ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第7話 掃討戦域 E-2 (Mop-Up Zone E-2)

宇宙世紀0079年11月。

 

オデッサの勝利に沸いた熱狂は、急速に冷え込み始めていた。

 

広大な占領地に散ったジオン残党の掃討は、泥沼の様相を呈し始めていた。

 

【連邦側(ホッジポッジ隊)】

 

「……ここが、E-2エリア……」

 

“紅一点”リツコ伍長が

 

輸送列車から降り立った管制トレーラーの窓から見える荒涼とした風景に、息をのむ。

 

第7補給基地のような、整備された施設はどこにもない。

 

そこは、焦げた大地に仮設テントと弾薬箱が雑然と積まれた

 

泥と油にまみれた最前線キャンプだった。

 

負傷兵を乗せた担架が、怒号と共にカツオたちの横を通り過ぎていく。

 

「へっ、ゴミ捨て場(第7基地)から、今度は本物のスクラップ工場送りかよ」

 

“大食い”アキラ伍長が、自分の寄せ集めジムを見ながら吐き捨てる。

 

ワセンに一泡吹かせたつもりだった高揚感は、目の前の現実に急速にしぼんでいった。

 

『少尉、ここのローカルネットに接続。……酷い』

 

“メガネ”タカシ軍曹が、青い顔でデータを転送してくる。

 

『当エリアにおける新規配属部隊の48時間以内での損耗率、45%。これは……データ収集じゃありません。ただの消耗品扱いです』

 

カツオ・イトウ少尉は、部下たちの間に広がる「学習性無力感(負け犬根性)」が再発しかけているのを感じ取った。

 

「顔を上げろ。俺たちは、あのハンス中尉の部隊と互角に渡り合った。ここは『処分場』じゃない。俺たちの実力を、上層部に直接見せつける『舞台』だ」

 

カツオが部下を鼓舞していると、一人の疲弊しきった士官が近づいてきた。

 

「……お前らが、ワセンのところの『寄せ集め(ホッジポッジ)』か」

 

E-2エリアの責任者、バリス大尉だった。

 

その目は、睡眠不足と諦観で濁っていた。

 

「第217補給大隊、護衛MS小隊、通称『ホッジポッジ隊』、ただ今着任しま……」

 

「結構だ」

 

バリスはカツオの言葉を遮った。

 

「ここでは部隊名なんざ意味は無い。どうせすぐに欠番になる」

 

バリスは、遠くの廃墟を指さした。

 

「いいか、イトウ少尉。お前らが追っていた『穴熊』みたいなインテリ工兵は、もうここにはいない。奴らは賢いから、とっくに逃げた」

 

彼は続けた。

 

「ここに残ってるのは、文字通りの『残党』だ。本国に見捨てられ、逃げ場も食料もなく、ただ死に場所を探してる連中だ。……だが、一番厄介なのは、その『どうせ死ぬなら』という狂気だ」

 

 

 

【ジオン側(穴熊部隊)】

 

その頃、E-2エリアから遥か離れた地下深く。

 

地上の連邦軍が「狂気」の掃討に追われている間

 

「穴熊部隊」は地下で「素手」による掘削を続けていた。

 

だが、ハンスの目論見に反し

 

風化しやすい砂岩層を抜けた先は、予期せぬ強固な「硬い岩盤」だった。

 

ザクタンクの通常マニピュレーターが火花を散らし、旧ザクの動力炉が悲鳴を上げる。

 

エネルギーだけが空しく消費されていき、掘削作業は遅々として進まなかった。

 

『中尉! 酸素残量が危険域です!』

 

“教授”ビタム曹長が、限界の近い声で報告する。

 

ハンスは、ザクタンクのコックピットで、歯噛みしていた。

 

(……ここまでか。あの『コーチ』の顔を、もう一度拝むこともできずに……)

 

彼らは、出口の見えない絶望的な作業に

 

肉体と精神のすべてをすり減らしていた。

 

 

 

E-2エリア、午後。

 

ホッジポッジ隊は、着任早々、最初の「掃討パトロール」を命じられた。

 

『……センサー感度、良好。敵影なし』

 

リツコが報告する。

 

「コーチ、なんか静かすぎて気味悪いぜ。腹も減ったし……」

 

アキラが文句を言いかけた、その瞬間だった。

 

 

ドゴォォン!!

 

 

アキラ機の足元で爆発が起こった。旧式の地雷だ。

 

『少尉! 伏兵です! 廃ビルの3時方向! 熱源多数!』

 

「待ち伏せか!」

 

カツオがビーム・サーベルを起動させる。

 

だが、現れた敵は、ハンスたちの時とはまるで違っていた。

 

 

「「ジーク・ジオン!!」」

 

 

ヒート・ホークを振りかざし、明らかに整備不良のザクIIが二機

 

そしてマゼラ・アタックが三台、遮蔽物も使わずに真正面から突撃してきた。

 

その動きには、ハンスたちのような洗練された戦術も、ビッグXのような技量もない。

 

ただ、死を恐れない者特有の、狂気的な突進力だけがあった。

 

「うわっ! こいつら、速え!」

 

アキラの陸戦型ジムが、マゼラ・アタックの砲撃をシールドで受ける。

 

「コーチ! こいつら、ハンスのジジイたちと違って、こっちの動きを全然見てねえ!

ただ突っ込んでくる!」

 

(これが、バリス大尉の言っていた『狂気』か……!)

 

カツオは、心理学の知識では測れない、純粋な暴力に一瞬圧された。

 

敵のザクの一機が、アキラの陸戦型ジムに組み付いた。

 

「どけよ、クソが!」

 

アキラが振り払おうとするが、敵は自爆も厭わない様子でしがみついてくる。

 

「アキラ! 敵の左腕を狙え! 動きが鈍い!」

 

『タカシのAIが弾き出した弱点です! 整備不良箇所!』

 

カツオは即座に援護射撃に移る。

 

だが、もう一機のザクIIがカツオの前に立ちはだかった。

 

(まずい、連携が取れていない!)

 

敵はただ、目の前の敵を殺すことしか考えていない。

 

ハンスたちとの戦いで培った『相手の戦術を読む』というカツオの戦法が、通用しない。

 

「アキラ! しがみつかれたまま、廃ビルまで後退しろ! 俺がこいつをやる!」

 

カツオは、心理戦を捨て、純粋なMSの格闘戦を選択した。

 

(相手が狂気なら、こっちは『意地』だ!)

 

カツオの寄せ集めジムが

 

死に場所を求めるザクIIに、ビームサーベルを突き立てた。

 

 

激しい戦闘は、ホッジポッジ隊の辛勝で終わった。

 

アキラ機は左腕を中破。カツオ機も満身創痍だった。

 

「……ハァ……ハァ……なんて奴らだ」

 

アキラが、組み付いてきたザクのコックピットを

 

半ば八つ当たりのようにこじ開けた。

 

そして、絶句した。

 

「……コーチ。こいつ……」

 

コックピットの中にいたパイロットは

 

まだ髭も生えそろわない、16歳ほどの少年兵だった。

 

その目は、恐怖とも興奮ともつかない、異様な光を宿したまま事切れていた。

 

「これが……【掃討戦】……」

 

カツオは、自分のビームサーベルの先端から溶け落ちる敵機の装甲を見つめた。

 

ハンスという「プロの軍人」を追い詰めたという

 

かすかな自負は、この日の現実によって無慈悲に打ち砕かれた。

 

彼らが送り込まれた「最下層」は

 

戦術や心理学が通用するほど、生易しい場所ではなかった。

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