ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第82話 名刀、墓場に眠る (A Masterpiece Sleeping in the Graveyard)

暗礁宙域「シップ・グレイブヤード」最深部、ハヤブサのアジト

 

ハヤブサに案内されたのは、墓場のさらに奥

 

通常のサルベージ業者すら近寄らない高濃度デブリ地帯だった。

 

そこに、厳重に封印された一つのコンテナが浮遊していた。

 

ジオン公国の紋章が刻印されているが、塗装は剥げ落ち、長い漂流の時を感じさせる。

 

 

(おとこ)の遺産】

 

「……こいつだ」

 

ハヤブサが作業用ポッドのアームでコンテナを指し示す。

 

「ソロモン要塞が落ちた時の混乱で、ここまで流れてきたらしい。……開けるぞ」

 

コンテナのハッチが、重々しい音を立てて強制開放される。

 

プシューッ……という気密解除の霧の中から現れたのは

 

MSの全長ほどもある

 

重く

 

分厚く

 

曲大な

 

『鉄塊』だった。

 

「……なんだ、これは?」

 

ボーン・ヤードのモニター越しに見ていたハンスが、目を丸くする。

 

「ヒート・ホークじゃない。……ヒート剣ですらない。

 発熱回路も、エネルギー供給パイプもない……ただの『金属の板』か?」

 

「いいや、違うな」

 

カツオは、ストライカー・カスタムのセンサーを最大倍率にして、その物体を見つめた。

 

反りの入った美しい曲線。

 

(しのぎ)の立った鋭利な刃先。

 

それは、まぎれもなく『日本刀』の形状をしていた。

 

「……データログに残っていた記録によれば

 こいつはドズル・ザビ閣下が極秘に造らせていた『専用兵装』らしい」

 

ハヤブサが解説する。

 

「ドズル・ザビだと?」

 

「おい、ドズル・ザビ『閣下』な?

 『ビームなど、女子供の遊び道具だ。男なら、叩き斬る感触が必要だ』……とな。

 己が乗る専用機のために鍛えさせたが、完成する前にソロモンは落ち

 ドズル閣下は死んだ。……主を失った名刀ってわけだ」

 

 

紫電(しでん)

 

カツオは、ストライカー・カスタムのマニピュレーターを伸ばし、その刀を掴んだ。

 

ズシリ……

 

機体の姿勢制御バーニアが、予想外の重量に反応して激しく噴射する。

 

「……重い。なんだこの密度は?」

 

「高密度複合合金の塊だ」

 

ハンスが解析データを読み上げる。

 

「表面硬化処理がされているが、中身までギッシリ詰まっている。

 ……こいつで殴れば、ルナ・チタニウムだろうがへし折れるぞ。

 だが、こんな重い物を扱えるMSなんて……」

 

「……ここに、ある」

 

カツオは、ゆっくりと刀を構えた。

 

ジム・ストライカー・カスタムの強化されたフレームと、大出力スラスター。

 

この機体の過剰なまでのパワーとトルクが

 

この「重すぎる刀」を振り回すための必然だったかのように釣り合う。

 

刀身の根本、(なかご)にあたる部分に、かすれた文字が刻まれていた。

 

紫電(しでん)』と。

 

「紫電……。それがお前の名前か」

 

 

【試し斬り】

 

「……試してみるか、カツオ」

 

ハヤブサが、廃棄予定のムサイ級の装甲ブロックをデブリの中に放出した。

 

厚さ数メートルはある、分厚い装甲板だ。

 

「……ああ」

 

カツオは、ストライカー・カスタムのスラスターを吹かした。

 

ビーム・サーベルのような「ブゥン」という待機音はない。

 

光もしない。

 

宇宙の闇に、冷たい刃が溶け込んでいる。

 

「……ここだ!」

 

カツオは、機体の加速と、腰の回転、そして腕の振りを完全に同調させた。

 

CERESのような計算ではない。

 

呼吸と、間合い。

 

一閃。

 

音もなく、ストライカー・カスタムが装甲板とすれ違う。

 

数秒の静寂の後。

 

巨大なムサイの装甲板が、真っ二つに裂けて漂い始めた。

 

「……切断、じゃない」

 

ビッグXが震える声で呟く。

 

「叩き斬った……!溶けた跡がねえ!」

 

断面は、熱で溶解したものではなく

 

圧倒的な質量と速度によって「物理的に断ち切られた」荒々しいものだった。

 

 

【魂の重さ】

 

コックピットの中で、カツオは掌に残るジンジンとした痺れを感じていた。

 

「……これだ」

 

カツオは確信した。

 

ビーム・サーベルは「触れれば斬れる」。

 

だからこそ、フェンシングのような軽快な動きになる。

 

だが、この「紫電」は違う。

 

「当てる」のではない。

 

「斬る」という明確な意志と、体重移動がなければ、ただの鉄屑だ。

 

「……こいつには、質量(おもさ)がある。命のやり取りをする、恐怖の重さだ」

 

カツオは、刀を払い、ストライカー・カスタムの背部ラッチにマウントした。

 

「……皮肉なもんだな」

 

ハヤブサが笑う。

 

「ジオンのドズル閣下が遺した刀を、連邦の脱走兵が使い、ジオンの亡霊(デュラハン)を斬りに行くとは」

 

「……道具に罪はないさ」

 

カツオは静かに答えた。

 

「それに、この『時代遅れ』な無骨さは、俺たち『アンダー・ドッグス』にお似合いだ」

 

ハンスが、ボーン・ヤードから通信を入れる。

 

「……準備は整ったな、カツオ。

 グリム少佐のいる『アイランド・イーズ』への突入ルート、解析完了だ」

 

「ああ、行こう。……ケレスとかいう冷たい女神に、この『熱い鉄』をぶち込んでやる」

 

ストライカー・カスタム。

 

その背中には、鈍く光る実体剣「紫電」。

 

かつてない異形の連邦機が、決戦の地へと発進する。

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