ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
廃棄コロニー「アイランド・イーズ」内部・崩壊都市エリア
「警告。……敵機、挙動予測不能。……回避推奨。……回避推奨」
ペイルライダー・デュラハンのコクピットで
だが、グリム少佐はそれを無視し、アクセルペダルを踏み抜いた。
「ええい、黙れ!奴は目の前にいる!私の腕で押し切れる!」
デュラハンのスラスターが咆哮する。
グリムはシステムの「安全マージン」を自ら破棄し、巨大なヒート・ランスを突き出した。
狙うは一点。
ストライカー・カスタムの
【最適解の罠】
カツオ・イトウは、その切っ先が迫るのを、スローモーションのように見ていた。
(……速い。まともに避ければ、追撃で狩られる)
カツオが「右に避ける」か「左に避ける」か
その後の体勢の崩れまで全て計算し、次の一手を準備している。
「無傷で勝とう」とすれば、カツオに勝ち目はない。
(……なら、計算の外へ行くしかないな)
カツオは、操縦桿を強く握りしめた。
カツオはスラスターを逆噴射させた。
それは「回避」ではない。 あえて自分から、動きを止める「制動」だった。
【突き刺さる熱】
「……止まった!?自殺行為か!」
グリムが叫ぶ。
デュラハンのランスにとって、静止した標的などただの的だ。
吸い込まれるように、赤熱した穂先がジム・ストライカーの左胸へと突き刺さる。
ドォォォォン!!
衝撃がカツオを襲う。
ウェラブル・アーマー(増加装甲)が瞬時に融解し
装甲の下にあるフレームが悲鳴を上げ、コクピット内部に火花が爆ぜる。
『警告!左肺部モニター、ロスト!装甲貫通率80%!』
高熱が装甲を伝わり、カツオの肌を焼く。
だが、カツオは叫び声を上げなかった。
「……浅いッ!!」
カツオは、ランスが刺さるその瞬間、ほんの数センチだけ機体を捻っていた。
コクピット直撃コースを、分厚い増加装甲と左肩のフレームの隙間へ受け流す。
それは、肉を裂かれる激痛を受け入れなければできない、狂気の防御。
【拘束される騎士】
「……なに!?」
グリムは戦慄した。
手応えはあった。
だが、致命傷ではない。
そして何より――深く突き刺さったランスが、溶けた装甲と噛み合い、抜けない。
『……警告。右腕部、拘束されました。……離脱不能。……離脱不能』
システムにとって
「自ら被弾して敵を捕まえる」などという非合理的な戦術は、演算の
「……捕まえたぞ、グリム」
カツオの声が、至近距離の通信回線を通じて響く。
それは、痛みに耐える唸り声と、勝利を確信した静かな響きが混ざり合っていた。
「俺の肉はくれてやる。……だが!」
【骨を断つ】
ストライカー・カスタムの右腕が、唸りを上げた。
その手には、
グリムは見た。
頭上の採光窓からの光を反射し
鈍く輝く刃が、死神の鎌のように振り上げられるのを。
「……代わりに、貴様の
カツオは、残ったスラスターの全出力を、刀の振り下ろし一点に集中させた。
重力。
遠心力。
機体の推力。
そして、仲間の想いと自らの覚悟。
すべての「重さ」が、刃の一点に乗る。
「……よせぇぇぇぇッ!!」
グリムの絶叫。
ズガァァァァン!!!
『紫電』が、デュラハンの右肩口から左脇腹にかけてを、斜めに叩き斬った。
熱による溶解ではない。
圧倒的な衝撃波が機体を駆け抜け、内部フレームを粉砕し
装甲をひしゃげさせ、回路を引き千切る。
【崩れ落ちる亡霊】
一瞬の静寂。
そして、デュラハンの上半身が、重力に従ってゆっくりとずり落ちた。
切断面からはオイルが血のように噴き出し、
『……システム、ダウン。……パイロット生存反応、微弱』
ドサリ。
巨体が瓦礫の山に崩れ落ち、土煙が舞い上がる。
カツオのストライカー・カスタムもまた、左胸にランスが突き刺さったまま、片膝をついた。
荒い息遣いだけが、コクピットに響いている。
「……勝った、のか?」
ビッグXの声が震える。
カツオは、震える手でバイザーを上げた。
「……ああ。……怖かったか?マロン」
『……怖くないよ。……カツオ、すごかった。……絵本でみたお侍さんみたいだった』
マロンが健気に応える。
瓦礫の中で、デュラハンのコクピットハッチが火花を散らして強制開放された。
中から、負傷したグリム少佐が這い出してくる。
彼は、自分を見下ろすストライカー・カスタムと
その手に握られた『紫電』を見上げ、力なく笑った。
「……肉を切らせて、骨を断つ、か。……古臭い剣術だ」
グリムは血を吐き捨てた。
「……だが、
その言葉を最後に、グリムは意識を失った。
廃棄コロニーでの決闘は
人間の「覚悟」が、冷徹な「最適解」を打ち砕く形で幕を閉じた。