中盤でグロ表現あります!ご注意ください!
花が咲いている。
赤、黄、紫、白。
緑の絨毯の上に咲き誇る花達は己が大輪の花である、と主張するかの様に生命を謳歌していた。
「〜〜〜♪」
鼻歌混じりに水をやるのは一人の
襟元まで伸ばされた髪が彩る美しき
最近手に入れた
「アナト様ー!」
「はーい!どうしたんですかー?」
狂い咲けよと命ぜられたかの様に花に満ちる庭に響く来客の声に、
「でかい獲物が獲れたんでさぁ!
「わぁ、素晴らしいですね!仕留めるには一苦労でしたよね?」
狩りの成果たる丸々とした猪を携えた猟師の一団と、それを迎える花愛でる君。
その関係には確かで朗らかな敬意が有った。
では彼女は村長なのか?姫君なのか?或いは国主?
──
「
「…………!それは良かったです!解体も頑張って下さいね!」
「気合い入れてやりまさぁ!なぁ?」
「「「女神様の為にー!」」」
彼女は
下界を創り、下界に降臨せし【
老いず、朽ちず、幾百年の時を子供達と過ごす。
偉業を称え、未知に歓喜し、物語を記す者。
その
『花の女神アナト』とこの村の人々は彼女を呼んでいた。
「ふふっ、期待してますよー?」
「一番良いとこ持っていかせまさあ!」
長年村に居付き、時に新たな知識を齎し、時に子供達の面倒を見、時に老人を助け起こす。
下界に降りた神々が交わす『契り』こそ交わさないものの、その優しさは信頼を以って人々に受け入れられていた。
アナト様は慈愛の女神だと人は言う。
「…………
前庭から猟師達が立ち去り、アナトは独り裏庭に佇んでいた。
彼女が暮らす小さな家の前庭は様々な花に彩られ、華やかさ、輝かしさに満ちていた。
──しかし裏庭の趣はがらりと変わる。
咲く花の種類はただ一つ。
血筋を
時に不吉と恐れられる細やかな花、その群生は静謐な美しさを裏庭に齎していた。
「……うーん、五百年は過ぎて……、千年は超えない……、……うーん」
そんな静けさの中、アナトは知識を思い出せない学者のように、或いはおつかいを思い出せない子供のように記憶を捻り出そうとしていた。
千年前から続く神の降臨の中でも初めの方に下界に降り立った彼女は余り正確にものを覚える
「まぁ、なんにせよもう行きましょう!あの子も待ってます!」
そしてあっさり思い出す事を放棄し、古くからの『約束』を果たすべく行動する事を決めた。
「
村人が聞けばぎょっ、とする様な言葉を愛らしさを宿した美貌から口にしながら。
……その晩、アナトは『約束を果たす時が来ました!』と百年以上居着いたこの地域を離れる事を宣言し辺境に位置する村の全てを驚かせた。
やがてその衝撃は近隣の村の全てに届き、女神の旅立ちを祝うべく素朴ながらも盛大な宴が七日七晩開かれ、感極まった人々の涙と共に彼女は盛大に見送られるのだった。
そういえば行き先を聞いていないぞ、と誰かが気付くのはまた別の話である。
脳漿、内臓、血、血、血、血。
死した躯を葉茎とし、争い傷つき怯え殺され絶望した跡を彩る色彩を
……それは酷く、或いは極めて悪趣味な喩えと捉えられるのだろうが。
「〜〜〜♪」
鼻歌混じりに剣を拭くのは一人の
愛らしくも美しき
……しかし彼女が一番好む
「アナト様」
「ん、終わりましたか?」
血に狂わんばかりの殺戮の跡、折り重なる死体の山に座る
「ええ、皆殺しにして来ました。
「えーっ!ずるいですウディカ!私も混ぜてくださいよ〜!」
「フォモールやらスパルトイやらですよ……、危険には晒せませんって……」
雑に切った髪に片目を遮る帯、黒染めの衣服と手にした武器。只者とは思えない気配ながらもどこか苦労性な気配を纏った報告者がそこに居た。
駄々っ子の様にねだる
その関係には気安さと親しみがあった。……それが『殺し』の話で無ければ。
村長が見れば逃げだすだろう。姫君が見れば悲鳴を上げるだろう。国主でさえ眉を顰めずには居られないだろう。
──この二人にとって、いずれも知った事では無いだろうが。
「『女神第一』がこのアナト・ファミリアの掟ですよ〜⁉︎」
「一度殺されれば戻れないんでしょう?ならば明らかな危険からは遠ざけるのが『
「む〜!」
子供の様な態度の彼女は
全知全能の身にあれど、下界に降りれば零能の身。
【
致命の怪我を負えば損傷の為に
だから人に『恩恵』を与え、眷族とし、戦いを代行させるのだ。
──だと言うのに自ら殺す。
人並みでしかない筈の身体で殴り殺す、叩き殺す、刺し殺す、切り殺す、引き裂き殺す。
殺されまいとする子らの必死の抵抗を呑み込みながら。
殺さんとする
「だって
「……それ、
「
「…………」
神の
『殺戮の女神』と人は呼び恐れる。
「いつ何処でどんな目に遭おうが
「…………で、その大バカ野郎が殺せるってなったら殺すんでしょう?」
「え?当たり前じゃないですか?」
「………………貴方って
神は彼女を『あいつマジでやべえ』『最高に狂ってる』『えっ、あいつ下界するって……?マジ……?』『えっ、あいつ
「じゃあウディカはどうするんです?そんな最高の
「冗談言わないで下さいよ、
「
当然、彼女の眷族もまともではない。
万の
仕掛けられた
後に『原初の闇派閥』とまで呼ばれ【
「まぁとにかく
「ええ、
──来し方から行く末まで、その道程は血と殺戮が彩っている。
『ウディカ!ウディカ!死なないでください!』
『私、達は、また
『
『…………前に『誰一人、かけがえがなくて大切だから
『……………………、……そんな切り刻んで引き裂いても返り血も出ないような悪疫なんて情けない死に方しないでください。殺されるなら私に引き裂かれて溢れるように血を浴びせてからにしてください。もっともっともっと殺してから死にましょう。……こんな褥でちょっとの
『……………………だから、もうちょっと
『──ああ、
『……死ぬ時は言ってください。貴方の死に様にはとても足りなくて申し訳ないですけど、せめて私の血に塗れて一緒に天に昇りましょう』
『……貴方が
『…………………………………………。…………はい、まだまだ
『そんな申し訳ない顔しないでくださいよ、血でも花でも殺戮だろうと慈愛だろうと、求めるままの貴方だから……、……ゴボッ、ゴボッ!』
『ウディカ⁉︎』
『……貴方は、貴方の、思うままに……。如何な患難、如何な漂白があろうとも、……姿も、思いも、……恩恵さえ異なろうとも、……この魂は、貴方の元に……』
『ウディカ……』
『…………私の迂闊さが、貴方を傷付けた、らしい。だから今すぐに、とは、言いません……。……
『……はい!幾星霜経ようとも!また一緒に
『……、……ふ、……ふっ、楽しみだ……。……………………、……ぁと、こっちで、……ったら、『たぃ異常』を、勧え……、て……………………』
『……………………はい!こんな死に方するのは
「……どっちが子供か、分かりませんね」
ふふっ、と風のそよぎと同じように
愛しい眷族の死は幾百年と経ってようやく癒えるだけの傷を彼女に刻んでいた。
それだけウディカという人間はアナトと波長が合い、相性が合い、気が合っていた。
あれからすぐは誰一人
それから何百年と、殺戮からは遠ざかり──
「──女神様ぁ!これ以上は見つかっちまいやすぅ!」
「はーい、ここまででいいですよ〜!」
──漸く、約束の為に動いていた。
ここは大陸南方。
緑犇く大樹林、それは数多の資源を包容する宝の園。
種々の効能を宿した枝葉・樹皮・果実・蕾花・幹根を持つ植物の数々、地にどっさりと埋まる貴石や金属、他に無い珍奇で興味深い生態を持つ生物達、飢える事を知らない正に楽園の様相──。
──だがこの楽園を誰も切り取らない。
この密林は、地獄だ。
千の軍勢が瞬く間に死滅し、昇華した眷族が嬲り殺しにされ、解体されて晒される。
猛獣が、肉食植物が、軍勢蟲が、そして人類が、飢えないだけでは足りない、そう言わんばかりに奪い合い、争い合い、殺し合う。
故にここは“
周辺各国から不可侵地域と定められた、下界屈指の人為的危険地帯である。
「──それじゃあ、ありがとうございましたー!」
「ほ、ほんとに行くんでやすか、女神様っ⁈あいつら神様でも殺して晒し首にするって噂でやすよ⁉︎」
──そんな危険地帯にアナトは整備されたリゾート地を観光するかのような気軽さで踏み込もうとしていた。
当然の事ながら周辺の住人にとって、“騒擾の密林”は恐怖の象徴。まだ遠くにその樹冠が見える程度の距離であっても寄り付こうとはしない。
そこまでアナトを運んで来た川漁師も妻と母が大病に罹り、金が必要でなければ決して近付かなかっただろう。
「大丈夫ですよ!どんな子供でも
「そ、そうでやすか」
無知にしか思えない行為を心配する川漁師はしかし、面食らわされた。
朗らかに愛を謳う女神に己の方が無知であると言われたかのように感じたのである。
「それにもう、待ち切れないんです」
血。
肉。
死。
「──それじゃあ!■■■■ちゃんと■■■ちゃんをちゃんとお医者さんにかけてあげるんですよー!」
「は、はいぃい‼︎」
川漁師は必死で声を上げた。
そうしなければ目の前のバケモノに殺されてしまうと思ったから。
「ひっ、ひぃ、ひぃ……」
恐ろしかった。……恐ろしかった。
あの一瞬、ぐちゃぐちゃの、血塗れの肉が、抑え切れない殺戮の喜悦で嗤っていた。
あれは女神なんかじゃない。
“騒擾の密林”に相応しいバケモノだ。
妻と母の名前を聞き取れなかった。
あのバケモノに家族の名前を覚えられてるという現実を身体が受け入れなかった。
「…………、ひぃっ‼︎」
川風が背筋を冷やす。
……川漁師は恐ろしい事に気付いてしまった。
あのバケモノは自分が金が居ると見越して運び屋を頼んで来たのではないかと。
相応しい寝ぐらへの足として。
「ひいっ‼︎」
櫂を立てて、一目散に逃げ出した。
あの密林が、膨れ上がる恐怖に駆られて。
……女神は再び、殺戮の舞台に降り立った。
アナト・ファミリア
…もしもオラリオに居たら殺戮数のトップランカーになっていた。
幸いか災いか当時はオラリオ以外にもモンスター・人問わず殺す相手には事欠かなかったのでそうはならなかった。
アナト
…最強の戦士なんてお上品なものを求めるカーリーとは気が合わない。殺し合う。
眷族の死に落ち込んでる間に殺しがいのある奴は少なくなってしまった。
ウディカ
…死後、その魂は徹底的に漂白される。