ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第88話 沈黙する赤、咆哮する紫電 (The Silent Red, The Roaring Purple Lightning)

ア・バオア・クー裏側・暗礁宙域「第11区画」

 

正面のNフィールド、Sフィールドでは、人類史上最大規模の艦隊戦が始まろうとしていた。

 

だが、歴史の「影」であるカツオたちにとっては、ここが世界の全てだった。

 

 

【遺された封筒】

 

出撃直前の特務艦ボーン・ヤード、MSデッキ。

 

カツオがストライカー・カスタムの最終チェックをしていると

 

ノーマルスーツを着込んだシャリア・ブルが歩み寄ってきた。

 

「……カツオくん。少し、いいかね」

 

「爺さん?もうじき接敵だぞ。配置につかなくていいのか?」

 

シャリアは穏やかな笑みを浮かべ、懐から一通の分厚い封筒を取り出した。

 

「……これを、預かっていてほしいんだ」

 

「……なんだよ、これ」

 

カツオは封筒を受け取った。ずしりとした重みがある。

 

「私の遺言……いや、これからの『希望』についての覚え書きだ」

 

シャリアは、ストライカーの足元にいるマロン(ハロ)を愛おしそうに見つめた。

 

「……この戦いが終わり、全てが片付いたら開けてくれ。それまでは、決して見てはいけないよ」

 

「……縁起でもないこと言うなよ」

 

カツオは軽口で返そうとしたが、シャリアの瞳があまりに澄んでいて、言葉に詰まった。

 

そこには死への恐怖ではなく、やるべきことを見つけた者の静寂があった。

 

「……分かった。預かっておく。……絶対に、後で一緒に読むんだぞ」

 

カツオは封筒をパイロットスーツのポケットに押し込んだ。

 

「ああ、約束しよう。……さあ、行こうか。あの場所へ」

 

 

【厚すぎる壁】

 

ボーン・ヤードは、デブリの影から飛び出した。

 

目の前には、オーガスタ研究所のマークをつけた輸送艦と、それを護衛する精鋭部隊。

 

「……数が多い!ジム・スナイパーIIが4機に、量産型ガンキャノンだと!?」

 

ビッグXのザクII【最下層】カスタムが、弾幕に晒されて悲鳴を上げる。

 

「下がれビッグX!射線が通ってる!」

 

カツオが「紫電」を構えて突っ込むが、スナイパーたちの連携は完璧だった。

 

こちらの動きを先読みし、近づく前に牽制射撃で足を止められる。

 

「……くそッ!これじゃあ輸送艦に近づけねえ!」

 

ブリッジではハンスが舌打ちをした。

 

「敵の指揮官は相当な手練れだ。

 こちらの『個々の能力』を分かった上で、物量と連携で封殺しに来ている」

 

ボーン・ヤード自体も被弾し、シールドが限界を迎える。

 

「……ここまでか」

 

誰もがそう思った、その時だった。

 

 

【寄せ集めの意地】

 

『……ええい、何をもたついているか、馬鹿者共が!!』

 

通信回線に、聞き覚えのある怒鳴り声が響いた。

 

敵艦隊の側面に、猛烈なビームの嵐が降り注ぐ。

 

「……この声、まさか!?」

 

ヴァギーニャ大尉の駆るジム・コマンドを先頭に、見慣れた機体たちが戦場に乱入してきた。

 

『コーチ! 遅くなって悪かったな!』

 

アキラのジム・コマンドが、スナイパーIIの一機に斬りかかる。

 

『僕のEワック・ジムのジャミングからは逃げられませんよ!』

 

タカシの機体が、敵の索敵網を撹乱する。

 

『……アキラ達、相変わらず無茶ばっかりして!』

 

リツコのジム・キャノンが、正確な支援砲撃で敵の陣形を崩す。

 

「……お前たち!」

 

カツオが声を詰まらせる。

 

『ホッジポッジ(寄せ集め)隊』のメンバーだった。

 

『……フン。アキラたちが必死に訴えてきてな。

 貴様の尻拭いをするのは、新隊長の務めだと、な』

 

ヴァギーニャが鼻を鳴らす。

 

『カツオ・イトウ!貴様は本命(輸送艦)を叩け!雑魚は我々が引き受ける!』

 

「……了解!ありがとう、お前たち!」

 

 

【沈黙する赤】

 

ホッジポッジ隊の支援により、鉄壁の防衛網に穴が開いた。

 

カツオとビッグXは、その一点を突破し、輸送艦へと肉薄する。

 

「……見えた!あれがHADES-Ωの棺桶か!」

 

カツオが紫電を振りかぶった、その瞬間。

 

 

ドォォォォォォン……!

 

 

輸送艦のカタパルトハッチが、内側から吹き飛んだ。

 

爆炎の中から、ゆらりと【影】が現れる。

 

咆哮はない。

 

スラスターの噴射音すら、異様に静かだ。

 

暗い深紅の光が、装甲の隙間から脈打っている 。

 

RX-80H2 ペイルライダー・オーバーロード。

 

「……出たな、化け物」

 

カツオが身構える。

 

だが、オーバーロードはカツオを見なかった。

 

ただ「邪魔だ」と認識したのか

 

近くにいた味方のジム・スナイパーIIの背後へ、瞬きする間の速度で移動した。

 

ズボッ……

 

素手で、味方のコクピットを貫いた。

 

そのままスナイパーIIを盾にして、ホッジポッジ隊への砲撃を防ぐ。

 

「……なっ!?味方を!」

 

アキラが絶句する。

 

『……効率的だ。ホッジポッジ隊は無意識に、同じ連邦兵へのダメージを避けていた』

 

シャリア・ブルが、青ざめた顔で呟く。

 

『……あれには、敵も味方もない。あるのは「障害物」と「標的」だけだ。

 ……感情がないから、迷いもない』

 

 

【虚無の中の知己】

 

カツオは、その機体の動きに既視感を覚えた。

 

無駄のない足運び。

 

関節の可動域を極限まで使った格闘術。

 

それは、かつてシップ・グレイブヤードで剣を交えた、あの男の動きだった。

 

「……グリム、少佐なのか?」

 

カツオが呼びかける。

 

だが、返答はない。

 

オーバーロードの頭部センサーは

 

まるで死んだ魚の目のように、ただ一点を睨みつけて固定されていた。

 

『……カツオくん、聞こえるか』

 

シャリアの声が震えている。

 

『……中には、誰もいない』

 

「……え?」

 

『……肉体はある。だが、意識がない。

 ……彼の「技量」と「殺意」だけがデータとして抽出され

 システムの中で永遠に再生されている。……あれはもう、MSじゃない。

 生きた人間の部品を使った、呪いの鎧だ』

 

グリム・ローゼン少佐は、HADES-Ωと融合し、不可逆の領域へと踏み込んでいた。

 

彼はもう、怒りもしなければ、笑いもしない。

 

ただ、カツオたちを「処理」するためだけに存在していた。

 

「……そんな……。そんなことがあってたまるかよ!」

 

カツオの叫びに呼応するように、オーバーロードがゆっくりとこちらを向いた。

 

敵意の数値が固定される。

 

直感が告げる。

 

【あれは、止まらない】

 

ア・バオア・クーの裏側で、救いのない最終決戦の幕が上がった。

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