ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第80話 冷たい女神と、熱い馬鹿たち (The Cold Goddess and the Hot-Rod Fools)

暗礁宙域「シップ・グレイブヤード」内部、特務艦ボーン・ヤード

 

グリム少佐率いるデュラハン隊が去った後の宙域には、重苦しい沈黙が漂っていた。

 

カツオたちは、鹵獲された「ペイルライダー・デュラハン」を取り戻すどころか

 

手も足も出ずに圧倒された敗北感に打ちのめされていた。

 

 

【感情の制御システム】

 

ボーン・ヤードの作戦室。

 

ハンス・シュタイナーが、グリムの残した通信ログと

 

過去のジオン軍技術局の断片データ(ハヤブサが入手したもの)を照らし合わせていた。

 

「……これだ。グリムが口にした『Ceres(ケレス)』の正体は」

 

モニターに表示されたのは、無機質なフローチャートと、ギリシャ文字の羅列だった。

 

『C.E.R.E.S.(Combat Emotion Regulation & Execution System)』

(戦闘感情制御・実行システム)

 

「……Regulation(調整)だと?」

 

カツオが眉をひそめる。

 

「感情を消すんじゃないのか?」

 

「ああ。HADESのように脳を強制的にハッキングして暴走させるシステムじゃない」

 

ハンスが説明を続ける。

 

「パイロットの恐怖、躊躇、焦り……

 そういった『ノイズとなる感情』を薬物投与や電気刺激ではなく

 OSレベルでリアルタイムに『調整・抑制』する」

 

「……つまり?」

 

「例えば、『怖い』と感じて足がすくむ瞬間に、システムがその電気信号をカットし

 『回避行動』という最適解だけを脳に実行(Execution)させる。

 ……パイロットは、自分の意志で動いていると錯覚したまま

 機械にとって都合の良い『冷酷な部品』にされるんだ」

 

シャリア・ブルが、深く息を吐いた。

 

「……HADESが燃え盛る『火』なら、Ceresは全てを凍らせる『氷』か。

 ……どちらにせよ、人間を辞めさせることに変わりはない」

 

 

【予期せぬ通信】

 

その時。艦内奥深くにある通信室の警報がけたたましく鳴り響いた。

 

『緊急入電!暗号化されていますが……これは連邦軍の正規回線です!』

 

"教授"ビタム曹長が報告する。

 

「連邦?レイモンドか?」

 

カツオが身構える。位置が特定されれば、再び追われることになる。

 

「……いや、このクセのある暗号化コードは……」

 

ハンスがキーボードを叩く。

 

「タカシの奴だ。お粗末だが解読不可能な特製コードだ」

 

モニターが開く。

 

そこに映ったのは、少し疲れた顔のアキラ少尉と

 

その後ろでスナック菓子を食べているタカシ曹長、そして呆れ顔のリツコ曹長だった。

 

 

【ホッジポッジ隊の決断】

 

『……よう、コーチ。生きてるか?』

 

アキラが、気まずそうに手を振る。

 

「アキラ……!お前たち、無事だったのか」

 

カツオの表情が緩む。

 

「ヴァギーニャ隊長に撃たれたんじゃないかと心配したぞ」

 

『ああ、あの後ひと悶着あったけどな。タカシが憲兵隊に通報したおかげで

 隊長の査問会騒ぎになって、俺たちは一時的にフリーになったんだ』

 

アキラが苦笑する。

 

『……で、本題です』

 

タカシが端末を操作し、地図データを送信してきた。

 

『僕の偵察型ジムが拾ったデータです。

 ……グリム少佐の艦隊、この宙域のすぐ外にある廃棄コロニー

 「アイランド・イーズ」の残骸に入っていきましたよ』

 

「アイランド・イーズだと?」

 

『ええ。あそこなら設備も生きている。

 ……恐らく、鹵獲した黒い機体(デュラハン)の改修作業を行うつもりでしょう』

 

リツコが補足する。

 

「……なぜ、俺たちに教える?」

 

カツオが問う。

 

「お前たちは連邦軍だ。俺たちを捕まえるのが任務だろう」

 

アキラが、真剣な眼差しで画面を見据えた。

 

『……気に入らねえからさ』

 

アキラは拳を握った。

 

『ヴァギーニャ隊長も、グリムって野郎も。

 ……どいつもこいつも、人間を「駒」だの「部品」だのと呼びやがる。

 ……俺は馬鹿だが、そういうのは大っ嫌いだ』

 

『カツオ隊長……いや、カツオさん』

 

タカシがスナック菓子を置いた。

 

『あの「Ceres」とかいうシステム……僕のAI予測だと、完成したら手がつけられなくなります。

 HADESより厄介な「冷静な殺戮マシーン」になる。

 ……それを止めるのは、僕たちじゃ無理だ。

 アンタたち「アンダー・ドッグス」しかいない』

 

 

【共同戦線】

 

「……ふっ」

 

カツオは笑った。かつての教え子たちが

 

自分と同じ『熱い馬鹿』に育ってくれたことが誇らしかった。

 

「分かった。情報はありがたく貰う。……だが、これでお前たちは完全に共犯者だぞ?」

 

『今更だろ?』

 

アキラがニヤリと笑う。

 

『こっちは補給物資の横流しデータも改竄しておいた。

 ……弾薬とエネルギーパック、指定の座標に捨てておくから、勝手に拾っていってくれ』

 

『……これ、始末書じゃ済まないなぁ』

 

タカシが嘆く。

 

『覚悟を決めなさい、万年曹長』

 

リツコがたしなめる。

 

通信が切れた。

 

カツオは振り返り、クルーたちを見渡した。

 

「聞いたな?グリムの潜伏先は割れた。

 ……奴がCeresを完成させ、デュラハンを起動させる前に叩く!」

 

「おうよ!やられた借りは返すぜ!」 ビッグXが立ち上がる。

 

「……あの『冷たい女神(ケレス)』に、人間の熱さを教えてやろうじゃないか」

 

ハンスがニヤリと笑い、シャリア・ブルも静かに頷いた。

 

「総員、戦闘配置!ボーン・ヤード、発進!」

 

カツオたちの反撃が始まる。

 

目指すは廃棄コロニー「アイランド・イーズ」である。

 

そこで待つのは、最強のシステムを得て生まれ変わろうとする「黒い騎士」だ。

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