ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
廃棄コロニー「アイランド・イーズ」内部・崩壊都市エリア
土煙が薄れていく中、瓦礫の山に横たわるペイルライダー・デュラハンの周囲を
数機のリック・ドムIIが取り囲んでいた。
銃口はカツオたちに向けられているが、引き金は引かれない。
【騎士たちの協定】
「……手出し無用だ」
ハッチの開いたコクピットから、肩を押さえたグリム少佐が部下たちを制した。
「勝負はついた。……これ以上の戦闘は、無意味だ」
カツオのストライカー・カスタムもまた
左胸に突き刺さったヒート・ランスを引き抜き、動けない状態で膝をついていた。
ビッグXの【最下層】ザクが、いつでも撃てるようにカバーに入っているが
その必要がないことを空気で感じ取っていた。
「……カツオ・イトウ」
グリムが、痛みに歪む顔で笑った。
「貴様は見逃すというのか。……この私を、そしてこの機体を」
「……アンタの首を取っても、戦争は終わらない」
カツオは外部スピーカーで答えた。
「それに、アンタは『
……ただの『部品』に戻る気がないなら、行け」
グリムは目を閉じた。
「……甘いな。だが、その甘さが貴様の『強さ』かもしれん」
デュラハンは、部下のドムたちに抱えられ、ゆっくりと浮上した。
去り際、グリムは一度だけ振り返った。
「……次に会う時、私はもう『騎士』ではないかもしれん。……だが、貴様との戦いは忘れない」
グリムの部隊は、黒い霧の彼方へと消えていった。
【鉄の味】
数時間後。特務艦ボーン・ヤードのハンガー。
カツオは、ストライカー・カスタムから取り外された実体剣『紫電』の前に立っていた。
整備班が慌ただしくジムの装甲(ウェラブル・アーマー)を張り替えている横で
カツオは一人、砥石を手にしていた。
「……欠けたか」
刃の中央付近、デュラハンのフレームを断ち切った部分に、小さな刃こぼれができていた。
ビーム・サーベルなら決して残らない、戦いの「記憶」。
「……物好きなことだ」
ハンスがコーヒーを持って近づいてきた。
「今の時代、刀を研ぐパイロットなんてお前くらいだぞ」
「……この傷が、俺に教えてくれるんだ」
カツオは丁寧に油を塗り込みながら答えた。
「俺たちは生きてるってな。……ビームで蒸発して終わりじゃない。
泥臭くぶつかり合って、傷ついて、それでも残った。……その証明だ」
「……そうだな」
ハンスは、修理中のストライカー・カスタムを見上げた。
左胸のコクピットブロックには、生々しい刺突痕が残っている。
あと数センチずれていれば、カツオは死んでいた。
「……だが、無茶はほどほどにしろよ。マロンが泣くぞ」
ハロ(マロン)がプンプンと怒ったように点滅した。
『……カツオのバカ!心臓止まるかと思った!……もうしないって約束して!』
「……善処するよ」
カツオは苦笑し、研ぎ澄まされた「紫電」を鞘(マウントラッチ)へと納めた。
カチリ、という硬質な音が、ハンガーに響いた。
【墓場からの旅立ち】
補給と応急修理を終えたボーン・ヤードは
シップ・グレイブヤードを出航しようとしていた。
『……行くのか、カツオ』
通信スクリーンに、墓場の主・ハヤブサの顔が映る。
「ああ。ここでの借り(デュラハン撃退)は返したつもりだ」
『……ふん。野良犬が、いつの間にか立派な「狼」になりやがって』
ハヤブサは、少し寂しそうに笑った。
『また困ったら戻ってこい。……ここは「墓場」だ。死に損ないには居心地がいい場所だからな』
「……そうさせてもらう。だが、まだ死ぬつもりはないさ」
ボーン・ヤードのエンジンが点火される。
デブリの海をかき分け、彼らは再び広大な宇宙へと舵を切った。
【最終決戦の地へ】
ブリッジでは、今後の進路についての作戦会議が開かれていた。
シャリア・ブルが、星図盤の一点を指差した。
「……連邦とジオン、双方の艦隊が動き出している。
……『星一号作戦』。連邦による、ジオン本国への最終侵攻だ」
「ついに、決戦か」
ビッグXが息を呑む。
「……グリムの部隊も、恐らくそこへ合流するだろう。
そして、我々が追い続けている『HADES』の闇……
その全ての清算も、そこで行われるはずだ」
カツオは、窓の外に広がる星の海を見つめた。
ジャブローでの脱走から始まり、雪山を越え、砂漠を抜け、宇宙の墓場で名刀を手に入れた。
長い旅路の果てに、目指すべき場所は一つに絞られた。
「……行こう。全ての因縁が集まる場所へ」
カツオが指差した先。
それは、ジオン公国最後の宇宙要塞。ア・バオア・クーだ。
「
『アイ・アイ・サー!』
特務艦ボーン・ヤードは、最大戦速で加速した。
その先には、人類史上最大にして最悪の激戦が待ち受けていることを、彼らはまだ知らない。
(第4部:完)