ隊長をごまかすのも限界ですよ。
この機体のセンサー性能、ジム改の3倍はあるんですから。
『見えませんでした』は通用しません」
後方では、ヴァギーニャ大尉のジム改が、殺気立ってデブリを破壊しながら進んでいる。
『……報告はどうした、タカシ曹長。ネズミの痕跡はまだか』
「は、はい!
現在、ミノフスキー粒子濃度が高く、ゴースト(虚像)が多数発生しています!
……ああっ!またノイズだ!畜生、安物の量産機め!」
タカシは、完璧な演技で嘘のデータを送信しつつ
裏の回線でカツオたちのルートを「消去」していた。
【墓場のスカベンジャー】
一方、デブリ帯の深部。 「ボーン・ヤード」は
巨大なムサイ級の残骸に身を寄せ、エンジンを停止していた。
「……酷いもんだな」
ハンス・シュタイナー中尉が、窓の外に広がる光景を見て呟く。
そこには、無数のMSの残骸、ひしゃげた戦艦
そして凍りついた兵士たちの遺体が漂っていた。ソロモン攻略戦の爪痕だ。
「……ここなら、連邦のパトロールも『ゴミ』と区別がつかんだろう」
ハンスは、艦内放送を入れた。
「総員、
撃沈された戦艦から、残っている推進剤と酸素を抜き取る。
……死人から物を盗むのは気が引けるが、生きるためだ」
「……了解」
カツオは、暗い表情で頷き、作業用ランチに乗り込んだ。
ここ数日の連戦、そしてかつての部下たちとの対立。
精神的な疲労がピークに達していた。
【白い手袋の同窓生】
カツオが、大破したマゼラン級戦艦の燃料タンクに取り付こうとした時だった。
デブリの隙間から、一隻の小型艦艇が現れた。
武装を持たない、白塗りの連邦軍輸送船。
船体には「戦没者慰霊団」のマークが描かれている。
『……そこの作業艇。所属を明らかにせよ』
通信が入る。
威圧感はないが、規律正しい、凛とした声だった。
カツオは息を呑んだ。その声に聞き覚えがあったからだ。
(まさか……この声は……)
カツオは、あえて顔を隠さず、ビデオ回線を開いた。
「……こちら、民間サルベージ船所属、カツオ・イトウです。……久しぶりだな、レイモンド」
モニターの向こう。
連邦軍の制服を塵一つなく着こなし、白い手袋をはめた金髪の青年将校が、目を見開いた。
レイモンド・カイン少佐。
カツオの士官学校時代の同期であり、首席で卒業したエリート中のエリート。
「……イトウ?カツオ・イトウか?
なぜこんな所に……。貴様はオデッサで戦死したと公報で……」
「死に損ないさ」
カツオは自嘲気味に笑った。
「お前こそ、エリートコースの真ん中にいたはずが
なぜこんなゴミ溜めで『墓参り』の真似事を?」
「……言葉を慎め」
レイモンドは、白い手袋で襟を正した。
「私は、ソロモンで散った英霊たちを弔い、遺留品を回収する特別任務に就いている。
……ここは神聖な場所だ。貴様のような薄汚いハイエナが土足で踏み入っていい場所ではない」
レイモンドの言葉は、カツオの胸を鋭く抉った。
士官学校時代、共に理想を語り合った友。
だが今、彼は「正義」の側に立ち、カツオは「泥棒」としてここにいる。
【理想と現実の交差点】
「……ハイエナ、か。否定はしないよ」
カツオは、燃料パイプを握りしめた。
「だがな、レイモンド。死んだ英霊を弔うのも結構だが
生きている人間が明日を生きるために、この燃料が必要なんだ」
「貴様……まさか、脱走兵に落ちぶれたのか?」
レイモンドの目に、軽蔑の色が浮かぶ。
「恥を知れ。我々が命がけでジオンと戦っている間、貴様はコソ泥の真似事か。
……拘束する。私の船に乗れ」
レイモンドの輸送船から、警備用の「ボールK型」が数機、展開する。
「……悪いが、捕まるわけにはいかない」
カツオがランチを急発進させようとした瞬間。
『……警告!高エネルギー反応!』
タカシからの緊急暗号通信が、カツオの端末に届いた。
『コーチ!逃げて!ヴァギーニャ隊長が、そのエリアの「違和感」に勘づいた!
彼女のジム改が突っ込んでくる!』
「なに!?」
ズドォォン!!
デブリを吹き飛ばし、ヴァギーニャのジム改が強襲した。
彼女の目は、カツオでもハンスでもなく、レイモンドの「白い船」に向けられていた。
「……紛らわしい! 敵性反応かと思えば、慰霊団だと? ……邪魔だ、どけ!」
殺気立ったヴァギーニャは
あろうことか友軍であるはずの慰霊船の進路を塞ぐようにビーム・スプレーガンを放った。
「なっ!?貴様、友軍に向かって!」
レイモンドが狼狽する。
「戦場に『聖域』などない!敵(ハンス)を隠す障害物は、すべて排除する!」
ヴァギーニャの狂気が、エリートの「綺麗な戦争」を粉砕する。
「……レイモンド!伏せろ!」
カツオは、ランチをレイモンドの船の前に割り込ませた。
「カツオ・イトウ……!貴様、私を庇ったのか……!?」
泥にまみれた脱走兵が、白い手袋のエリートを守る。
皮肉な再会は、新たな混戦の幕開けとなった。