ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
暗礁宙域「シップ・グレイブヤード」最深部、ハヤブサのアジト
ハヤブサに案内されたのは、墓場のさらに奥
通常のサルベージ業者すら近寄らない高濃度デブリ地帯だった。
そこに、厳重に封印された一つのコンテナが浮遊していた。
ジオン公国の紋章が刻印されているが、塗装は剥げ落ち、長い漂流の時を感じさせる。
【
「……こいつだ」
ハヤブサが作業用ポッドのアームでコンテナを指し示す。
「ソロモン要塞が落ちた時の混乱で、ここまで流れてきたらしい。……開けるぞ」
コンテナのハッチが、重々しい音を立てて強制開放される。
プシューッ……という気密解除の霧の中から現れたのは
MSの全長ほどもある
重く
分厚く
曲大な
『鉄塊』だった。
「……なんだ、これは?」
ボーン・ヤードのモニター越しに見ていたハンスが、目を丸くする。
「ヒート・ホークじゃない。……ヒート剣ですらない。
発熱回路も、エネルギー供給パイプもない……ただの『金属の板』か?」
「いいや、違うな」
カツオは、ストライカー・カスタムのセンサーを最大倍率にして、その物体を見つめた。
反りの入った美しい曲線。
それは、まぎれもなく『日本刀』の形状をしていた。
「……データログに残っていた記録によれば
こいつはドズル・ザビ閣下が極秘に造らせていた『専用兵装』らしい」
ハヤブサが解説する。
「ドズル・ザビだと?」
「おい、ドズル・ザビ『閣下』な?
『ビームなど、女子供の遊び道具だ。男なら、叩き斬る感触が必要だ』……とな。
己が乗る専用機のために鍛えさせたが、完成する前にソロモンは落ち
ドズル閣下は死んだ。……主を失った名刀ってわけだ」
【
カツオは、ストライカー・カスタムのマニピュレーターを伸ばし、その刀を掴んだ。
ズシリ……
機体の姿勢制御バーニアが、予想外の重量に反応して激しく噴射する。
「……重い。なんだこの密度は?」
「高密度複合合金の塊だ」
ハンスが解析データを読み上げる。
「表面硬化処理がされているが、中身までギッシリ詰まっている。
……こいつで殴れば、ルナ・チタニウムだろうがへし折れるぞ。
だが、こんな重い物を扱えるMSなんて……」
「……ここに、ある」
カツオは、ゆっくりと刀を構えた。
ジム・ストライカー・カスタムの強化されたフレームと、大出力スラスター。
この機体の過剰なまでのパワーとトルクが
この「重すぎる刀」を振り回すための必然だったかのように釣り合う。
刀身の根本、
『
「紫電……。それがお前の名前か」
【試し斬り】
「……試してみるか、カツオ」
ハヤブサが、廃棄予定のムサイ級の装甲ブロックをデブリの中に放出した。
厚さ数メートルはある、分厚い装甲板だ。
「……ああ」
カツオは、ストライカー・カスタムのスラスターを吹かした。
ビーム・サーベルのような「ブゥン」という待機音はない。
光もしない。
宇宙の闇に、冷たい刃が溶け込んでいる。
「……ここだ!」
カツオは、機体の加速と、腰の回転、そして腕の振りを完全に同調させた。
CERESのような計算ではない。
呼吸と、間合い。
一閃。
音もなく、ストライカー・カスタムが装甲板とすれ違う。
数秒の静寂の後。
巨大なムサイの装甲板が、真っ二つに裂けて漂い始めた。
「……切断、じゃない」
ビッグXが震える声で呟く。
「叩き斬った……!溶けた跡がねえ!」
断面は、熱で溶解したものではなく
圧倒的な質量と速度によって「物理的に断ち切られた」荒々しいものだった。
【魂の重さ】
コックピットの中で、カツオは掌に残るジンジンとした痺れを感じていた。
「……これだ」
カツオは確信した。
ビーム・サーベルは「触れれば斬れる」。
だからこそ、フェンシングのような軽快な動きになる。
だが、この「紫電」は違う。
「当てる」のではない。
「斬る」という明確な意志と、体重移動がなければ、ただの鉄屑だ。
「……こいつには、
カツオは、刀を払い、ストライカー・カスタムの背部ラッチにマウントした。
「……皮肉なもんだな」
ハヤブサが笑う。
「ジオンのドズル閣下が遺した刀を、連邦の脱走兵が使い、ジオンの
「……道具に罪はないさ」
カツオは静かに答えた。
「それに、この『時代遅れ』な無骨さは、俺たち『アンダー・ドッグス』にお似合いだ」
ハンスが、ボーン・ヤードから通信を入れる。
「……準備は整ったな、カツオ。
グリム少佐のいる『アイランド・イーズ』への突入ルート、解析完了だ」
「ああ、行こう。……ケレスとかいう冷たい女神に、この『熱い鉄』をぶち込んでやる」
ストライカー・カスタム。
その背中には、鈍く光る実体剣「紫電」。
かつてない異形の連邦機が、決戦の地へと発進する。