エルドラは浪漫
──とあるファイターの口癖
茂札普夫はどこにでもいる平凡な高校生である。
彼はバイト先であるホビーショップMeeKingで働いているが、今日は平穏な一日で終わりそうであった。
店にいる客数もまばら、間もなく閉店という時間帯、手持無沙汰になった店長が飲食用休憩エリアの掃除に先行着手してしまおうかと悩み始めたころ。
レジ番をしていた茂札はカウンターから出て、すぐ横にあるシングルカードの棚に取りついた。
「今日はそこそこ売れたな」
この店のシングルストレージには、たまにショーケースで飾るべき性能・値段のカードが埋もれていることがある*1。
これは店長が意図的にやっていることで、客を店に呼び込む施策の一つである。こうしてお宝カードを入れておくと、宝探し感覚で常連が定期的に来店してチェックしていく。ごく稀に、ユウキのようにデッキまるごと1個分をまとめて買っていく客もいるが、それはレアケース。
基本的に、客はシングルカードの入っているストレージボックスを棚から取り出して、ストレージにつまっているカードを取り出して1枚1枚チェックし、チェック済みのそれらをストレージに戻し、ストレージ1本を見終えたらそれを棚に戻して、隣りにあるストレージを引っ張り出して、を繰り返す。
そのため、棚に戻されたストレージは微妙に乱雑に配置されている。茂札は己の美意識に従って、ストレージをきちんと並べ直す。
「おや?」
誰かがストレージで見つけたシングルカードを購入するために一時的に取り避けて、そのまま買い忘れてしまったのだろうか。ストレージコーナーに1枚だけ置き捨てられたカードを見つけ、茂札はそれを手に取った。
「ふぅむ…… 値段シールが貼られていないから、ストレージ商品ではない? でもこのスリーブには見覚えが……」
そのカードは、ショーケースで5万円くらいの値付けがされていてもおかしくない、ゲームの勝敗を決定づける
そこでふと閃いた茂札は、お店のレンタルデッキ*2が置いてあるところに足を運んだ。
「やっぱり」
レンタルデッキの一つを手にして確認すれば、同じスリーブでデッキテーマも合致している。ここから零れたと判断して良いだろう。
「でも、こんな強カード、レンタルデッキに入れたっけ?」
お店で用意したレンタルデッキは、基本的にコモンカードだけで組んでいる。ストレージにお宝カードをたまに差し込むように、ちょっとだけアンコモンを入れることもある。だが、レアカードは基本的に入れない。この世界、前世のカードゲームでなら10円で叩き売りされるようなレアでもウン千円の値が付くから、布教・体験用に用意して紛失盗難が発生したら
「どうしました?」
彼が考え込んで動かなくなったので、もう一人のMeeKingバイト店員であるサレン=アンダー*3が近寄って声をかけてきた。
「ああ、レンタルデッキに入れた覚えのないカードがあってね」
彼が手にしている問題のカードを見せると、彼女はそれのテキストにさっと目を通しただけで、こともなげに頷いた。
「きっと、そのカードの精霊がレンタルデッキに入りたがっているんです」
「?」
茂札は予想外のサレンの回答に目を丸くしたが、この世界はカードゲーム販売促進アニメの世界だから、そういうこともあるかと無理やり疑問を飲み込んだ。
そこへ、店長がパンパンと手を叩きながら二人に割り込んできた。
「そういうことなら、二人でそのレンタルデッキを使ってゲームをしたまえ! そのカードが使われたがっているなら、使ってやれば御霊を鎮めることができる!」
妙にテンションが高い店長が普段と異なる口調でノリノリだ。茂札は予想外の出来事にあんぐりと口を開けたが、店長のノリがサレンに染ったようで、サレンもやる気バリバリだ。
なんだろう、これ。デッキ共鳴率の高い人はカードの精霊に影響されやすいとか、そんなんだろうか? だって、この世界はカードゲーム販売促進アニメの世界だから(以下略)。
「よし! 今日はもう閉店にしよう! おら、お前ら、さっさと帰れよ!」
「店長、それは殺生なー。御霊鎮めの儀をこの目で拝めるなんて、めったにないことなんだから、お願い!」
「うぬ、なら未成年はとっとと帰れ。成年は居残りを許すが、観戦料としてなんか買ってけ。自販機のジュースでもいいぞ」
「さすが店長、話が分かるぅ!」
まもなく閉店という時間だったので、少しだけ早じまいすることに異論はない。だがわずかに残っていた常連が店長に反論し、あれよあれよと言う間に話が決まっていく。
なお、茂札は高校生なので未成年のとっとと帰れ組に分類されるのだが、そんなことはお構いなしだ。
「レンタルデッキ同士の勝負でいいでしょう。お互いにこのデッキを握り、先手後手や相手のデッキを交換して、御霊を満足させるまでこのデッキを味わい尽くすのです」
目を白黒させていた茂札だが、もうどうにでもなれとやけっぱちになった。
*
「先手の第1ターンなのでメインデッキのドローはスキップ、ライフデッキからドロー。土地をステイ状態で出してエンドです」
サレンの先手で始まったゲームは、静かに滑りだした。
<影に飲み込まれた地> コストなし 土地 - エルドラ |
これはステイ状態で戦場に出る。 起動:戦場に出ているエルドラ土地の枚数に等しい数のコストを生み出す。 |
「追加エキスパンション【久遠の闇】の収録カード、もう5年か6年たつのかな?」
茂札は出されたカードを見て軽く目を細め、懐かしむように言った。
だが彼は内心で大いに焦っている。このスタートは、彼女が握っているエルドラデッキのブン回りパターンだ。
「こちら、レディ・アップキープ・メインデッキから1枚ドロー。ライフデッキから土地1枚をコストゾーンにセット。コスト1で<受粉ゴブリン>*4を唱えます」
「何もありません」
「ではターン終了です」
使い慣れたゴブリンデッキを握っている茂札も、出だしは上々。ステイすると追加でコスト1を生み出せるクリーチャーは、前世でも現世でも『すぐに焼け』と言われる*5くらいに重要だ。
「ターンを頂きます。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて、ライフから1枚土地をセットして、<影に飲み込まれた地>のコピーになります」
「げ」
<物真似師の聖地> コストなし 土地 |
あなたはこれを、既に戦場に出ている土地カード1枚のコピーとして戦場に出してよい。そうした場合、これはステイ状態で戦場に出る。(コピーしない場合はレディ状態で出る) |
エルドラデッキのブン回りパターンにハマりつつあることを悟った茂札の口からうめき声が漏れた。だが彼はそれ以上の醜態を晒さぬと気合いを入れなおし、意図的に穏やかな声を出して昔語りをする。
「【久遠の闇】から2年後くらいだっけ。まったく関係ない追加エキスパンションで、突如としてエルドラの必須パーツともいえるそれが世に出て、エルドラ使いが狂喜乱舞したらしいね」
「キーカードの<影に飲み込まれた地>が実質2倍ですからね」
サレンもそれがギャラリー向けの解説も兼ねていることに気づき、話に乗ってきた。
「1ターン目に出した<影に飲み込まれた地>をステイしてコスト2、瞬間魔法<双雷>*6を今のうちに唱えます。対象は<受粉ゴブリン>と私に1ダメージずつ」
「相手のコスト加速を妨害しつつ、自傷ダメージで自身はコスト加速。これはキツい」
茂札は<受粉ゴブリン>をそっと墓地に置き、サレンはライフデッキの一番上を公開する。
「<物真似師の聖地>ですね、<影に飲み込まれた地>のコピーとして戦場に出ます」
これには茂札も表情を抑えきれず、思わす口を尖らせる。二人を取り巻くギャラリーもざわざわし始めた。
「おい、<影に飲み込まれた地>ってエルドラ土地の数だけコストを産むんだろ? 自身がエルドラのサブタイプを持っていて、それが3枚並んでいるってことは」
「1枚から3コスト、それが3枚。次のターンにセットする土地も含めて、先手3ターン目に10コストだと?! これがエルドラ?!」
実に見事なブン回りである。茂札は諦めそうになる自分の心に喝を入れて、デッキに手を伸ばした。
「ターン貰います。レディ・アップキープ・メインデッキから1枚ドロー。ライフデッキから土地1枚をコストゾーンにセット。コスト2で<爆産ゴブリン>*7を唱えます」
「何もありません」
「ではターン終了です」
「こちらのターン。レディ・アップキープ・メインデッキから1枚ドロー。ライフデッキから土地1枚をコストゾーンにセット」
<影に蝕まれた寺院> コストなし 土地 - エルドラ |
(特殊能力なし) |
何の変哲もない、単にエルドラのサブタイプがついただけの土地。サレンは優雅な所作でそれをレディ状態でコストゾーンに置いた。
「エキスパンション【次元侵略者たちの衝突】だったかな? 【ヴァニシング・ブロック】でゴブリンプラントの次元侵蝕がメインストーリーとして語られる*8など、他次元からの侵略者はLife世界において珍しくない。それら次元侵略者たちをテーマとしたエキスパンションで、エルドラデッキが得た最大の戦果」
「見た目は地味ですけどね。それまでエルドラのサブタイプがある土地は<影に飲み込まれた地>と<物真似師の聖地>の2種、そこにこれが加わり3種9枚がライフデッキ20枚の約半数を占めるようになりました」
サレンは歌うように宣言する。
「<影に飲み込まれた地>1枚から4コスト、それが3枚で12コスト。今置いた<影に蝕まれた寺院>から1コスト、合計13から3コスト浮かせた状態で── 今、御霊はここに顕現す」
<歪んだ解体者 コーシ> コスト10 唯一無二のクリーチャー - エルドラ・タイタン 10/10 |
このカードを手札から唱えたとき、あなたの手札がゲーム開始時上限枚数より少ないなら、その枚数になるまでカードを引く。 このカードが戦場に出たとき、すべてのクリーチャーにそれぞれ9ダメージ与え、すべてのファイターは土地を9つ生贄に捧げる。(コントロールしている土地が9枚未満ならすべての土地を生贄にする) このカードがあらゆる領域から墓地に置かれるとき、代わりにこのカードをライブラリーに混ぜてシャッフルする。 |
「先手3ターン目に10/10は普通の人間にできることじゃないよ。コーシの加護でもいただいたの?」
「ええ、一時的にではありますが。御霊鎮めの儀の間だけ巫女を務めさせていただいております」
サレンのドヤ顔は珍しいな、茂札はそう場違いなことを思いながら、両者は淡々と処理を進める。
唱えた時点でカードを引く効果が誘発し、サレンが手札上限7枚になるようにメインデッキからドローする。これはコーシが打ち消されたとしても二の矢を充填できる、優れた効果だ。
次にコーシが戦場に着地し、爆産ゴブリンとお互いのすべての土地が墓地に置かれる。盤面をリセットした後に10/10が残る、レアに相応しい挙動である。
「爆産ゴブリンが墓地に置かれたので、ゴブリン・トークンを生成します。ああ、これが墓地に落ちたときに1ダメージ飛ばすゴブリンだったならなぁ」
コーシも無敵の存在ではない。戦場に出たときの9ダメージは自身にも与えられるので、もう1ダメージあればコーシは盤面から退場する。コーシが唱えられた時点で土地からコストを出しておき、着地後に浮かせていたコストを使って火力呪文をコーシへ投げつけるのは、よくあるパターンだ。
「
「土地のリカバーも万全、と。参ったねこりゃ」
<荒地の再生者> コスト3 クリーチャー - エレメンタル 2/2 |
このカードが戦場に出たとき、あなたの墓地にある土地を最大3枚、ライフデッキの一番上か一番下に好きな順番で置く。 |
戦場に出たとき最大3ライフ回復する、相手のライフを削ることに直結しないのでどちらかというと後ろ向きなカード。
ただし盤面リセットを掛けて土地が吹き飛んだこの状態ではフィットしている。こちらが仮にコーシを討ち取れるとしても、それに掛かりきりになっている間に向こうは土地基盤を再び整えられるからだ。
サレナが荒地の再生者の効果で土地をデッキに戻し、ターンエンド。
「レディ・アップキープ・ドロー。何か引け! うーん、そういや俺、このデッキの内容知ってるからあのデカブツへの打開策ないわ。無理です、投了します」
<辺境への流刑>*10のような、低コストでクリーチャーを対処できるカードがあればまだ勝負は分からないのだが、そのような『お高い』カードはレンタルデッキに含めていない。
茂札も、これが御霊鎮めの儀と仰々しい名前でも実質はフリープレイだからと、割り切って肩肘張らないフランクな態度だ。
「対戦ありがとうございました」
二人は互いにぺこりと頭を下げ、決着がついたことで固唾を飲んで見守っていたギャラリーたちも緊張がほどける。
「あれがエルドラ…… 恐ろしい子!」「凄いな、ああいうのを見ると、俺もエルドラデッキを握ってみたくなる」
うんうん、布教という意味でも御霊にご満足いただけているようだ。茂札とサレナは互いに目配せして、順調に儀式が進んでいることを確認する。
とはいえ、この一戦だけで御霊が完全に鎮まったわけではない。儀式はまだまだ続く。
「では互いにデッキを交換して、二戦目やろうか」
今度は茂札がエルドラデッキを、サレンがゴブリンデッキを握ってまずはしっかりシャッフル。そして新たなゲームが開始される。
「レディ・アップキープ・メインデッキからドローはスキップ、ライフデッキから土地1枚をコストゾーンにセット」
茂札がめくった土地は<影に飲み込まれた地>ではなく、通常の土地だった。まあライブデッキ20枚のうち<影に飲み込まれた地>3枚を引ける確率は15%なので当然と言えば当然である。
「コスト1で<エルフの道探しの儀式>を唱えてターンエンド」
<エルフの道探しの儀式> コスト1 魔法カード |
あなたのライフデッキの上3枚のカードを見て、それらを好きな順番で並べ直す。 |
エルドラデッキは高コストのカードを叩きつける爽快感が売りで、その高コストを賄うキーパーツが<影に飲み込まれた地>である。
ライフデッキ20枚でそのうち<影に飲み込まれた地>は3枚、理論上は上7枚にアクセスすれば1枚の<影に飲み込まれた地>は見つかる計算である。
茂札はライフデッキの上3枚のカードを見て並べ直した。1コストで通常ドロー3ターン分の土地のうち最良を選べる、初動としてはかなり良い動きである。
「ターンを頂きます。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて、ライフから1枚土地をセットして、コスト1で<受粉ゴブリン>。ターンエンド」
サレンはゴブリンデッキ定番の動きでコスト加速する。茂札は目を伏せて祈るようにしながらカードを引いた。
「レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて、ライフから1枚土地をセット。<影に蝕まれた寺院>をコストゾーンへ出します」
前ターンに見た3枚のうち、エルドラ土地はこの1枚だけだった。まあ確率通りの範囲内である。
先程サレンにされたように、ここで受粉ゴブリンを焼いて相手の出鼻をくじくのがベスト。だがメインデッキから引けなかった。それでも次善の策ともいうべきカードが引けたので、悪くない流れである。
「コスト2で<荒野の探索者>を唱えます。<影に飲み込まれた地>をサーチしてデッキトップへ。何もないならターンエンドまで」
<荒野の探索者> コスト2 クリーチャー - エルフ 1/1 |
これが戦場に出たとき、ライフデッキから土地カード1枚を探し、公開する。ライフデッキをシャッフルし、その後それをライフデッキの一番上に置く。 |
「おいおい、これじゃエルドラじゃなく、まるでエルフデッキじゃないか」
「迷彩ってやつ?」
ギャラリーが好き勝手に囃し立てているが、さもありなん。
エルドラデッキはコスト基盤を<影に飲み込まれた地>に依存しているが、それを手早く展開するためには、エルドラと無関係のカードに頼るしかない。このレンタルデッキでは、土地をメインテーマにしたエキスパンション【花盛りの森】から低コストのライフデッキ操作系カードをいくつか採用している。とはいえ先のゲームで使った<荒地の再生者>がエルフではないように、エルフはこのデッキのサブプランになっていない。レンタルデッキではなく真面目にデッキを組むのであれば、そのアイデアも悪くないのだが。
「ターンを頂きます。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて、ライフから1枚土地をセットして、コスト3で<ゴブリンの若頭>。ターンエンド」
<ゴブリンの若頭> コスト3 クリーチャー - ゴブリン 1/1 |
これが戦場に出たとき、1/1のゴブリン・トークンを2体生成する。 |
Lifeのクリーチャーは、コストに応じたパワーとタフネスというものがある。*11。
コスト3なら3/3が基準だが、これは1/1と低く、しかし生み出されるトークンを合計すれば3/3と標準値。1体1体は弱いが横並べに優れるというゴブリンの特性を端的に示すカードだ。
「こちらのターン。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて、ライフから1枚土地をセット。<影に飲み込まれた地>がステイ状態でコストゾーンに出ます」
デッキがネタバレしているのでサレンが警戒して迂闊に殴って来ず、ダメージを負わない代わりに土地も増えないというスローテンポな試合展開。ここでようやく<影に飲み込まれた地>1枚目がステイ状態で出て、先手3ターン目にコスト2しかないのはエルドラデッキでなくても苦しい状態だろう。
しかし、茂札に取って見た目ほど悪くはない状況と感じていた。
「コスト2で<精神の貴石>を唱えます」
<精神の貴石> コスト2 秘宝 |
起動:コスト1を生み出す。 これを生贄にする:カードを1枚引く。 |
コスト加速の置物で、コストが余る後半になったらドローに変えてしまえば良いし、<歪んだ解体者 コーシ>でリセットしてもこれは盤面に残るのでリカバリーしやすい。
これで、次ターンに土地をセットして6コストに届く。そうなれば高コストのエルドラカードを引いた順に叩きつけるだけ。茂札の脳裏に勝利の道筋が見えてきた。
「ターンを頂きます。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて、ライフから1枚土地をセットして、コスト2で<放火範ゴブリン>*12。<影に飲み込まれた地>を破壊します」
「え?」
茂札の脳裏に浮かび上がったはずの勝利の道筋はするっと消え去った。
今や、彼のコスト基盤は土地2枚と秘宝1枚の計3コストしかない。次ターンに土地1枚増えても4コストで、出そうと目論んでいた6コストカードが3ターンも遠のいてしまった。
「こちらのターン。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて…… うげっ。ライフから1枚土地をセットしてターンエンド」
ここでメインデッキからドローしたのは御霊である<歪んだ解体者 コーシ>。『どや? 4ターン目ならそろそろ我の唱えどきやろ?』と言う幻聴が茂札の耳を横切っていった。
「ターンを頂きます。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて、ライフから1枚土地をセットして、コスト5で<ゴブリンの奇術師>」
「あっ、これ、終わったかも」
<ゴブリンの脱出奇術師> コスト5 クリーチャー - ゴブリン 1/2 |
ステイ、あなたがコントロールするゴブリン1体を手札に戻す:対象に、手札に戻したゴブリンのパワーの半分(端数切捨て)の値のダメージを与える。 |
クリーチャーが戦場に出たときの能力を使い回す目的で入れていた<ゴブリンの脱出奇術師>と、<放火範ゴブリン>が見事なシナジーを形成している。
これから茂札の土地は毎ターン1枚ずつ割られていき、毎ターン1枚ずつライフデッキからセットするのとプラスマイナスゼロでコストはこれ以上伸びない。
「不味い不味い、<双雷>で土地破壊サイクルを止めるか、<精神の貴石>で土地以外の加速をしないと、何もできずに終わる。レディ・アップキープ・ドロー。メインから1枚引いて…… 嗚呼」
茂札がドローしたのは、高コストのエルドラカードだった。彼の手札にいるコーシが、『我の呼び出し準備が整っていないとはどういうことだ!』と怒っているように見えたのだが、それは夜とLED照明の光の具合が見せた幻覚かも知れない。
数ターン後、茂札は土地を割られ続けライフデッキが半分ほどになり、サレンの場にはゴブリンがぞろぞろ並んで、次のサレンのターンの一斉攻撃で決着がつくという状況になっていた。
「レディ・アップキープ・ドロー。これが最後のメインドロー!」
結論から言えば、コーシの怒りはまったく治まっていなかった。茂札は無駄ヅモばかりでなにもできず、ギャラリーの面々はみな土下座してぷるぷる震えている。
「御霊よ、鎮まり給え。どうか、どうか……お願い申し上げる!」
「誰か、コンビニにひとっ走りして酒買ってこい! お神酒だ、お神酒をお供えするのだ!」
「店長、エキスパンション【久遠の闇】って在庫あります? こうなったら御霊を鎮めるもう一つの儀式、パック開封の儀しかありません」
「あわわわ……」
店長は腰を抜かして、レジカウンターの後ろで泡を吹いて半失神状態だ。この状況で平然としているのは、対戦している茂札とサレンの二人だけ。ただしこの二人も冷や汗をかいている。
茂札は諦めて投了しようとして、ふと閃いた。
『ここで投了せずにターンエンドを宣言して、手札上限オーバーだからとコーシ様を捨てたら…… いや、止めとくか』
わざわざ虎の尾を踏みに行くことはない。茂札は首を軽く振って、ふと湧いた悪戯心を振り払った。
「投了します、負けました。さて、感想戦ですが」
「そちら、ライフデッキの並び順を操作するカードはたくさんあるけど、直接土地を増やすカードはないから、毎ターン土地破壊は厳しいよね」
「ある程度ダメージ喰らって土地増やすのが基本ルールですからね。積極的に殴ってこない相手だと3~5コストが勝負域になるのですが、このデッキは6コスト以上を叩きつけるようにしていますから」
「レンタルデッキだと、不利をカバーするより有利を押し付ける構築だよね」
「そうですね。有利な点を強調して一見さんに『こんなデッキテーマがあるんです』って知ってもらうためのものですから」
これで御霊の機嫌が少しでも和らいでくれれば良いのですが。
<終>
コーシ様、ぶっちゃけフィニッシャーとしては格下なんですよね。
除去耐性ないし、チャンプブロックで耐えられるし。コスト10なら唱えたそのターンに勝利確定して当たり前。
コーシ様の役割ってコスト6~7のクリーチャーでやってることなんですよ。