ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第76話 ファインダー越しの真実 (Truth Through the Viewfinder)

旧サイド1・ソロモン(コンペイトウ)周辺デブリ帯。

 

「邪魔だと言ったはずだ! その白い船ごと消えろ!」

 

ヴァギーニャ大尉の狂気は頂点に達していた。

 

彼女の「ジム改」は、射線上に立ち塞がるレイモンドの「戦没者慰霊船」に対し

 

威嚇ではなく本気のビーム射撃を行っていた。

 

「……ッ!左舷被弾!装甲溶解!」

 

白い輸送船のブリッジで、レイモンド・カイン少佐は愕然としていた。

 

「正気か……!?友軍識別信号が出ている非武装船だぞ!彼女は軍法会議が怖くないのか!」

 

その目の前で、古びた作業用ランチ(カツオ搭乗)が、必死に船体を晒して盾になっていた。

 

「……伏せろ、レイモンド!第二波が来るぞ!」

 

カツオの声が通信機から響く。

 

「泥棒」と蔑んだ男が自分を守り、「友軍」と信じた将校が自分を撃つ。

 

レイモンドの価値観が音を立てて崩れ始めていた。

 

 

【報道カメラマン・タカシ】

 

その混乱の戦場を、冷徹な「レンズ」が見つめていた。

 

「RGM-79E 強行偵察型ジム」がデブリの影に潜む。

 

タカシ曹長は、震える手でコンソールを操作していたが、その瞳はかつてないほど真剣だった。

 

「……僕には、ビーム・ライフルもサーベルもありません。でもね……」

 

タカシは、機体の肩部に装備された高性能カメラガンと

 

背部のセンサーポッドを最大稼働させた。

 

「この機体は『事実』を、誰よりも正確に撃ち抜ける!」

 

タカシの指がキーボードを叩く。

 

「レーザー通信回線、強制接続!

 ターゲット、レイモンド少佐の旗艦、およびコンペイトウ方面軍・憲兵隊本部!」

 

キーボードを打つ指が熱を帯びる。

 

「シャッターチャンスだ、ヴァギーニャ隊長。

 ……あなたの『復讐』を、連邦軍の『公式記録』にしてあげますよ!」

 

 

【ハッキングされたブリッジ】

 

レイモンドの船のメインモニターが

 

突如としてノイズに覆われ、次々と鮮明な静止画と解析データが表示された。

 

 

画像1: 慰霊船の連邦軍マークに照準を合わせるジム改のFCSログ。

 

画像2: ヴァギーニャの音声波紋データ。

   『敵を隠す障害物は、すべて排除する!』という暴言の解析。

 

画像3: カツオの作業ランチが、身を挺してビームを防いでいる瞬間の超望遠映像。

 

 

『……聞こえますか、レイモンド少佐』

 

タカシの声が、割り込み通信で響く。

 

『これは現在進行系の「証拠」です。

 このデータは、今まさにコンペイトウの憲兵司令部へリアルタイム転送されています。

 ……パケット遅延はゼロ。取り消しは不可能です』

 

レイモンドは息を呑んだ。

 

「……貴様は、イトウの部下か」

 

『ええ、元部下ですが。万年曹長のタカシです。

 ……少佐、あなたがそこで死ねば「名誉の戦死」ですが

 ヴァギーニャ隊長は「友軍誤射」の罪で極刑。

 ……でも、あなたが生き残って証言すれば、彼女は「殺人未遂」の狂人として裁かれる。

 ……どちらが「連邦の正義」ですか?』

 

 

【止まった砲火】

 

ヴァギーニャのジム改のコクピットにも、警告アラートが鳴り響いた。

 

『警告:憲兵隊本部より緊急入電。全武装の即時ロックダウンを通告』

 

「な……何だと!?誰が通報した!?」

 

ヴァギーニャが周囲を見回す。

 

デブリの隙間で、カメラのレンズを光らせる偵察型ジムの姿があった。

 

「タカシ……!貴様、裏切ったな!」

 

「裏切ってませんよ。僕は『軍の規律』を守っただけです。

……ねえ、隊長? 感情で動くのは合理的じゃないって、いつも言ってたじゃないですか」

 

ヴァギーニャは唇を噛み切り、悔しさに拳を叩きつけた。

 

これ以上の戦闘行為は、即座に自身の破滅を意味する。

 

ジム改は、銃口を下ろさざるを得なかった。

 

 

【汚れた手袋と燃料タンク】

 

静寂が戻ったデブリ帯。

 

レイモンドは、モニターに映るカツオのランチを見つめた。

 

薄汚れた機体。

 

だが、その行動は、士官学校で教わった「騎士道」そのものだった。

 

レイモンドは、身につけていた純白の手袋をゆっくりと外した。

 

それは、彼が「汚れ仕事」から目を背け

 

安全な場所から戦争を見ていた象徴だったのかもしれません。

 

「……全艦、武器を収めろ」

 

レイモンドが静かに命じた。

 

「少佐!ですが、目の前には脱走兵が!」

 

部下が抗議する。

 

「……私の目には、漂流者の救助活動を行っていた民間船しか映っていない」

 

レイモンドは、素手でマイクを握りしめた。

 

『……カツオ・イトウ。聞こえるか』

 

「ああ、聞こえているよ」

 

『……貴様の船は、戦闘の余波で推進剤タンクを損傷したようだな。

 ……廃棄予定の液体水素タンクを2基、この空域に[投棄]する。

 ……ゴミだからな。誰が拾おうと私の知ったことではない』

 

それは、かつての同期生への、精一杯の「譲歩」であり、無言の「詫び」だった。

 

カツオは、モニター越しにレイモンドの顔を見た。

 

その手には、もう白い手袋はなかった。

 

「……感謝する。あの頃と同じで、お前は融通の利かない優等生だよ」

 

『……行け。次に会う時は、軍法会議の法廷だ。その時は、私が検事として貴様を裁く』

 

「お手柔らかに頼むよ」

 

ボーン・ヤードは、レイモンドが放出した燃料タンクを回収し

 

デブリ帯の奥へと消えていった。

 

ヴァギーニャのジム改は、悔し紛れにデブリを蹴り飛ばしながら撤退していく。

 

タカシの偵察型ジムもまた、レンズを一瞬だけカツオの方へ向け

 

小さく翼を振るような動作をしてから、艦隊へ戻っていった。

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