ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

79 / 92
第78話 墓場での怪談 (Ghost Stories of the Graveyard)

暗礁宙域「シップ・グレイブヤード」中心部、居住ブロック「ネスト」

 

ボーン・ヤードは、まるで自宅の車庫に戻ってきたかのように

 

巨大な戦艦の残骸を利用したドックへと滑り込んだ。

 

ここは、ジオンの敗残兵や脱走兵

 

行き場を失った者たちが寄り添う「吹き溜まり」の中心地だ。

 

 

【墓場の主との再会】

 

「よう、生きて戻ってきたか、カツオ。それにハンスたちも」

 

出迎えたのは、この墓場を取り仕切るリーダー、ハヤブサだった。

 

「久しぶりだな、ハヤブサ。……少し痩せたか?」

 

カツオが握手を求める。

 

「物資不足でな。ソロモン戦の影響で、ここへ流れ着く『死体(スクラップ)』は増えたが

 それを狙う連邦のパトロールもうるさくなった」

 

ハヤブサは苦笑し、彼らを居住区の奥にある「酒場」へと招いた。

 

元ムサイ級のブリッジを改装した談話室だった。

 

「ま、積もる話もあるが……まずは一杯やろう。合成酒だがな」

 

 

【霧の中の亡霊】

 

酒場のテーブルには、カツオ、ハンス、ビッグX、シャリア・ブル

 

そしてハヤブサが車座になっていた。

 

薄暗い照明の中、ハヤブサが声を潜める。

 

「……で、だ。お前さんたちが戻ってくる少し前から、妙な噂が流れていてな」

 

「噂?」

 

ハンスが眉をひそめる。

 

「ああ。このデブリ帯特有の濃いミノフスキー粒子の霧

 ……その深奥に、『黒い亡霊』が出るらしい」

 

ハヤブサは、手元の端末をテーブルに置いた。

 

そこには、ノイズまみれの不鮮明な画像が表示されていた。

 

霧の中に、連邦系MSのシルエットが浮かんでいるが

 

その姿はどこか歪で、詳細が判然としない。

 

「目撃した奴の話じゃ、スラスターの光が見えないのに、恐ろしい速度で移動していたそうだ。

 ……一瞬で背後を取られ、気づいた時には仲間が『喰われて』いた、とな」

 

「喰われた?」

 

ビッグXが身を乗り出す。

 

「オバケかよ!」

 

「ああ。機体の残骸だけ残して

 パイロットと『戦闘データ』だけが綺麗に抜き取られていたそうだ」

 

 

【専門家たちの考察会】

 

ここから、カツオたちの【考察】が始まった。

 

「……スラスターの光が見えない、か」

 

ハンスが画像を拡大し、顎を撫でた。

 

「オカルトじゃない。『排熱抑制塗装(ステルス・コーティング)』だ。それも、相当高度なやつだ。

 推進剤の噴射炎を極限まで絞り、デブリの温度に同化させている」

 

「パイロットとデータを奪う、という点はどうだ?」

 

カツオがハヤブサに尋ねる。

 

「襲われたのは、ジオンの熟練兵ばかりだ。

 ……まるで、強い奴を選んで狩り、その技を『学習』しているような」

 

カツオの脳裏に、雪山での記憶が蘇る。

 

「……HADES(ハデス)かもしれない。あのシステムは、常に『学習』を求めていた。

 ……もし、その『黒い機体』が、HADESの完成形、あるいは派生機だとしたら?」

 

「強いパイロットのデータを喰らって、自己進化しているというのか?」

 

ハンスが嫌悪感を露わにする。

 

「……悪趣味な怪物だ」

 

 

【老兵の直感】

 

その時、今まで黙って話を聞いていたシャリア・ブルが、静かに口を開いた。

 

「……いや。……少し違うな」

 

全員の視線が、スープを飲んで復活した老ニュータイプに集まる。

 

「……その『黒い影』からは、何も聞こえない。

 ……かつてのHADESからは『殺意』や『悲鳴』のようなノイズが聞こえたが

 ……こいつは、『無』だ」

 

シャリアは、うすら寒さを感じるように腕をさすった。

 

「魂がない。人の気配がしない。……まるで、空っぽの鎧が、プログラムされた命令に従って

 ただ淡々と『掃除』をしているようだ」

 

「……無人機(AI)、ということか?」

 

カツオがポツリと呟いた。

 

「人が乗っていないから、限界を超えたGを出せる。……だが、そんなものがなぜこの墓場を?」

 

ハヤブサが重々しく頷く。

 

「分からん。だが、奴は確実に『何か』を探して、この墓場を徘徊している。

 ……あるいは、誰かが奴を『テスト』しているのかもしれん」

 

その時、酒場の警報がけたたましく鳴り響いた。

 

『敵襲!敵襲!第4ゲート付近、哨戒班が消息不明!

 ……速い! 何かが突っ込んでくるぞ!!』

 

モニターに映し出されたのは、濃霧を切り裂いて疾走する、漆黒の機体。

 

ジム系のようなバイザーを持ちながら

 

全身に増加装甲を纏い、巨大なヒート・ランスを構えた異形のMS。

 

「……噂をすれば、なんとやらだ」

 

ハンスが立ち上がり、ジャケットを羽織った。

 

「出るぞ、野郎ども!亡霊退治(ゴーストスイーパー)の時間だ!」

 

ビッグXが号令をかける。

 

墓場の怪談は、現実の脅威となって彼らの目の前に現れた。

 

だが彼らはまだ知らない。

 

その「黒い機体」こそが、グリム少佐率いる「デュラハン隊」が血眼になって探し求めていた

 

失われた環(ミッシング・リンク)であることを。




今年は読者の皆さまに大変お世話になりました。
温かい応援やコメントを本当にありがとうございました!
来年も自分らしく、ワクワクするような作品を書き続けていきたいと思っています。
年末年始はゆっくりと心穏やかにお過ごしください。
良いお年を!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。